競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(2)形式など

前回の記事の続きです。

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(1)報道 - 競争政策研究所

 

今回は第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書 」*1(以下、「報告書」と言います。)の内容(ただし、主に形式面)について検討したいと思います。

 

(1)概観

肯定的な意味でも、否定的な意味でも、経済産業省らしい報告書との印象です。

第四次産業革命」の意味が必ずしも判然としないものの、「IoT、ビッグデータ、ロボット、人工知能(AI)等による技術革新」を指すようです。*2

しかし、報告書で主に取り上げられている内容が必ずしも「第四次産業革命」につながるとは感じられません。報告書では、競争政策、データ利活用・保護、知的財産の3点が取り上げられていますが、競争政策が第1番目であり、かつ報道されている課題は主に「アップル税」(アプリストアの3割の手数料です。)です(前回の記事を参照)。そのような課題の解決と「第四次産業革命」の論理的つながりは薄いように思われました。つまり、アップルのアプリストアの手数料が引き下げられたからといって、第四次産業革命が加速するとは思えません。むしろ、アップル社の利益が減少することによって投資が減少し、技術革新を阻害する方向に働く可能性すらあります。

本来は「データ利活用・保護」の項目が「第四次産業革命」との関係が比較的強いように思われます。うがった見方をすると、「アップルがけしからん」ということに触れるために、「第四次産業革命」を利用したようにも見えます。

 

(2)用語

「プラットフォーマー」や「GAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon) 」といったバズワードが利用されていることが目につきました。ただし、これらのワードは「新産業構造ビジョン中間整理」で既に使われてているようです。*3
GAFA」は欧米の公的機関の報告書ではそれほど多く見ないように思います。技術革新とともに「wintel」のように使用頻度が減少するのではないかと思います。

「プラットフォマー」はあまり聞きなれない言葉かと思いましたが、和製英語のようです。Platformerとは英語では「informal term for platform game」*4というプラットフォームゲームの俗語のようです。*5

海外において、英語でそのまま「プラットフォーマー」と発言してしまうと、相手方は困惑するのではないでしょうか。


(3)実態と評価

報告書P8からは、「(b)調査等で確認された具体的な取引の実態」が記載されています。またP11からは、「(d)現状の評価」となっています。このように構成としては、実態と評価を峻別する意図があったようです。しかし、「実態」の箇所でも、評価的な記載が散見されます。

例えば、下記です。

ア) 決済手段に対する拘束

(中略)

なお、研究会において、決済手段の拘束については、「電子商店街等の消費 者向けeコマースにおける取引実態に関する調査報告書」(平成18 年公正 取引委員会)における記載との類似性を指摘する意見があった。すなわち、同報告書では、合理的理由なく、電子商店街への出店事業者が直接クレジットカード会社との間で決済を行うことを禁止し、電子商店街の運営事業者がクレジットカード会社との決済を行う方法を義務付け、その結果、直接決済を行う際の手数料率を上回る手数料率を設定することにより出店事業者に不当な不利益を課す場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上の問題につながるおそれがある旨が指摘されているところ、決済手段を拘束することで事業者に不当な不利益を与えている点では同じではないかとの意見があった。他方で、アプリストア事業者が課す手数料率について合理的と考えている事業者も存在するなかで、当該手数料率が不当な不利益に該当するのかは検討を要するとの意見もあった。

 

オ) 販売や返金処理等に関する情報提供の少なさ

ユーザーがアプリやアプリ内のデータ等を購入した場合には、基本的にはユーザーとアプリ提供事業者との間での契約が成立していると考えられ、アプリストア事業者は契約当事者とはならない。しかし、アプリストア事業者は、アプリ提供事業者との間で、アプリ提供事業者に代わって代金をユーザーに払い戻すことができるという条項を含む契約を締結している場合がある。 こうした返金システムは、ユーザーからすれば、どのアプリに関する返金であっても、 アプリストア事業者に請求することで容易に返金を受けることが可能となるので、消費者の利便性の向上に資するものと評価することができる。(下線は引用者による。)

 

敢えて方向づけの目的や議論のごまかしのために実態と評価を混合しているのかもしれませんが、結果的に、報告書の構成が分かりにくくなったように感じられます。

 

次回は内容面を検討したいと思います。

 

2016年10月1日誤字を修正。

旧 バスワード

新 バズワード