全米商工会議所での安倍首相発言
安倍首相の米国訪問の一環で、2017年2月10日に全米商工会議所・米日経済協議会共催朝食会に出席したようです。
安倍総理の全米商工会議所・米日経済協議会共催朝食会への出席 | 外務省
その際の発言要旨が記事になっていました。
記事によると、次の発言があった模様です(強調は引用者によるもの)。
鉄鋼をみてください。ある国での過剰生産が止まらず、輸出が増え、世界的な安値を招いている。知的財産を守るルールが国際的に浸透しなければイノベーションの成果も台無しだ。情報の流通を妨げるハッキングも国境を越えている。本来公正な市場競争を守るはずの独占禁止法がその国での外国企業の新規参入を妨げ、逆に競争を妨げるとの懸念される事態も散見される。
国名は明示されていませんが、全米商工会議所が中国の独占禁止法執行を批判する報告書*1を公表していることも勘案すれば、「少なくとも」中国は対象と考えられます。
報道によれば、前半の鉄鋼や知財に関しては、「安倍総理大臣は中国を念頭に」置いたとされています。*2
中国の独占禁止法の執行と産業政策等との関係については、次の論文が詳しいです。
RIETI - 中国独占禁止法の運用動向―「外資たたき」及び「産業政策の道具」批判について―
同論文は、中国での企業結合審査に関する競争当局の執行について
企業結合審査は禁止及び条件付き承認となった介入事例 26 件のすべてにおいて、 企業結合当事会社の少なくとも一方が外国企業であり、うち 21 件(約 81%)が外国企業同 士の結合事例である。この統計だけに基づけば、外国企業が狙い撃ちされているとの疑いが生じやすい。しかし、従来、企業結合審査届出の約 90%近くが外国企業関係案件(外外 又は外中)という届出の母数を考慮すると、上記の統計をもって直ちにこれを外国狙い撃 ちであるとか、内外差別であると断ずることはできない。
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との分析をしています。
しかし、「中国当局が産業政策上、重視する技術が関係する市場での介入傾向」として、
での問題解消措置を挙げています。
また、「資源供給、食糧供給等外国依存度の高い市場での介入傾向」として、 グレンコアによるエクストラータ買収、丸紅によるガビロン買収、ウラルカリウムによるシリビニト吸収合併を挙げています。
このように一般的には安倍首相は中国に関して発言したと考えられます。
しかし、米国での日本の自動車部品メーカーに対する反トラスト法の執行が「狙い撃ち」との見方がなされる場合もあります。*3このような見方が有力ではないと認識していますが、「本来公正な市場競争を守るはずの独占禁止法がその国での外国企業の新規参入を妨げ、逆に競争を妨げるとの懸念される事態も散見される。」との安倍首相発言が、もしも米国での日本の自動車部品メーカーへの執行やそれによる完成車メーカーへの影響について、皮肉の意味を含めていたとすれば、非常に興味深いと思います。