競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

雇用契約と競争法(2)公取委の見解

前回 雇用契約と競争法(1)米国ガイダンス - 競争政策研究所 の続きです。

 

今回は、日本における雇用契約と競争法の関係について、公取委の見解を中心に検討したいと思います。

結論を先取りすると、公取委の見解には批判があり、私も疑問が多いと考えます。 

 

労働契約への独禁法の適用: 弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。

http://www2.kobe-u.ac.jp/~sensui/sports-competition%20law.pdf

 

公取委の見解としては、以下のものがあります。

 問5(4月5日追加)
 仕事を失った被災者を地域でなるべく多く従業員として受け入れたい。その際,関係事業者が共同して,又は事業者団体が,賃金,労働時間等について調整したり決定することは,独占禁止法上問題となりますか。
 答
 被災者をどのような条件で雇用するかという雇用契約上の問題ですので,労働関係法令上の考慮の必要性は別として,独占禁止法上は問題となるものではありません。

出典:東日本大震災に関連するQ&A:公正取引委員会

 このように、雇用契約上の問題であれば、賃金等の雇用条件に関してカルテルを結んでも問題ないとされています。

しかし、このような行為は米国では危険な行為(red flag)とされています。

Agree with another company about employee salary or other terms of compensation, either at a specific level or within a range.

出典 

https://www.ftc.gov/system/files/documents/public_statements/992623/ftc-doj_hr_red_flags.pdf

 ただし、被災地における上記の行為については、競争に与える影響や正当化事由の観点から、独占禁止法上問題とならない可能性はあります。しかし、「雇用契約上の問題」であるとの理由で独占禁止法の観点から問題ないとされる論理は不明です。米国の考え方に見られる通り、雇用契約に関してカルテルが行われる場合にも、競争に影響を与える可能性はあると考えられます。

 

この他にも、プロ野球の関連で以下の見解が示されています。

 (事務総長) 今の御質問の点に関しましては,公正取引委員会は,平成6年に,プロ野球球団の団体から新人選手の契約金に上限を設けることについて相談を受けております。これに対しては,平成6年10月ですが,プロ野球選手の契約関係については,労働契約ないしは労働関係としての性格を備えているものとみられる点などを踏まえますと,独占禁止法に直ちに違反するものとの認識は現在有していない,契約金の性格等に関して当事者において確立した理解がされていない面があることから判断は困難であるものの,基本的な認識としては,今申し上げたとおり,労働契約としての性格を備えているものとみられる点などを踏まえますと,独占禁止法に直ちに違反するものとの認識は現在有していないということを口頭で回答しております。

 出典: 平成24年3月28日付 事務総長定例会見記録:公正取引委員会

 

上記の定例会見でも言及されていますが、労働契約との関係は国会でも複数の質疑応答があります。これらの積み重ねにより、プロ野球選手の契約関係についても、「直ちに」問題とすることはできないものと推測します。

独占禁止法に直ちに違反するものとの認識は現在有していない」との発言は「直ちに」と「現在」との2点において、一定の留保を置いたものと考えられます。

 

参考となりそうな質疑応答を掲載しておきます。強調はいずれも引用者によるものです。全体の雰囲気を伝えるため、かなり長くなっています。

国会での質疑応答においては、不当な取引制限(独占禁止法2条6項)の「取引の相手方」に労働者は該当しないことをもって、雇用に関する制限行為は不当な取引制限や事業者団体による競争の実質的制限に該当しないと明示されています。逆に言えば、事業者団体による機能活動制限の適用は明示的には排除されていないとも考えらえます。

しかし、取引との文言が含まれない規定も含めて、雇用契約独占禁止法の適用外と解釈されています。この理由は不明確に思われます。

 

 

