キリン/アサヒ社長対談と独禁法(3)黙示による意思の連絡
キリン/アサヒ社長対談と独禁法
の続きです。
前回は対談をカルテルの合意として構成する方向で考察してみました。
それでは、対談が間接証拠となる余地はあるでしょうか。
カルテルの合意は明示のものだけでなく、黙示の合意も存在します。
事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である(黙示による「意思の連絡」といわれるのがこれに当たる。)。
(中略)
特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には、右行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者の間に、協調的行動をとることを期待し合う関係があり、右の「意思の連絡」があるものと推認されるのもやむを得ないというべきである。
同判決やその後の判決を踏まえて、学説上は(1)事前の連絡交渉、(2)連絡交渉の内容、(3)行動の外形的一致との間接事実を総合的に検討し、意思の連絡を推認するものとして整理しています*1
(1)事前の連絡交渉
事前の連絡交渉として、十分な内容ではないでしょうか。社長が対談することは社として連絡交渉していることや、意思決定者のレベルで話合いが持たれていることも明らかと考えられます。
(2)連絡交渉の内容
連絡交渉の内容も、シェア競争や価格競争、販売促進費競争を停止することを話し合っているようです。率直に言って、よくこのような内容の対談を行ったものです。逆に言うと、私はこの業界に明るくありませんが、ビール業界の営業の現場では常にこのような会話がなされているので、社長らも違和感がなかったのかもしれません。
(3)行動の外形的一致
行動の外形的一致については、定かではありません。ただし、東芝ケミカル事件は、価格「引上げ」のカルテルであるため、シェア配分カルテルなどでは同様の基準が用いられない可能性はあります。例えば、シェアが翌年も同様だからといって、即座に行動の外形上の一致とするのはやや乱暴な議論だと思われます。
他方で、従来の商慣行とは大きく異なったり、不自然であったりする販売促進費の削減などが見られた場合には、「行動の外形的一致」を充足するのではないでしょうか。
(続く)