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競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(1)報道

独占禁止法 公正取引委員会 杉本和行 マスコミ apple 経済産業省 google

経済産業省が「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書 」*1を公表しました。(以下、「報告書」と言います。)

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今回は、報告書ではなく、報告書に対する次の記事について検討したいと思います。報告書についても別途検討予定です。

www.nikkei.com

 

記事の概要は以下の通りです。

「アップル税」などのプラットフォーマー関連の問題がある。

その解明には守秘義務契約が障害であり、これまで一度も発動されたことがないとされる公取委の伝家の宝刀の「40条調査」を利用することも意見もある。

なお、「40条調査」と類似のものとして、欧州委員会等も業界全体を調査している。

専門誌による公取委の「国際的な評価が低下」しているが、杉本委員長の残り1年半の任期で「見返す時間はまだ十分ある」。

 

記事については評価する声もある模様です。

 

 

しかし、記事の内容や構成に疑問があります。

 

(1)アップル税

「アップル税」と見出しにあるとおり、記事は30%と言わるアップルのアプリストアの手数料を中心に問題視しています。

しかし、手数料率の妥当性の判断や優越的地位の濫用の該当性判断は難しいと考えられます。報告書でも、手数料率を含む「決済手段に対する拘束 」について、優越的地位の濫用に該当するおそれを指摘しつつも下記のとおり記載しており、一定のバランスに配慮していることがうかがわれます。

 

他方で、アプリストア事業者が課す手数料率について合理的と考えている事業者も存在するなかで、当該手数料率が不当な不利益に該当するのかは検討を要するとの意見もあった。

出典:報告書P

 

そもそも、販売手数料の適正な水準は一般化することは難しいと考えられます。

 中小企業であっても「わずか」30%の手数料で、国内あるいは海外を含めた多数の顧客に販売の可能性があるとするか、30%「もの」手数料により不利益を受けるのかは、一様に判断できるものではないと考えられます。

例えば、広告主から依頼を受けて新聞販売業者に取り次ぐことについて、「実勢より低い23パーセント」とするものがありました*2。このような例からしても、直ちに30%という手数料率の水準が問題となるとの情報は確認できませんでした。

 

高い手数料率については、市場支配力の行使(独占的利潤の獲得)であり、独占禁止法や各国競争法が主として問題視する「市場支配力の形成、維持、強化」ではないと考えられます*3

つまり、アップル(及びグーグル)が、能率競争によって得た独占的地位に基づき、アプリ事業者から利潤を得ているというものです。

 

なお、記事では

公取委内では「民民の契約で決まっていること。事件化のハードルは高い」という声も少なからずある。

とされています。

しかし、再販売価格の拘束なども「民民の契約」ですが、独占禁止法条の問題となり得るものです。「公取委内」の声の、趣旨としては、「アップル等が一方的に課しているものではなく、双方が納得して契約しているとも考えられるため、優越的地位の濫用で問題とすることは困難な側面がある」とのものかと考えられます。

 

(2)守秘義務契約と40条調査

上記の「アップル税」は、契約書上も明らかであり、インターネット上にも多くの情報はあります*4

 

記事では、「アップル税」以外にプラットフォーマーの問題全体について具体的に触れていないので、なぜ守秘義務契約により実態解明が困難となるのかわかりにくくなっています。

もちろん、「アップル税」の実態(個別企業により増減があるのか)といった把握のためには、各アプリ提供事業者に独占禁止法40条の権限に基づく調査をすることはあり得ますが、むしろまずアップルに対して同調査をすることが重要ではないでしょうか。この場合は、権限が必要であろうことは予想できますが、アップルとアプリ提供事業者の「守秘義務契約」が障害となるわけではないと考えられます。

 

(3)国際的評価

まず、記事の公表後に訂正がなされています。訂正点は下記の下線部です(下線は引用者によるもの)。

 

(訂正

国際評価が低下

 公取委に危機感を抱かせる出来事もあった。世界各国の当局を格付けする専門誌「グローバル・コンペティション・レビュー」で今年、公取委の評価が下がったのだ。

 昨年は星5つの最高点を達成したが、今年は星4.5。反対に、日本に追いつけ追い越せで体制を強化してきた韓国公取委は星5つに昇格し、追い越されてしまった。

 

(訂正

国際評価が低下

 公取委に危機感を抱かせる出来事もあった。世界各国の当局を格付けする専門誌「グローバル・コンペティション・レビュー」で今年、公取委の評価が下がったのだ。

 今年は星4.5。反対に、日本に追いつけ追い越せで体制を強化してきた韓国公取委は星5つに昇格し、追い越されてしまった。

 

訂正のコメントは次のとおりです。

<訂正>16日3時30分に掲載した「公取委、宝刀抜けるか アプリ決済『守秘』の壁(真相深層)」の記事中、公正取引委員会の昨年の格付けが「星5つの最高点」とあるのは「星4・5」の誤りでした(2016/9/16 20:45

 

 

しかし、「国際評価が低下」との見出しや「世界各国の当局を格付けする専門誌「グローバル・コンペティション・レビュー」で今年、公取委の評価が下がったのだ。」との記載は変わっていません。おそらく、「「世界トップクラスだが最近評判が危ぶまれている」との専門誌評」を指して、「評価の低下」であると強弁しているものと推測されます。

しかし、記事における写真解説の「公取委格付けが下がった今年の専門誌」(下線は引用者による)の記載は訂正されていません。

f:id:japancompetitionpolicy:20160918084448p:plain

 

韓国の「昇格」についても、日本と「反対に」韓国が昇格したと記載しており、日本が格下げしていないと、違和感のある記載となっています。

 

なお、単なる専門誌の格付けを議論することが適切であるか否かは措くとして、公取委の存在感について、記事に引用されている「もっとアグレッシブにならないと日本市場の存在感低下に拍車をかける」という声については、同意できるものです。

つまり、既に公取委の存在感は低下した状況であり、積極的な活動・措置がないとさらに存在感が低下するということかと考えています。

*1:

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書を取りまとめました(METI/経済産業省)

*2:

多摩新聞販売同業組合に対する件(平成4年(勧)第5号)

http://snk.jftc.go.jp/JDSWeb/jds/dc005/DC005?selectedDocumentKey=H040318H04J02000005_

*3:このため、優越的地位の濫用でしか問題視しにくいという点はその通りかと思います。

*4: 例えば、 

http://japanese.engadget.com/2016/06/08/app-store/