参-文教委員会-13号 昭和45年04月28日

○田中寿美子君 この法案の提案理由説明の中にも、映画界の実態を勘案するという——ことばはちょっと違うかもしれませんが、そういうことばがあるわけです。ところがその映画界の実態というのは、これは御存じだと思いますけれども、これは公正取引委員会なんかは十分把握していらっしゃるのが当然だと思うんですけれども、今日これまで、参考人も述べておりましたけれども、映画界の五社というものがあって、これはほとんど独占企業でございますね。五社協定というのは監督に対して統一契約書というのを入れさしておりますね。たとえば専属監督契約書一号のAというようなものを入れさして、それでその中の第六条によりますと、「本契約による乙の監督映画の一切の権利は甲又は甲の指示する会社が保有するものとする。」というような契約を入れておりまして、そして形式上は現行法で自由契約なんですけれども、実際には、五社協定が意味していることは、一社との間に契約上のトラブルが一つでも起きたら他の四社はその監督の地位を剥奪してしまうこともできる、全部干してしまうということもできる。これは監督だけではございませんですね、俳優についてもそうでございますね。たとえば山本富士子が全然映画に出られないのはなぜか、五社の協定を破っているからだ。それから製作会社は五社がほとんど独占している。それに配給機構があって、配給会社があって、それから興業と、縦に独占しているわけですね。で、五社の指定している作品以外のものはほとんど自由には上映できないような体制をつくり上げている。こういう実情を公取のほうでは認識をしていらっしゃるのかどうか。

○説明員(三代川敏三郎君 [引用者注:公正取引委員会事務局経済部長]) 映画の関係につきましては、独占禁止法ができましてから間もなく映画の全プロ契約でありますとか、あるいはしばらくたちましてから、それにかわるものとしてできましたブロックブッキングの契約、そういったものを違反として取り上げて是正をいたしました。そういったように、映画の製作、配給面という点では、映画会社というものは事業者と認められますので、その行為につきましては、独占禁止法の適用があると考えております。で、その監督さんとか俳優さん、それは一体労働者なのか事業者なのか、その点が非常にわかりにくいことでございまして、大部屋の俳優さんあたりですと雇用契約が締結されていると思われますので、労働者ということになると思います。そしてそうでなくて、いわゆる歩合給と申しますか、そういった契約の方々になりますと、それが労働者ということではなくなってくると思われますが、といって、それじゃそれが事業者ということになるのかという点になりますと、その給付するサービスの内容というものが非常に個人的な性格を持っておりまして、はたしてその競争というものにどの程度なじみ得るのだろうか、山本富士子さんの演技というものは山本富士子さんでなければできない、そういったような非常に個人と結びついた性格を持っているように思われますので、その辺で事業者性というものがなかなか判断がつきにくいところでございます。

 

 

-参-法務委員会-3号 昭和53年03月02日

○寺田熊雄君 大分長い弁明だったけれども、それは大変検挙しにくい事件だということはよくわかるんだけれども、あなた方のいままでの実績を見てみるとほかの事件は非常によく検挙しておられるのだから、まあ困難はあると思うけれども、さらに努力をして検挙率を上げていただくように要望しておきます。いいですか。——それじゃ、警察の方はよろしいです。
 公正取引委員会の方にプロ野球の事業についてお尋ねをしますけれども、プロ野球の事業は独禁法第一条に規定する「事業」の中に含まれますか。

○政府委員(戸田嘉徳君[引用者注:公正取引委員会事務局長]) 独占禁止法に申しますところの「事業」には、商業、工業、金融業などのほかに、映画とかスポーツなどがいわゆるサービス業というものも含まれると解されておりますので、プロ野球の事業は独占禁止法第一条に言うところの「事業」に該当すると、かように考えます。

○寺田熊雄君 プロ野球の球団は独禁法第二条の「事業者」に当たりますか。

○政府委員(戸田嘉徳君) 独禁法第二条第一項で「事業者」と申しますときには「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。」と、かように規定しております。たとえば株式会社阪急ブレーブスでありますとかあるいは読売興業株式会社などのいわゆるプロ野球球団はサービス業を行っておるわけでございます。したがいまして、「その他の事業を行う者」に該当するということで、いわゆるここに言います「事業者」に該当するものと考えます。

○寺田熊雄君 そういたしますと、セントラル及びパシフィック野球連盟は、独禁法第二条第二項の「事業者団体」に当たりますね。いかがでしょう。

○政府委員(戸田嘉徳君) 独禁法第二条第二項で、「この法律において事業者団体とは、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体又はその連合体をいい、」云々と、かように規定してございます。ところで、太平洋野球連盟いわゆるパシフィック野球連盟は、株式会社阪急ブレーブス等の六球団、また、セントラル野球連盟は、読売興業株式会社等の六球団をそれぞれ構成員として組織されているわけでございまして、年度連盟選手権試合の実施を行うこと等を目的といたしておるわけでございます。したがって、ここで言う「共通の利益を増進することを主たる目的」としているものと認められるわけでございまして、「事業者団体」に該当するものと考えられます。

