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競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

(論文紹介)プラットフォーム産業における市場画定

RIETI にて川濵 昇教授、武田 邦宣教授の論文が公表されていました。

 

www.rieti.go.jp

 

プラットフォームの市場画定に関連して、無料市場、データ市場、イノベーション市場を含めて、現状の議論が紹介されています。

内容は消化しきれていませんが、簡潔に整理されている論文のように感じました。追って検討してみたいと思います。

 

ただし、プライバシーの議論も含めて、欧州委のMicrosoft/LinkedIn事件は触れられていないように思われます。

(EU)MicrosoftによるLinkedIn買収の条件付き承認 - 競争政策研究所

 

 

ところで、今更ですが、Microsoft/LinkedIn事件は決定も公表されており、今後検討したいと思います。

http://ec.europa.eu/competition/mergers/cases/decisions/m8124_1349_5.pdf

 

 

ガソリン適正取引慣行ガイドライン(経済産業省)

2017年3月下旬、経済産業省が下記を公表しました。

「ガソリン適正取引慣行ガイドライン」を策定しました(METI/経済産業省)

 

次の記載はあるものの、「ガイドライン」でありながら、経済産業省の所管法令に関する判断基準を示しているものではなく、具体的な法令上の処分等との関連があって作成したものでは無いと考えられます。

経済産業省は、石油製品の需要減少、元売の経営統合等環境変化にかかわらず取引の安定を確保していくため、一層適正な取引慣行を実現することが重要であることから、今般、「ガソリン適正取引慣行ガイドライン」を策定しました。

(発表文より)

 

ガソリン適正取引慣行ガイドライン(以下「経産省GL」)では、なぜか独占禁止法に関する記載が見られます。今回の記事で、それぞれの根拠について検証したいと思います。

 

(1)優越的地位

このような元売と系列SSの間の取引関係については、系列SSは、系列取引関係にある元売に関連する投資を既に行っており、他の元売への取引先変更は容易でないと認められ、事業経営上大きな支障をもたらすことが多いことから、一般に、元売は系列SSに 対して優越的な地位にあるといえる。

 (経産省GLのP2)

 

公取委関連文書では、次の記載が確認できました。以下公取委の文書は青字とします。

系列特約店は,特定の元売と取引するに際し,その元売に関連する投資を行っているなど,取引先を他の元売等に変更することが事業経営上大きな支障をもたらすことが多い。したがって,一般に,元売は,系列特約店に対して優越的な地位にある。

出典:ガソリン等の流通における不当廉売,差別対価等への対応について:公正取引委員会 第3

 

エ 元売と系列特約店との関係
 系列特約店は,特定の元売にガソリンの供給を依存している。元売は,資本金の額が1000億円を超える者を含む大規模な事業者である一方で,系列特約店(特に一般特約店)の多くは運営するSS数が1~3箇所の小規模特約店であるとみられる。

 また,系列特約店が取引先である元売を変更した場合には元売が発行しているクレジットカードの顧客が失われる懸念があること,ブランドを変更すると信用力・集客力が低下する懸念があること,系列特約店は特定の元売と取引するに際し当該元売に関連する投資を行っていること等を考え合わせると,系列特約店にとっては,取引先を他の元売等に変更することが事業経営上大きな支障をもたらすことが多い。したがって,一般的にみると,元売は,系列特約店に対して優越的な地位にあるものと考えられる。

出典:(平成28年4月28日)ガソリンの取引に関するフォローアップ調査について:公正取引委員会 報告書P37ー38

 

経産省GLの記載は、「ガソリン等の流通における不当廉売,差別対価等への対応について」(以下「公取委GL」)をなぞったものとなっています。しかし、「優越的地位」は独占禁止法上禁止されている「優越的地位濫用」の一要件であるものの、それのみで法令上の意味を持つ訳ではないため、経済産業省ガイドラインの記載に独立して記載されることには違和感があります。

 

(2)優越的地位の濫用 

(問題となるおそれがある想定例)

系列SSに対して優越的な地位にある元売が卸売価格を一方的に決定するなどにより、正常な商慣習に照らして不当に、系列SSに不利益となるような取引の条件を設定することは独占禁止法上問題となる(優越的地位の濫用)。

経産省GLのP4)

 

系列特約店に対して優越的な地位(注2)にある元売が系列特約店に対する卸売価格を一方的に決定するなどにより,正常な商慣習に照らして不当に,系列特約店に不利益となるように取引の条件を設定すること(独占禁止法第2条第9項第5号) 

出典:ガソリン等の流通における不当廉売,差別対価等への対応について:公正取引委員会 第3

 

