競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

スマホOSのシェア

経済産業省の「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書 」*1(以下、「経産省報告書」と言います。)と、公正取引委員会の「携帯電話市場における競争政策上の課題について」*2(以下、「公取委報告書」と言います。)でスマートフォン(OS)のシェアに相違があったので、それについて考察してみます。

 

具体的には下記の記載となっています。

経産省報告書

我が国におけるスマートフォンのシェアは、AppleiOS が約 7割、GoogleAndroid が約3割であると言われており (脚注2)、

脚注2 出典StatCounter(2015)

また、経産省の別の説明資料*3では、下記の円グラフが示されています。 

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公取委報告書

我が国におけるスマートフォンのOSのシェアは,iOS が 46.8%,Android OS が 51.7%となっており,その他のOSも存在するが,そのシェアは低い(脚注33)。

脚注 33 Kantar Worldpanel ComTech 調べ(平成 28 年 3 月)。

 

まず、そもそも経産省報告書では、「スマートフォンのシェア」として、機器のシェアでなくOSのシェアを示しており、日本語として疑問があります。

 

より本質的な内容としては、経産省報告書では iOSのシェアが約70%、公取委報告書では46.8%と20%以上差があります。

 

ソース

両報告書のソースを検討してみたいと思います。

 

経産省報告書

経産省報告書のソースは下記と考えられます。

StatCounter Global Stats - Browser, OS, Search Engine including Mobile Usage Share

2016年8月のデータで、iOSのシェアは71.79%とされています。

しかし、このデータは様々なサイトの「閲覧数」におけるOSのシェアのようです。*4このデータソースはOS以外にもブラウザのシェアも提供しています。

経産省報告書は、OSのシェアを「ゲーム等のスマートフォン用アプリの販売・配布」において触れており、全体としてもアプリストアに関する行為(約3割の手数料など)を問題点(具体的には過去の記事も参照)として指摘しています。このため、本来であれば、サイトの閲覧数ではなく、アプリストアの有料での利用量やアプリストア事業者を通じた決済の利用額のシェアを用いるべきと考えられます。

例えば、iphoneのユーザーが、webを見る頻度は高いが、有料アプリの購入やアプリ無い購入の頻度が低い傾向にある場合、経産省報告書のアップルのシェアは過大な数値、ミスリーディングな数値と考えられます。

 

公取委報告書

公取委報告書のソースは下記と考えられます。

Smartphone OS sales market share – Kantar Worldpanel ComTech

 

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このサイトによる2016年3月のiOSのシェアは46.8%でした。

本データは「Smartphone OS sales market share」とされており、それ以上の詳細(販売量なのか額なのか、データソースなど)は確認できませんでした。AppleはOSを他社に販売(ライセンス)しておらず、GoogleはOSを無償ライセンスしているので、OSのもののの販売のシェアではなく、OSを搭載したスマホのシェアと考えられます。

また、Salesのデータであるからか、増減も見られ、例えば、2016年ではiOSのシェアは

1月 50.3%

3月 46.8%

6月 38.0%

7月 34.1%(閲覧時点で最新のデータ)

となっています。

なお、この数字は該当月とその前の2か月の合計3か月のデータです。*5

公取委報告書では、主にグーグルによるAndroid OSのライセンスに関連した行為を問題として取り上げる*6ため、上記のようなSalesのシェアを示すことは、数値の選択として一定の合理性はあると考えられます。ただし、このソースでは時系列で数字の変動がそれなりにあるため、恣意的にある月の数字を引用すると妥当性が問われると考えられます。

しかし、例えば、2015年8月はAndroid OSのシェアが64.5%ですが、敢えてそういった時点の数値を引用したのではなく、おそらく報告書執筆時に最新の数字として「iOS が 46.8%,Android OS が 51.7%」を参照したものと推測されます。むしろ2016年4月のデータを引用すると、Android OSのシェアは55,7%に上昇しています。

 

このほか、例えば、出荷台数におけるOSのシェアとして、iOS 53.4%:Android 46.6%とするデータ(2015年)も別途ありました。*7

このデータと比べると、公取委報告書は約5%の差(Android OSが相対的に多い)経産省報告書は約20%の差(iOSのシェアが相対的に多い)があります。しかし、上記のいずれのソースも実数ではないので、数字の妥当性を論じているものではありません。

  

背景の推測

このようなシェアの数字の相違について、前提として、公的な統計等の最適なデータソースが存在しないことがあると考えられます。このため、調査会社等のデータを使用せざるを得ないもの推測します。

その上で、経産省報告書では、アップルの行為を主な問題として取り上げるため、iOSのシェアを高いデータソースを利用するインセンティブがあると考えられます。 

逆に、公取委報告書では、主にグーグルによるAndroid OSのライセンスに関連した行為を問題として取り上げるため、Android OSのシェアが高い(iOSのシェアが低い)データソースを利用するインセンティブがあると考えられます。

 

*1:第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書を取りまとめました(METI/経済産業省)

*2:(平成28年8月2日)携帯電話市場における競争政策上の課題について(概要):公正取引委員会

*3:【60秒解説】デジタル市場での競争と独占の問題点

*4:

FAQ | StatCounter Global Stats

What methodology is used to calculate StatCounter Global Stats?

StatCounter is a web analytics service. Our tracking code is installed on more than 3 million sites globally. These sites cover various activities and geographic locations. Every month, we record billions of page views to these sites. For each page view, we analyse the browser/operating system/screen resolution used and we establish if the page view is from a mobile device. For our search engine stats, we analyze every page view referred by a search engine. For our social media stats, we analyze every page view referred by a social media site. We summarize all this data to get our Global Stats information.

 

*5:This information is based on the research extracted from the Kantar Worldpanel ComTech global consumer panel and refers in all cases to 3 months periods ending the stated month.

Smartphone OS sales market share – Kantar Worldpanel ComTech

*6: 公取委資料によると端的に、「OS事業者が端末メーカー等に対して、ライセンス条件(有償、無償)として、自社のアプリのデフォルト設定、ホーム画面への配置を義務付ける等により新規参入や技術革新を阻害すること」として説明されている。

http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/aug/160802.files/160802_keitai_point.pdf

*7:2015年国内携帯電話端末出荷概況 « ニュースリリース | 株式会社MM総研