○寺田熊雄君 独禁法第二条第六項に、「取引の相手方を制限する」問題をつかまえておりますけれども、これは、雇用契約ないしは請負契約、あるいは雇用契約とも言えず、請負契約とも言えず、まあ一種特別な無名契約とすべきか、そういう疑いはありますが、野球選手契約というのがありますね、これの締結についての相手方を制限するということも含みますか。

○政府委員(戸田嘉徳君) 独占禁止法の第二条第六項で、「取引の相手方を制限する」というふうに規定してございますが、ここに言いますところの「取引」という中には、いわゆる請負契約、これは御承知のように当事者の一方がある事業を完成することを約束しまして、それに対して他の一方がその仕事の結果に対しまして報酬を払う、こういう契約でございますが、かような請負契約は一般的に含まれるものと解されております。しかしながら、雇用契約、これは御承知のように当事者の一方が使用者に対してその使用者の労務に服するということを約しまして、使用者の方がこれに対して給料等の報酬を支払う、こういうことを約する契約でございます。その契約の内容は、まあいわば一定の賃金を得まして一定の雇用条件のもとで労務を供給すると、こういう契約でございます。さらに申しますと、この契約は、非独立的な従属的な状態の時間的に束縛をされた労務を提供すると、かような契約でございます。かような雇用契約は、いわゆる独禁法に申しますところの「取引」には含まれない、かように解されてきております。
 いまお話のございましたところのプロ野球選手契約でございますが、この性格につきましては必ずしも一定した解釈が確立していないようでございますが、私どもといたしましては、これはきわめて雇用契約に類似した契約である、したがいましてこれは独禁法上問題としがたいものと、かように考えて従来運用をいたしてきております。

○寺田熊雄君 最近話題になっております野球界の憲法と言われる野球協約というのがございますね。この野球協約の中に規定されているドラフト制度、このドラフト制度は独禁法第二条第六項の「不当な取引制限」に当たるかどうか、公取のお考えを承りたい。

○政府委員(戸田嘉徳君) ただいまお尋ねのドラフト制度でございますが、これはプロ野球球団が相互に野球選手契約の相手方について一定の制限を課すると、そういうことを内容としているものと考えられるわけでございます。ところが、この野球選手契約というのは、先ほど申し上げましたように、一種の雇用契約に類する契約と、かように私どもは判断いたしますので、独占禁止法第二条第六項または第八条第一項第一号というようなところに言いますところの規定には該当しないと、かように解しておる次第でございます。

○寺田熊雄君 そういたしますと、このドラフト制度は、独禁法第八条第一号の「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。」にも該当しないと、そういう解釈をとっておられますか。

○政府委員(戸田嘉徳君) 仰せのとおりでございます。

○寺田熊雄君 かつて、野球選手の契約金の最高額について球団側が申し合わせたことに関連して、独禁法の問題が論議されたことがありました。もちろん反対論もあります。そうすると、この野球協約に規定せられるその種の事項はすべて独禁法の規律するところの範囲外だと、こういうふうに見ておられるわけですね。

○政府委員(戸田嘉徳君) 私、野球協約のすべてに精通しているわけでございませんのですが、ただ申し上げられますことは、いわゆる雇用、まあ雇用に準ずるといいますか、いわゆる雇用契約に関連することども、さようなものについては独禁法の適用は外れると、かような解釈で運用をしてきておるわけでございます。

○寺田熊雄君 もう結構です、終わりましたから。
 次は法務省の方にお尋ねしますが、いま公取の方の御解釈がちょっとのぞけましたね。プロ野球選手が球団と結ぶ選手契約の法律的性格、これはまあいろいろ契約の自由と関連したりあるいは職業選択の自由に関連をいたしていろいろ論議されておりますが、これは法務省としてはどういうふうにこの選手契約の法律的性格について考えておられますか。

○政府委員(香川保一君[引用者注:法務省民事局長]) 先ほども寺田委員御指摘のように、大まかに申し上げますと、民法における雇用契約と請負契約の中間的な無名契約というふうに法律的な性格を考えるべきだろうと思います。

○寺田熊雄君 いまの民事局長のお話ですと、雇用契約と請負契約の中間にある一種の無名契約と、こういうふうに見ておられるというのですね。いま公取の事務局長は、雇用契約にきわめて類似したと言われる。まあこのごろ中道ということがはやるけれども、どっちの方に傾いているかというそれが問題なんでね。雇用契約の方に近いのか、請負契約の方に近いのか。つまり、雇用契約の類似とまで言えるのかどうか、この点どうでしょうか。

