課徴金減免制度の適用事業者の公表(1)概要
過去の記事の中でリニエンシー関連の記事の閲覧数が比較的多いので、今回もリニエンシー関連の分析をしたいと思います。
2016年5月25日、公正取引委員会が課徴金減免制度の適用事業者について、従前は希望者のみ公表していたものを、一律に公表することを発表しました。*1
<課徴金減免制度の適用事業者の公表について>
課徴金減免制度の適用については,従来,当委員会から積極的に公表しないこととしておりましたが,法運用の透明性等の観点から,今後は,同制度が適用された事業者について,当該事件の報道発表において免除の事実又は減額の率を一律に公表することとなりました。また,当該情報は下記「課徴金減免制度の適用事業者の公表」のページにも掲載されます。ただし,この新たな公表措置は,平成28年5月31日以前に課徴金減免の申請を行った事業者には適用されません。
同日の総長定例会見でも発表され、質疑応答も行われています*2。
このような運用変更を行った理由は必ずしも明確ではありませんが、総長定例から以下の情報が読み取れます。太字はいずれも引用者によります。
(1)本来は公表が原則との公取委の認識
- この制度が積極的に活用されるということを期待いたしまして,施行当初より,事業者の側で減免を申請することのハードルとなる可能性のある公表を,希望した者のみにするという政策的な対応を行ってきたところであります。
- 本来であれば説明責任という観点から公表していくべきところ
- 減免事業者名の公表ということについては,昨日,今日考えてきたわけではなく,減免制度の機能を阻害しないのであれば,本来の姿に早く戻したいという気持ちは前々からあって検討してきた
公取委としては、減免制度適用者を公表することが本来的な運用、原則であり、いわば例外的取扱いとして、政策的にこれまでは希望者のみの公表としていたようです。
(2)運用変更の理由
- 課さねばならない課徴金を減免したという事実を公表することも私どもの説明責任でありますし,また,これが透明性を向上させるものと判断いたしまして
- あるいは外国の制度,特にEU等をみましても,公表をされているということも踏まえれば
- 申請件数がそれなりに高い水準で継続しているということ,
- 8割弱の事件について減免制度が公表ベースで利用されていたということに注目した
明確に説明されていないところですが、公取委は、義務的な課徴金であるにも関わらず十分な説明をしていないかったことをまず理由として挙げているようです。
また、透明性確保とも言及しています。ただし、説明責任と透明性確保との相違は別個の理由となるほど大きなものではないようにも感じられます。
海外当局の運用も勘案したようです。
そして、申請件数の推移と一定の事件で申請者が公表を希望していること、というこれまでの減免制度の運用も考慮しています。端的に言えば、過去の運用実績に照らすと、申請者を一律公表したとしても、今後の減免申請に大きな影響はないと判断したものと考えられます。記者の質問もこの点に集中しています。
(3)課徴金減免制度の運用実績
それでは、課徴金減免制度の運用実績を具体的に見てみます。確かに課徴金減免申請は、ここ7年間で年間50件以上となっています*3。
単位:件) 年度 21
(注7)22 23 24 25 26 27 累計
(注8)申請
件数85 131 143 102 50 61 102 938 (注7) 平成21年独占禁止法改正法(平成21年法律第51号)により,平成22年1月1日から課徴金減免制度が拡充されている([1]減免申請者数の拡大:調査開始前と開始後で併せて5社まで(ただし,調査開始後は最大3社まで)に拡大する。[2]共同申請:同一企業グループ内の複数の事業者による共同申請を認める。)。
(注8) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から平成28年3月末までの件数の累計。
しかし、この数字はいわば申請者側に非公表のオプションがある前提のものと言えます。
次に「8割弱の事件について減免制度が公表ベースで利用」されているとの点についてです。これは総長定例質疑応答によると以下を意味するようです。
- 減免対象の事件として法的措置を採ったものの中で,一人でも減免申請者があり,それが公表を希望した案件が8割弱であった
この発言の意味するところは、カルテル事件(減免制度対象事件)をベース(分母)として、「一人でも」減免申請者が公表を希望した事件(分子)の割合が8割弱であると考えられます。このため、(公表を希望した減免申請者)/(減免申請者)ではないため、実際にどの程度の減免申請者が公表を希望したのかは不明です。
例えば、以下のケースの両方が考えられます。
ケースa
ケースb
同じ事件ベースで8割弱が公表されていたとしても、減免申請者ベースでは公表希望者数に大きな乖離があります。
実際に公表を希望した減免申請者のリストをみると、公表希望者がケースbのように極端に少ないことはないと考えられます。しかし、減免申請者のうち公表を希望した者の割合は判然としません。
この点については、透明性を理由に運用を変更したにもかかわらず、その変更理由に透明性がないとの意味で皮肉に感じられます。
さて、今回の運用変更については、批判があるようです。
例えば、下記です。
これ、実態はほぼ全員が公表を希望しているし、公表資料から誰かは明らかなのでしょうが、あえて原理原則論を言いますが、チクったものは公表します、はだめでしょう。断固反対です。「公取委、課徴金減免企業を一律公表 透明性高める 」https://t.co/SZkksW5por
— 有馬猪右衛門 (@ArimaShishiemon) 2016年5月27日
リニエンシーは囚人のジレンマゲームなのであって、事後的であれ、透明にしたらだめでしょう。公表されるのならだれも公益通報しないでしょ。
— 有馬猪右衛門 (@ArimaShishiemon) 2016年5月27日
結論から述べますと、私はこれらの批判は状況を十分に把握できておらず、今回の運用変更によっても課徴金減免制度が大きく悪影響を受ける可能性は小さいと考えております。やや慎重な言い振りとしています。
詳細は次回で考察したいと思います。
(続)