最恵国待遇条項
アマゾンジャパンに公取委が立ち入りをしたとの報道がなされています。調査の対象となったのは、「最恵国待遇条項」と称されるもののようです。具体的には下記となります。
「今回の公取委の調査の対象となっているとされる取引条件は、『最恵国待遇条項(most-favored-nation clause)』(「MFN条項」)等と呼ばれているものです。
これは、アマゾンの通販サイトでの販売価格が、ライバルである他の通販業者等の通販サイトでの販売価格よりも高くならないこと(アマゾンで買うのが一番安いか、少なくとも他で買うのと同じ価格であること)を、出品者に対して約束させるものです」
最恵国待遇条項について、報道のみでは独占禁止法上または競争法上、なぜ問題となり得るか、つまりどのような競争に対する悪影響が生じ得るかが理解しにくい面があります。簡潔にまとまったものとしては、
中野清登. (2015). ビジネスを促進する 独禁法の道標 (第 22 回) 最恵国待遇条項が競争に与える影響. Business law journal, 8(11), 72-81.
となります。
本論文では、最恵国待遇条項の反競争性を下記の2点として説明しています。
(1)競争者の排除または新規参入の阻止
既存事業者(A)とその上流の事業者(B)の間に最恵国待遇条項が存在することにより、新規参入者が上流の事業者(B)から安価に調達することができず、結果、既存事業者(A)の存在する市場に参入することが困難となる。
(2)協調的行動の促進
ある市場(川下市場)の競争者が並列的にその上流の事業者との契約に最恵国待遇条項を取り入れている場合、この上流事業者は一社との間で値下げすると他の取引先(川下)にも値下げする必要が生じ、値下げのインセンティブが低下する。上流に複数の事業者が存在し、それぞれ下流との契約に最恵国待遇条項が含まれていて、値下げのインセンティブが低下していることを互いに認識していた場合、上流の事業者間で価格の維持や値上げといった協調的行動が促進される可能性がある。
ただし、本論文は最恵国待遇条項の一般論を述べていますが、プラットフォーム関連の事案として考える場合は留意が必要な箇所があります。(2)の点は、卸売価格への影響に見えるものの、アマゾンのマーケットプレイスやホテル予約サイトといったプラットフォーム型(代理店モデル)の取引の場合は、小売価格に直接影響するものと考えらえます。
より端的には下記の白石教授のツイートが示しています。
MFNは結局、拘束側事業者とその同等の競争者の間で競争停止を起こしやすく、同等未満の競争者に対して排除効果が起こしやすいのではないかと思います。同等の競争者がいなければ排除効果だけが目立ちやすいので特にそちらが議論される。MFN plusならなおさらそうなる。全て一般論です。
— 白石忠志 (@tadashi_o_) 2016年8月8日
ところで
中野清登. (2015). ビジネスを促進する 独禁法の道標 (第 22 回) 最恵国待遇条項が競争に与える影響. Business law journal, 8(11), 72-81.
では興味深い記載がありました。
(公取委の執行はカルテルが大半であり)公取委は最恵国待遇条項のような新規性が高い行為態様への法執行について慎重であると思われる。また、最恵国待遇条項は効率性の向上に資する場合があるため、最恵国待遇条項についての法執行においては、反競争性と効率性の向上のそれぞれについて慎重な判断が必要であるところ、その判断は容易ではない。そのため、公取委が近い将来に最恵国待遇条項の反競争性に着目した摘発を行う可能性は低いと思われる。
未だ措置という意味で法執行はなされていないものの、「摘発」との言葉からは著者は公取委の立入調査も消極的に予想していたのではないかと考えられます。
これは、予想が外れたことを批判するのではなく、当時としては合理的な予想であったが、状況が変化したことを示唆するものとして考えています。
以下のような指摘もありました。
審査局長が変わってから矢継ぎ早ですね、という感想は、的を射ているのが、的を得ていないのか、と、誤字で煙に巻いてみました。
— 有馬猪右衛門 (@ArimaShishiemon) 2016年8月8日
(注)2016年6月17日付で、山本佐和子審査局長が就任しています。
http://mainichi.jp/articles/20160615/ddm/008/060/154000c