○政府委員(香川保一君) 無名契約につきましてこれは民法自身規定が何もないわけでございますから、いろいろの法律を解釈いたします場合に、やはりその法律の趣旨から、たとえば選手契約が一般的に言って請負契約の方に近いというふうに言えるといたしましても、独禁法の趣旨で言えばやはり雇用に近いものというふうな位置づけもこれはあながち不合理ではないと思うのでありますけれども、先ほど申しました民法から見て請負と雇用の中間的と申したわけでございますから、ほかの法律から見た場合に、その法律の適用上どちらの方に近いものとして考えるかというのは、これはやはり相対的に考えざるを得ない問題だろうと思うのであります。私は個人的にはよくこの選手契約の内容をつまびらかしておりませんけれども、少なくとも民法で考える場合には、どちらかと言えば請負に近いような解釈とした方がいいのじゃないかという感じがいたしておりますけれども、これはまあ民法的な考え方として申し上げる限りでございます。

○寺田熊雄君 公取の方は、どっちかというと雇用契約に類似したという、雇用契約に近い距離を示唆された。あなたは、どっちかというと請負契約に近いというようなお説のようですね。等距離にないというふうな、どちらもそういうニュアンスが感じられますけれども、あなたはドラフト制度についてはどう考えられますか。これはもう御研究になったと思うのですが、これこそ民法九十条との関連、あるいは民法第一条の第二項との関連、いろいろありますね。どういうふうにお考えでしょう。

○政府委員(香川保一君) これはいろいろ見方があると思いますけれども、きわめて法律的にと申しますか冷ややかにと申しますか考えますと、特に選手に選手契約を締結しなきゃならない義務があるわけでもありませんし、また逆に契約締結の請求権を持っているわけでもございませんので、さような基本的な立場で考えますと、民法の九十条、公序良俗に違反する契約というふうには考えられないのではないかというふうに思っております。

-参-経済・産業委員会-15号 平成12年05月11日

○梶原敬義君 わかりました。
 それから、ちょっとプロ野球のドラフト制、これは昭和五十三年に我が党の先輩の寺田議員あたりが議論をちょっとしておりますが、これらの選手が、どうもおれはこの球団に行きたいと、しかしあっちもこっちも声がかかって、くじを引いてくじで当たったところに行かなきゃならぬというような場合に、差しとめ請求というのですか、そういうような形がこれから起こってくるんではないかと、このように思うんです。
 いただいた資料によりますと、ヘイウッド事件と言って、仮差しとめを求めた例で、アメリカのバスケットボールの選手について、NBA、ナショナル・バスケットボール・アソシエーションというところが、高校を卒業して四年間はNBAに加盟するチームに所属することができないと、こういう協会の規則が定まっておって、そして彼は、ヘイウッド氏は、高校を出て四年たたないうちにシアトルチームと契約をした、それでNBAがだめだと、こう言った、それで裁判をやって、一審は仮処分で勝って、二審は仮処分の停止をした、そして上告をして最高裁は仮差しとめ処分を支持したと。ヘイウッドさんの希望するところでバスケットができるようになったというんです。
 今度は、日本のドラフト制というのは、私はこの法律ができたらやっぱり、これは独禁法云々という議論はきょうは時間がないからしませんが、恐らく訴訟が選手からふえてくるんじゃないかと、このように思うんですが、いかがですか。

○政府特別補佐人(根來泰周[引用者注:公正取引委員会委員長]) 私は、こういうドラフトなんかは当然独禁法の適用があると思いましたら、うちの方の学者がこれは適用がないんだという話のようであります。ちゃんと論文を書いた人がおりますから、詳細お聞きならば御説明申し上げますが、アメリカでもプロ野球については何か独禁法の適用がないようでございます。
 そうしますと、ただいまお話しのようなプロ野球の選手がいろいろ野球協約上の問題で不公正な取引方法の被害を受けたということで裁判所へ差しとめ請求、これは請求はできるとしましても勝ち目がないということになるんじゃないかと私は思いますけれども。

