競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

雇用契約と競争法(1)米国ガイダンス

米国DOJとFTCが人事担当者向けの反トラスト法ガイダンスを公表しました。

Justice Department and Federal Trade Commission Release Guidance for Human Resource Professionals on How Antitrust Law Applies to Employee Hiring and Compensation | OPA | Department of Justice

 

FTC and DOJ Release Guidance for Human Resource Professionals on How Antitrust Law Applies to Employee Hiring and Compensation | Federal Trade Commission

 

ガイダンスでも幾つかの事件に言及されていますが、例えば次のような事案を念頭に置いているようです。

司法省,従業員の引き抜きを禁止する協定を締結していたとしてeBayを民事提訴

 2012年11月16日 司法省 公表

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【概要】 

 司法省は,eBayが,Intuitとの間で,Intuitの従業員の引き抜きを禁止する協定を締結していたことにより,従業員の獲得競争という競争の重要な一形態が失われ,彼らのより良い仕事に就く機会及びより良い報酬を得る機会が奪われたとして,eBayをカリフォルニア北部連邦地裁に民事提訴した。
 司法省は,従業員の引き抜きを禁止する協定を巡る一連の審査で,2010年9月にAdobe SystemsAppleGoogleIntelIntuit及びPixarの大手ハイテク企業6社を,同12月にはLucasfilmを民事提訴しており,いずれも,勧誘,採用又はその他従業員獲得を巡る競争をやめる又は他社にやめるよう強いる協定の締結の禁止を内容とする和解が成立している。司法省は,このため,2010年9月に合意された和解内容をもって,Intuitに対する提訴を行う必要がないと判断した。

出典: 2012年11月:公正取引委員会

 

ガイダンス関連で興味深い記載を紹介したいと思います。

 

市場

反トラスト法の考え方においては、雇用者の雇用や保持で競争をしている企業が「雇用市場」における競合企業となるようです。また、競合企業となるためには、必ずしも同じ製品・サービスを供給することまでは要しないようです。

From an antitrust perspective, firms that compete to hire or retain employees are competitors in the employment marketplace, regardless of whether the firms make the same products or compete to provide the same services.

ガイダンスP2

 

カルテルの対象

言及されている事案は、専門職に関するものが多いようです。例えば、前述のeBay事件では「specialized computer engineers, scientists, 」に言及がありますし、医療関係の企業やファッション関係の企業の事例がガイダンスで言及されています。

これは、例えば「一般的な営業職」の給与や待遇について、少数の企業でカルテルを行っても、他の企業がより高待遇を提示すればカルテルの実行性が乏しくなるためだと考えられます。つまり、特定の専門職を雇用する少数の有力な企業によるカルテルでなければ、効果がないと考えられます。

特定の地域の医療機関のカルテルの事案が存在することにかんがみると、労働者は移動できるという点で雇用市場の流動化は一定程度存在するとしても、特定の地域で一定のシェアを有する企業であればカルテルとしては効果があると考えられます。

 

情報交換

ガイダンスは情報交換であっても反トラスト法上問題となる可能性があることを示しています。他方で、下記の例は適法とされています。

For example, an information exchange may be lawful if:

• a neutral third party manages the exchange,

• the exchange involves information that is relatively old,

• the information is aggregated to protect the identity of the underlying sources, and

• enough sources are aggregated to prevent competitors from linking particular data to an individual source.

 出典:ガイダンスP5

 

この記載は「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月30日 公正取引委員会*1を彷彿とさせます。

9―4 (事業活動に係る過去の事実に関する情報の収集・公表)

(3) 原則として違反とならない行為

○ 当該産業の活動実績を全般的に把握し、周知するために、過去の生産、販売、設備投資等に係る数量や金額等構成事業者の事業活動に係る過去の事実に関する概括的な情報を構成事業者から任意に収集して、客観的に統計処理し、個々の構成事業者の数量や金額等を明示することなく、概括的に公表すること

 

見解の表明や情報の受領

ガイダンスと同時に公表された「quick reference card」では簡潔に危険な行為を指摘しています。その中には、一方的な意見表明やセンシティブ情報の受領といった、必ずしも相互的ではない行為も含まれています。

Express to competitors that you should not compete too aggressively for employees.

• Receive documents that contain another company’s internal data about employee compensation.

 

次回は雇用契約と日本の独占禁止法との関係に触れてみたいと思います。