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競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

押し紙の報道(2)考察

公正取引委員会 独占禁止法 朝日新聞 押し紙 杉本和行 警告 注意

押し紙報道の発端となった杉本公正取引委員会委員長講演(2016年2月15日)について、考察します。

経緯は前回のブログをご覧ください。

押し紙の報道(1)講演での発言概要 - 競争政策研究所

 

前回の最後に以下の考察を述べました。それらを詳述します。

  1. 質問者の記者は押し紙のみならず、再販適用除外等を含めた新聞社やマスコミ関係の行為や規制に問題意識を持っていること。

  2. 杉本委員長は非常に慎重な言い回しをしていること。特に再販適用除外に対する考え方は述べず、また、新聞特殊指定の見直しを考えていない旨を明言していること。

  3. 押し紙の取締りについては、「モニター」との用語を用いており、一般的な監視を念頭に置いていること。逆にいえば、インヴェスティゲーションといった、現在特定の事件を調査していることは述べていないこと。

 

(1)質問者の意図

質問者の記者は、新聞の消費税の軽減税率や特商法についての「消費者委員会での議論」について、述べた後に杉本委員長の再販適用除外に対する考え方を第1番目に質問しました。押し紙の質問は2番目です。

新聞の消費税の軽減税率は、消費税10%への引き上げ時に、週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)は8%の軽減税率が適用されるというものです。*1軽減税率の対象の議論の際は、新聞社は新聞軽減税率の必要性を大きく報道し、あるいは食品の軽減税率対象範囲の議論とは論調が異なる報道をしました。*2「消費者委員会での議論」は、特商法の改正に関連した、消費者委員会の審議会での議論やその後の経緯を指すものと思われます。*3

このようなマスコミ、新聞社に対する特異的な動向や配慮を踏まえて、新聞社等に特別に許された再販適用除外について、質問者は杉本委員長に見解を問うています。

結局杉本委員長から明確な答えはありませんでしたが、質問者は押し紙のみならず、新聞社・マスコミに対する広範な問題意識を持っているのではないでしょうか。

 

(2)杉本委員長の回答

杉本委員長は非常に慎重な回答をしています。これは推測ですが、「自身がマスコミ関連の独禁法上の適用除外・例外を見直す意図がある」と新聞業界をはじめとするマスコミ業界に警戒感を抱かせないためのものではないでしょうか。

再販適用除外については平成13年(2001年)にかけて見直しを検討し、新聞特殊指定の見直しについては平成18年(2006年)ころに検討していますが、いずれもマスコミやマスコミの影響を受けた政治の影響で、事実上の断念をしています。

著作再販制度の取扱いについて(平成 13 年 3 月 23 日 公正取引委員会

http://www.jftc.go.jp/hourei.files/chosakuken.pdf

特殊指定の見直しについて(平成18年5月31日 公正取引委員会

http://www.jftc.go.jp/dk/seido/tokusyushitei/press.files/06060205.pdf

 杉本委員長はその際の経緯を知っていたり、竹島前委員長から引き継ぎを受けたりして、マスコミを刺激することは避けたのではないでしょうか。だからこそ、再販適用除外についての考え方を述べず、新聞特殊指定については、「今のところ」見直しを考えていないと明言しました。「今のところ」との留保があるとは言え、相当のリップサービスではないかと感じます。

ところで、新聞特殊指定については、あまり紹介されませんが、具体的には下記です。*4

(1)新聞発行本社が地域又は相手方により多様な定価・価格設定を行うことを禁止(ただし,学校教育教材用や大量一括購読者向けなどの合理的な理由がある場合は例外。)。
(2)販売店が地域又は相手方により値引き行為を行うことを禁止((1)のような例外はない。)
(3)新聞発行本社による販売店への押し紙行為(注)を禁止。
(注)押し紙:注文部数を超えて供給し,又は自己が指示する部数を注文させること 

 新聞社としては、(1)や(2)に行為が可能になることよって、あるいはそれをきっかけとして、再販価格の指定が適用除外が変更されることを懸念したと考えられます。(詳細は前に紹介した「特殊指定の見直しについて(平成18年5月31日 公正取引委員会)」の記載を参照)

 

(3)「モニター」の意味

杉本委員長は、押し紙について「モニター」すると述べています。これは調査(インヴェスティゲーション)という用語を使っていないことからすると、一般的な監視を意図するものと考えられます。2月中旬の講演の後の3月末に朝日新聞社に対する注意があったようですが、これは偶然の可能性も十分あります。

押し紙について、朝日新聞社に対して立入検査をしたり、報告命令をしたりといった独占禁止法上の権限を行使して調査を行っているとの報道はありませんでした。よって、杉本委員長は具体的な大規模な調査中の事案を念頭において発言したというよりも、一般的な意味で監視を行い、違反行為が認められた場合には措置を行うというまさに「一般論」を述べたのみに感じられます。

ところで、公正取引委員会の「注意」という措置について調べてみましたが、判然としませんでした。

 

  1. 排除措置命令および課徴金納付命令
  2. 警告
  3. 注意
  4. 打切り

 

という重大さの順位があるようです。また、下記の説明がありました。

Q25 排除措置命令ではどのようなことが命じられるのですか。 法的措置ではない警告や注意とはどのようなものですか。

A. 排除措置命令では,例えば,価格カルテルの場合には,価格引上げ等の決定の破棄とその周知,再発防止のための対策(例えば,独占禁止法遵守のための行動指針の作成,営業担当者に対する研修)などを命じます。
 また,排除措置命令等の法的措置を採るに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反するおそれがある行為があるときは,関係事業者等に対して「警告」を行い,その行為を取りやめること等を指示しています。
 さらに,違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが,違反につながるおそれがある行為がみられたときには,未然防止を図る観点から「注意」を行っています。

よくある質問コーナー(独占禁止法):公正取引委員会

 排除措置命令は行政処分であり、警告は行政指導のようです。*5

注意は「違反につながるおそれがある行為がみられたときには,未然防止を図る観点から」行うとされていますが、行政指導ではないのでしょうか。あるいは、注意と警告の差は具体的に何でしょうか。

 

(完)

 

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