○梶原敬義君 結論は、今根來さんの言われたことは、よく聞き取れなかったんですが、結局は本人が訴訟をやっても勝ち目がないということですか。

○政府特別補佐人(根來泰周君) 独占禁止法プロ野球の各種協定に適用がない、それはプロ野球選手と球団との雇用契約であって取引ではないという解釈をとりますと、独占禁止法の適用がないという前提に立てば請求をしても勝ち目がないんじゃないかと思うわけでありますし、また、これは何か悪意の場合には担保を提供するというようなことがございますから、入り口でもいろいろまた問題もあろうかと思います。

○梶原敬義君 結局、不当な取引制限に当たるのか、あるいはこのプロ野球選手がドラフトにかかるというのは不当な取引制限に当たるんではないかというのが、私は当然当たるんだろうと、こう思います。しかし、今言われているのは、一種の雇用契約だということから独占禁止法にはひっかからないということなんですかね、今言われているのは。

○政府特別補佐人(根來泰周君) 何か通説はそういうことのようです。

○梶原敬義君 これは、先ほど言いましたヘイウッド事件という、バスケットボールの選手が裁判を繰り返しながら最終的にはヘイウッドさんの仮差しとめ処分がアメリカでは最高裁では勝っているんですよね。だから、なかなか簡単にはこれはいかないんじゃないかと思うんですけれども、ちょっと。

○政府参考人(山田昭雄君[引用者注:公正取引委員会事務総局経済取引局長]) 御指摘のとおり、アメリカではプロのバスケットボールもサッカーもこれは独禁法の適用があるとされております。野球につきましては委員長が申しましたように適用除外となっていましたが、最近その適用除外の範囲を縮めまして、一応適用があるというような判例なり、あるいは制定法で適用除外としていたものが範囲が縮小されるというようなことでございます。
 我が国の場合につきましては、プロ野球の球団と野球選手との関係というのは、これは雇用契約の色彩が非常に強いのではないか、あるいは前回の国会等の御議論では請負契約の色彩もあるんじゃないかと。いずれにいたしましても、独占禁止法上の球団と野球選手との取引関係があるかどうかということで、独立の事業者と言えるかどうかという問題であろうかと思います。
 したがいまして、これは公正取引委員会として従来そのように考えそのように運用してきたわけでございますが、これはどうもひいきの球団がどこであるかによりましてもそれぞれ解釈がかなり違っておりますので、裁判所に訴えを提起しそして司法の判断を求めていくというのも、これもまた一つの道ではないかというようには思います。そして、委員長が先ほど申しましたように、判例として集積していくということではなかろうかと思います。

 

 