この経産省GLの記載は、問題となる「おそれ」ではなく、「問題となる」とあるため、表現が強いように感じられましたが、公取委の文章をほとんどそのまま使用しています。

 

(3)差別対価等

(イ)関係法令等に関する留意点

 有力な事業者が同一の商品について、取引価格やその他の取引条件等について、合理的な理由なく差別的な取扱いをし、差別を受ける相手方の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合には、独占禁止法上問題となる。

(問題となるおそれがある想定例)

 系列SSの仕切価格について、個別の値引き交渉により、特定の系列SSを競争上著しく有利又は不利にさせるなど、合理的な理由なく差別的な取扱いをし、一般SSの競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合には、独占禁止法上問題(差別対価等)となる。

 (経産省GLのP6)

 

有力な事業者が同一の商品について,取引価格やその他の取引条件等について,合理的な理由なく差別的な取扱いをし,差別を受ける相手方の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合にも,独占禁止法上問題となる。

出典:ガソリン等の流通における不当廉売,差別対価等への対応について:公正取引委員会 第2の1(2)

 

系列特約店の仕切価格について, 個別の値引き交渉により,特定の系列特約店を競争上著しく有利又は不利にさせるなど,合理的な理由なく差別的な取扱いをし,一般特約店の競争機能に直接かつ重大な 影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合には,独占禁止法上問題(差別対価等)となることに留意する必要がある。

 出典:(平成28年4月28日)ガソリンの取引に関するフォローアップ調査について:公正取引委員会 報告書P39ー40

 

こちらの経産省GLの記載も、公取委の文章をほとんどそのまま使用しています。

 

(4)その他(他の行政機関との関係)

経産省GLには独占禁止法以外に、景品表示法に関しても記載があります。

事業者の努力によって良質・廉価な商品・サービスを提供して顧客を獲得する競争は公正な競争環境の確保にとって不可欠であるが、独占禁止法上の不当廉売や不当景品類及び不当表示防止法上の有利誤認に該当する行為に対しては厳正な対処が行われるべきである。

経産省GLのP8)

 しかし、「経済産業省の対応」(経産省GLのP9)として、「経済産業省としては、(中略)公正取引委員会に対して、独占禁止法に違反する疑いのある事実に接した場合には、密接な情報提供を行うことにより、厳正な対処を求めていく」とはありますが、景品表示法違反の疑いのある行為について、消費者庁に対する対応は明記されていません。

 

 

(参考)

japancompetitionpolicy.hatenablog.com

 

 

 

長崎県での金融庁説明会

実施から1ヶ月以上経過してしまいましたが、金融庁が2017年3月8日に長崎県での説明会を開催したとされています。公式の記録は確認できていませんが、一定の記事が存在します。

www.kinzai.jp

www.nikkei.com

 

(1)開催目的

説明会の開催目的は、

  • 「市場が寡占化して貸出金利が高止まりする」といった地元の不安を解消

に加えて、

が推測されています(上記「きんざい」記事より)。

 

(2)金融庁による経営統合推進

上記2記事によると、

については誤解と述べられたようです。

 

この「誤解」に関して下記の論文を連想しました。

長崎県における地域銀行の経営統合効果について」 (大庫 直樹、中村 陽二、吉野 直行 2017年1月)

http://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2016/06.pdf

 

同論文では、ふくおかフィナンシャルグループ十八銀行の経営統合について、銀行の費用削減、貸出金利の低下などの「事実が検証されるなか、十八銀行親和銀行の合併を促さない事由は何であろうか。」 と結論として述べています。

公取委が経営統合を「認めない事由」でなく、「促さない事由」となっており、経営統合を促すような積極的な関与を暗に提言しています。

この「促す」主体は明示されていませんが、公取委が促すことは無いと考えられ、金融庁又は政府全体と考えられます。

このような論文からも、金融庁長崎県の地銀の経営統合を積極的に推進しているとの見方は整合的に感じられます。

 

(3)金利に対する金融庁の関与

金融庁

  • 寡占化による貸出金利の上昇シナリオは、「検査・監督を通じたモニタリングによって解消可能」(幹部)という考え方

を有しているとのことです(上記「きんざい」記事より)。

 

具体的に想定される手段、その手段の効果は定かではなく、貸出金利上昇を「解消」できるのかも不明です。しかし、競争政策の観点からは、価格に対する行政機関の関与は原則として、否定的に解されています。*1

 

 

以下の記事もご覧ください。

japancompetitionpolicy.hatenablog.com

japancompetitionpolicy.hatenablog.com

*1:例えば、

行政指導に関する独占禁止法上の考え方:公正取引委員会

公正かつ自由な競争を維持・促進するためには、商品又は役務の価格設定が事業者の自主的な判断に委ねられる必要があり、行政機関は、法令に具体的な規定がない価格に関する行政指導により公正かつ自由な競争が制限され、又は阻害されることのないよう十分留意する必要がある。

