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競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

キリン/アサヒ社長対談と独禁法(2)シェア配分カルテルや価格カルテル

公正取引委員会 独占禁止法 カルテル アサヒビール キリンビール

前回記事

キリン/アサヒ社長対談と独禁法(1)記事の概要 - 競争政策研究所

の続きです。

 

対談記事名には「もう無益なシェア争いはしない」とあります。対談の中で「シェア争いはしない」とお互いに明示的に合意したのかまではわかりませんが、

「シェア争いでは飯が食えませんよね

「シェア競争から脱し価値競争に移行することで適正な利益を得る。」

「シェア競争という負の遺産

 といった発言はあったようです。

また、最後に

2人 業界を魅力的な市場にすべく、頑張りましょう。

と締めくくっています。

途中ではビールの社会的な意義の話題もありますが、「魅力的」とは両者にとってシェア争いや価格競争が限定的で、利益率が高い市場とも繋がり得るものです。

 

ところで、この対談はシェア配分カルテルやその一部を構成することはないのでしょうか。

 

そもそもシェア配分カルテルは必ずしも事例が多いものではありません。しかし、近年でも、ダクタイル鋳鉄管シェア配分カルテル事件の判決がありました。*1

同事件では課徴金も賦課されておりますし、一般的にもシェア配分カルテルはハードコアカルテルに該当すると整理されています。

 

ダクタイル事件では、違反行為者3社で商品のほとんどを占めていたようです。

ビール業界では、ビール系飲料(ビールと発泡酒第三のビールの合計)のシェアでアサヒが38.2%、キリンは33.4%で合計70%を超えるシェアとなります。*2

ダクタイル事件には及ばないとしても、合計70%のシェアがあれば、競争を実質的に制限できる可能性は十分あると考えられます。ただし、一般論としてはサントリーやサッポロの行動や姿勢も影響すると考えられます。

また、インタビュー記事では、磯崎功典キリンホールディングス社長が次のような発言をしています。*3 

 各社の経営者が、現状に危機感を抱いています。会合の場で顔をあわせると、「何とかなりませんかね」と話題になることもありますよ。(中略)

 談合するわけではないのですが、「シェア争いで利益は生めないよね」というムードは醸成されています。

 

アサヒ・キリン以外の会社がシェア配分の合意に加わることや、積極的に競争に出ないこともありそうです。

 

また、シェア争いとも関係しそうですが、販売促進費について、同じ記事で磯崎社長から次の発言があります。

-(前略)(前の対談で)「もう無益なシェア争いはしない」と断言されましたが、実際には、販売促進費の抑制は進んでいないのではないですか。
 まだ現場レベルには浸透していません。激しい争いが行われている店頭では、お金を使っています。

インタビュアーがシェア争いをしないことの意味を販売促進費の抑制と示し、それを前提として磯崎社長が販売促進費の抑制の進展がないことを回答しています。

 

対談記事でも下記の発言がありました。

布施 うん。シェア争いではもう飯が食えませんよね。市場が縮小している中で、行き過ぎた水準の販促費を掛けてシェアを取りにいく。こうなると利益が目減りして、縮小均衡パターンになって誰も幸せになりません。

 

対談において、「シェア争い」とは「販売促進費の競争」を意味していた模様です。

 

販売促進費には販売奨励金(いわゆるリベート)も含まれます。リベート・割り戻しに関するカルテルは、価格カルテルの一種として整理されています。*4

対談で販売促進費を抑制するとの意味での価格カルテルが合意され、その実効性はまだ不十分との発言ととらえることができるかもしれません。

 (続く)

*1:

http://www.jftc.go.jp/houdou/teirei/h24/10_12/kaikenkiroku121114.html

概要が分かりやすい 

*2:

ビール系飲料シェア、キリン6年ぶり上昇 アサヒ首位守る :日本経済新聞 余談ですが、記事の見出しで首位のアサヒよりもキリンの上昇を先にするのは違和感を感じました。ニュース性のためなのかもしれませんが、他の意図、配慮があるのでしょうか。

*3: http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/16546

(無料公開はなし)

*4:金井貴嗣, 川濱昇, 泉水文雄編「独占禁止法」(第2版) 弘文堂 P37−38