-参-文教科学委員会-5号 平成19年03月27日

鈴木寛君 ありがとうございます。
 今、正に局長から野球界に対してもそういうことを申し上げたいという大変貴重な御答弁をいただきました。是非そうした注意喚起をしていただいて、これを機に本当に、いろいろな知恵はあると思いますので、ジュニア期からいかにそうした健全な育成をしていくか。
 それと、スポーツ・青少年局というのは非常に重要なポジションにありまして、結局教育的な配慮と、これやっぱりバランスの問題ですよね、教育的な配慮もしなければいけない。しかし、その一方でやっぱりスポーツの振興、その中で非常に、特にスポーツ能力の高いジュニア人材、若手人材をどういうふうに育成していくかと、このスポーツ振興の、これの折り合いを付ける。さらに、青少年の健全育成というこのかなめを握っておられるのが私はスポーツ・青少年局長であると思っておりますので、これ、そうした野球界とも、何というんですか、コミュニケーションはやっぱり密に、もちろんそれぞれ自立した、独立した運営であるということはこれは当然ですけれども、いろんなやっぱり意見交換とか、我々の問題関心を時々はきちっと伝えていただくとか、そういうことは是非私はやっていただきたいというふうに思いますので、今文部科学省としても野球関係団体等々に注意喚起をしていただくという大変前向きな御発言をいただきましたことは大変多としたいと思いますし、是非これを機に頑張っていただきたいなと、こういうふうに思っているところでございます。
 それで、もう少しこの問題を掘り下げてみたいと思うんですけれども、なぜここまで青田買いが過熱してしまうかということは、ある意味では入団してからの問題ともこれ裏腹の関係にあります。すなわち、これ九年たつとフリーエージェントという、FAという制度が利用できるわけでありますけれども、これは例えば一軍に九年間いなきゃいけないとか、物すごく限定された制度になっているわけですね。
 一般の企業でありますと、企業も野球もこれは人材がすべてであります。新人のいい人材を採れるかどうかということに皆さん躍起になるわけでありますし、と同時に、今かなり世の中、人材の流動化というのがなされていて、中途採用というんでしょうか、経験者の採用でもって強化をすると。それから、人材の方も、Aという会社にはなかなか自分の活躍の場はなかったけれども、Bという会社であれば自分が本当に活躍する場もある。これはチームワークですから、それぞれの人の能力の問題もありますけれども、相性とか、働く職場と。そういうふうにある程度人材の流動化ということができることによって組織といいますかチームというのは、新人の採用とそれから中途の経験者と、この両方のベストミックスによっていいチームづくりというのはしているわけであります、民間企業においては。
 ただ、野球界の場合は、あるいは実は国家公務員の場合もそうかもしれませんけれども、なかなか中途の戦力強化ということが十分に行えないがために、どうしてもこの新人のところに過度な、何といいますか、バイアスが、荷重が掛かってしまうというのが現状かと思うんですけれども。もちろん、難しいことはよく分かってはおりますけれども、選手のより自分が頑張りたいチームで頑張りたいと、こういう非常に率直で素朴な思いというものを私はもう少しかなえてあげてもいいんではないかなというふうに思います。
 そういう中で、これも二〇〇四年来ずっと問題提起がされてきた問題ですけれども、今日は公正取引委員会にも来ていただいていますけれども、プロ野球の球団と選手との契約の在り方で、私は、契約というのは基本的にはやっぱり対等な立場で契約ができると、もちろん合理的な制限というんでしょうか、制約というのはある程度はやむを得ないと思いますが、しかしそれは必要最小限でなければならないというのが契約あるいは民法の大原則だと、こういうふうに思っております。
 明らかにその原則が崩れていることは事実であります。もちろん、しかしプロ野球界の全体の発展という中でやむを得ない部分もあるということも承知しておりますが、例えば日本プロフェッショナル野球協約というのがございます。その四十五条とか四十六条では、契約というのは全部これ統一契約でやらなきゃいけないということになっているんですね。それで、「球団と選手との間に締結される選手契約条項は、統一様式契約書による。」と、こういうふうになっているわけなんです。これまた面白いことに、監督並びにコーチとの契約条項は統一契約書によらないというふうになっているんですね。ここに明らかに差別的取扱いというのがありまして、そして「統一契約書の様式は実行委員会が定める。」というふうに言っています。
 これは民法上は約款契約ということだと思いますが、約款契約であればその約款契約の妥当性、例えば銀行の約款契約であればそれの妥当性については金融庁がそれを監督しているということになっていますし、あるいは生命保険でも同じようなことだと思います。
 要するに、このような統一の基準、統一の約款でやらなければいけない業務というのは、例えば運輸業にしてもいろいろな業務がありますが、その場合はきちっとそれを、だれかがその公益性、あるいは客観性、あるいはそれの必要最小限の措置であるということを確認するという方法が入っているわけでありますけれども、NPB、日本プロフェッショナル野球機構というのは別にそうした役所の監督というものもない。これは別に私それでいいと思うんです。それを監督、文部省が所管しろなんということはみじんも言うつもりはありませんが。
 しかし、それが本当に公正な契約自由の原則、あるいは公正な契約関係の樹立という観点から問題がないのかどうかということはやはりきちっと関心を持って、これだけの好機でありますから注目する必要があるんではないかと思いますが、公正取引委員会はこのNPBの野球協約についてそういう観点から検討とか検証とか行っているのか、あるいはそこまで本格的なことはおやりになっていないにしても、どういうふうな問題関心を持って、これ何年間に一回問題になるこのドラフトの問題とか契約の問題とかFAの問題、研究をされておられるのか、その辺りの状況についてお答えをいただきたいと思います。

○政府参考人(鵜瀞恵子君[引用者注:公正取引委員会事務総局経済取引局取引部長]) 野球協約についてのお尋ねがございました。
 野球協約にはいろいろな定めがあるようでございますけれども、御指摘の点はドラフト制度あるいはFA制度にかかわるものと理解いたしますので、野球選手契約についてどう考えるかということかと存じます。
 野球選手契約につきましては、一種の雇用契約に類する契約と考えておりまして、プロ野球における現行の契約慣行を前提として考える限り、独占禁止法上の取引に直ちに該当するものとは解されませんで、独占禁止法上問題となるものとは言い難いというふうに考えております。
 過去に検討したことがあるかというお尋ねでございますけれども、何度か国会で答弁をさせていただいております。