「デジタルカルテル」の定義など(2017.4.2日経記事より)

日経新聞に「デジタルカルテル」についての記事が取り上げられました。

ニュースが少ない日曜日とはいえ、一定の紙面をさいて、また電子版ではインタビューも掲載されていました。

AIが価格調整 デジタルカルテル、法的責任だれに :日本経済新聞 (記事1)

「暗黙の了解」成立するか 現行法で対処難しく :日本経済新聞 (記事2)

AI時代の競争ルール「過度の萎縮不要」 弁護士に聞く :日本経済新聞 (記事3)

 

これらの記事については既に批判的な指摘があります。

日経朝刊「デジタルカルテルの挑戦状」という記事について: 弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。

 

植村弁護士の指摘に一定程度同意できる部分はあり、記事自体は焦点が定まっていないきらいもありますが、問題提起としては意欲的な取り組みだと感じました。

まだ記事の内容や「デジタルカルテル」自体を消化できていないのですが、ソースを確認しつつ、第一歩としての考察をしたいと思います。

 

(1)デジタルカルテルの定義

記事1では

価格決定アルゴリズムを使い事業者が利益の最大化を図る「デジタルカルテル

として定義しています。

しかしこれでは、共同行為か単独行為かも不明です。日本語では、次のような言及がありますが、「例えば」、「等」がつくとおり、デジタルカルテルの外延は明確でないと考えられます。

4.デジタルカルテルの出現

例えば、事業者が共通の価格決定アルゴリズムを使⽤すれば、市場データに基づいて価格調整が 可能となる。また、AIを⽤いて利益最⼤化アルゴリズムを組むことで黙⽰の共謀が可能。

出典:経産省事務局説明資料P4

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/001_04_00.pdf

 

OECD 事務局作成文書 「BIG DATA: BRINGING COMPETITION
POLICY TO THE DIGITAL ERA」(2016年 11 月)

(報告書では,同一の価格アルゴリズムを用いることで市場データに対応して同時に価格調整を行うようにすること等の「デジタルカルテル」の出現可能性についても言及しているが,本検討会では議論の対象としない。)

出典: 別紙3「ビッグデータに関する海外当局の事例と議論」P2

http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170120data06.pdf

 

OECDの文書*1でも、「デジタルカルテル」は特に定義がされていません。ただ、デジタルカルテル関連で、以下の例示はありました(パラグラフ80)。

  1. リアルタイムデータの分析による明示のカルテルの遵守を監視する
  2. 同じ価格アルゴリズムを企業間で共有する
  3. 市場の透明性を向上させたり、行為の相互依存性を高める(例:価格下落に対する報復的値下げのプログラミング)ことによる暗黙の共謀を促進する
  4. 利潤を最大化する人工知能を利用し、その人工知能が暗黙の共謀を達成する 

また、OECD文書は、3と4について、将来的に競争当局にとって、少なくとも現行の競争法の枠組みを前提とすれば(at least using current antitrust tools)、価格を協調する意図を立証することは非常に困難となるだろう等と述べています。*2

 

おそらくこの部分が記事1における下記指摘の出典と思います。

経済協力開発機構OECD)はビッグデータに関する競争上の懸念を指摘した文書を昨年10月に公表。「自ら学習して他の機械と協調するAIが介在する場合は、企業間の価格調整の意図の立証が非常に困難」と現行法に問題提起した。

OECDの文書がやや不明確ではありますが、「意図」よりも「合意」の立証が困難という文脈ではないかと感じます。

 

 

 

(2)過去の公取委への相談事例

記事1は「競合企業同士に明確な合意がなくても、競争法上の問題が生じるかを検証した事例」として、以下に触れています。

エンサイドットコム証券が、日本国債を電子取引できる同社の売買インフラが独禁法上問題がないか、公正取引委員会に事前相談した例だ。

 同社は取引に参加する証券会社に対し、各社が機関投資家に提示する気配値(売買注文に応じる価格)を提供している。公取委はこの情報提供が証券会社間に国債の売買価格の目安を与え、各社間で売買価格に関する暗黙の了解や共通の意思形成がされるかどうかを検討。02年に「問題なし」との回答を公表した。

 

具体的には次の事例と考えられます。

国債取引に関する電子サイトを利用した私設取引システムについて:公正取引委員会

 

