競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

学校制服と競争

朝日新聞を中心として、学校の制服の価格が高止まりし、家計の負担となっているとの指摘がなされています。

制服、英国でなぜ安い? 日本の6分の1、政府も後押し:朝日新聞デジタル

(けいざい+ 深話)制服をもっと安く:上 お古に商機、母の知恵:朝日新聞デジタル

(けいざい+ 深話)制服をもっと安く:下 どこでも買える英国、価格に敏感:朝日新聞デジタル

 

朝日新聞の執筆記者は、この話題を一定期間にわたって追いかけているようです。

 

事務総長定例会見でも、制服に関する質疑応答がなされています。

平成28年9月7日付 事務総長定例会見記録 :公正取引委員会


上記会見の内容を踏まえると、「制服価格の高止まり」に対して、その原因が競争に関連する場合、具体的な要因としては次の3つが考えられます。
なお、この3要因は相互に関係していたり、複合的な要因となる可能性もあります。
(1)制服メーカーが再販売価格維持により、小売店の価格を拘束している。
(2)制服の小売店が独占企業であることによって、あるいは複数の小売店のカルテル独占禁止法上問題)や意識的並行行為(独占禁止法上は問題とならない)によって、価格を競争水準よりも引き上げている。
(3)地方政府や学校が、制服の規格や小売店の指定を行い、十分な参入や競争が発生していない。

 

日本以外においても、制服が競争上の関連で話題となったことがあるようです。

日本の公正取引委員会にあたる競争・市場庁(CMA)は昨年10月、各校の校長や制服納入業者などに向けた公開書簡を出した。書簡では、同庁が行った制服価格調査の結果をもとに、制服の製造・販売業者を単独かごく少数に限定する「制限販売」の慣行を見直すよう求めた。

出典 制服、英国でなぜ安い? 日本の6分の1、政府も後押し:朝日新聞デジタル

 

この記事で触れられている公開書簡は下記と考えられます。

www.gov.uk

 

CMAの公開書簡のうち興味深い点は次のとおりです。

(1)exclusive arrangement

CMAは、製造業者・卸売業者(supplier)や小売店(retailer)に対するexclusive arrangementを問題視しているようです。この行為の主体としては学校側であり、学校による制服の独占的取扱いを改善したいとのCMAの意図が見受けられます。

exclusiveでは独占的取り扱いという印象もありますが、必ずしも独占(1社)とまでは限定していないようです。しかし、協調行為ではなく、地域的独占に基づく支配的地位の濫用を問題視しているようです。書簡全体の印象でも、独占的取扱い(1社や1製品の指定)の改善の必要性を強調しているようです。

Problematic arrangements may include long term exclusive arrangements between schools and uniform suppliers or retailers, or where these arrangements provide uniform suppliers or retailers with a local monopoly and they abuse that position by, for instance, charging excessive prices.

(公開書簡P2−3)

 

(2)宛先

公開書簡の宛先は、

Head teacher, governing board, school uniform supplier,

 

となっており、小売店は含まれていないようです。さすがに数が多すぎて、把握できなかったか、手間や費用面が理由と推測します。

 

(3)価格引き上げ効果

排他的取扱いにより、制服の価格が5から10ポンド上昇させているとの証拠があるようです。

I am writing to you about the appointment of exclusive suppliers for school uniforms. There is strong evidence that this practice has increased the cost of uniforms significantly - by as much as £5 to £10 per item 

(公開書簡P1 冒頭)

 

どうやら2012年のOFTの報告書に基づいている模様ですが、原典までは確認していません。

(4)公開書簡という手法

学校単位といった狭い地域の支配的地位の濫用について、個別に競争法を執行することは効率性の面から困難と考えられます。一方で、地域的な独占が全国的に広がっているとすれば、弊害としては相当なものと推測され、比較的大きな課題と考えられます。特に、制服は消費者に身近な問題であり、一定の注目を集めるテーマとなりそうです。

そのような状況で、公開書簡という手法で効率的に対処することは、非常に合理的と感じました。また、過去の報告書を利用していることも効率的です。

 

調べてみると、公正取引委員会も制服について、一定の見解を示していました。

 

(カ) 学校制服の販売店の推定・ごみ収集袋の指定

a 学校制服の販売店の指定
 学校が制服販売店を指定する理由として,保護者が制服を購入する際における便宜を図ることが挙げられているが,指定販売店を少数に固定化しておくことに合理性があるか疑問であり,これにより,制服の販売店間の競争が行われなくなっている可能性がある。
 したがって,制服の販売を希望する事業者を広く指定販売店としたり,又は,制服の仕様を積極的に開示することによって,販売店が自由にこれを取り扱えるようにするなどにより,指定販売店の在り方を見直すことが望まれる。

出典: 

http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h10/02050001.html

 

販売店(小売店)に焦点を当てているものの、公取委の見解はCMAの見解と大きく異なるものではないと考えます。

公取委は平成11年6月に「 地方公共団体が行う規制の実態調査」を公表したようで、その中の1テーマが上記の制服についてです。

全部で下記のテーマについて記載があるようですが、他にも興味深いテーマがあります。しかし、報告書そのものは現在はHP上で公開されていない模様です。

① 事業許認可等における法令に定めのない要件の付加
② 事業者団体への工事等の一括発注
③ 特定の事業者団体の加入業者に限定した競争入札参加者の選定
④ 地元企業優先発注及び地元産品優先使用
⑤ 物品の入札等における銘柄の指定
⑥-1 学校制服の販売店の指定
⑥-2 ごみ収集袋の指定

出典: 

http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h10/02050001.html