記事では触れられていないものの、この事例での判断では、対象市場での証券会社間の競争が活発であることが重要であったと考えられます。

(ウ) 以上からすれば,エンサイが,競争を活発に行っている証券会社に対して最良気配値をフィードバックすることは,国債の売買価格についての透明性を高め,証券会社間の競争を促進する効果をもたらし,直ちに独占禁止法上問題とはならないと考えられるが,一方で,最良気配値が,各社が次に気配値を配信する際の目安となる可能性を否定することはできない。

 

記事では、公取委が「暗黙の了解や共通の意思形成がされるかどうかを検討」し、そのおそれがないとして「問題なし」との判断をしたかのように見えますが、むしろ、「暗黙の了解や共通の意思形成」がなされないように、注意喚起しています。

 

ただし,エンサイが証券会社にリアルタイムで最良気配値をフィードバックすることについては,証券会社間に国債の売買価格についての共通の目安を与え,各社間で国債の売買価格に関する暗黙の了解又は共通の意思の形成につながる可能性があることを現時点で否定することはできない。仮に,今後,エンサイのサイトを利用して,証券会社間で国債の売買価格に関して情報交換を行うなど,暗黙の了解又は共通の意思が形成されれば,独占禁止法上問題となるので,このようなことがないよう十分留意する必要がある。

(3 結論 抜粋)

 

ほかにも、Uber関連の話題や欧州委ベステアー委員のスピーチにも言及したいのですが、長くなりそうなので、一度中断したいと思います。

Bundeskartellamt 18th Conference on Competition, Berlin, 16 March 2017 | European Commission

*1:

https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf

*2:パラグラフ81

The two last strategies may pose serious challenges to competition authorities in the future, as it may be very difficult, if not impossible, to prove an intention to coordinate prices, at least using current antitrust tools. Particularly in the case of artificial intelligence, there is no legal basis to attribute liability to a computer engineer for having programmed a machine that eventually ‘self-learned’ to coordinate prices with other machines.

日経経済教室:新時代の競争政策(上)大橋弘東大教授

2017年3月22日と23日に連続して、日本経済新聞の経済教室欄に「新時代の競争政策」と題して、大橋教授と杉本公取委委員長の主張が掲載されていました。

新時代の競争政策(上)IT世界の寡占化 課題に データ囲い込み 対応急務 大橋弘・東京大学教授 :日本経済新聞

 

新時代の競争政策(下)経済成長・格差是正に寄与 デジタル化への対応重要 杉本和行・公正取引委員会委員長 :日本経済新聞

 

今回は大橋弘東京大学教授の記事について、考察したいと思います。

 

大橋教授は、独禁法とも関係の深い産業組織論を専門とする方であり、かつ、経済産業省の競争政策関連の研究会で座長を務めています。*1

 

大橋教授の主張としては、日本では人口減少と第四次産業革命という2つの課題を踏まえた競争政策が必要であり、前者への対応としては競争当局と他府省との連携、後者への対応としてはデータ関連の事件の摘発のために競争当局の体制・専門性の確立が必要とのものです。

 

全般的には興味深い主張と感じました。しかし、数点の疑問があります。

 

(1)人口減少

まず、下記の表を基礎に次のとおり述べています。

鉄鋼に関して直近10年間の財務データを分析すると、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)でみた寡占度は世界的な減少傾向とは対照的に、わが国では高まっている(表参照)。今後の詳細な分析は不可欠だが、国内の業界再編は、急激な人口減少に直面するわが国に特有の現象であることが分かる。

 

 

 

f:id:japancompetitionpolicy:20170325234504j:plain

「今後の詳細な分析は不可欠」との留保をしつつ、 この表の鉄鋼部分から、「国内の業界再編は、急激な人口減少に直面するわが国に特有の現象」と主張しています。

しかし、

(1)米国、英国、韓国等の国との比較がないため、日本特有の現象かどうか不明

(2)人口現象と業界再編との関係性が不明

(3)鉄鋼のみのデータで日本全体に一般化してよいか疑問

(4)世界全体では、2006年から2015年の間に中国、インド等の新興国の急速な発展があり、その影響に触れられていない

といった点が気になりました。

データソースは検証できませんでしたが、世界全体の寡占度(HHI)があまりにも低く、「鉄鋼業」の実際の範囲が気になりました。世界全体のHHIが120では、シェアが最大の企業でも11%未満*2となり、相当広範囲の企業を含めているように感じます。

 

人口減少部分は「業界再編」つまり、企業結合を念頭に記載されています。

「他府省と連携」という言及からしても、明示的に触れられていませんが地方銀行の企業結合を視野に主張がなされているように感じました。

 

また、「競争制限効果が強く働けば、需要家がその地域から離れる可能性がある点にも留意が必要だ。」との点にも疑問があります。理論的可能性はあるにせよ、需要者が実際に安価な財・サービスをもとめて移動するとのイメージは持ちにくいです。銀行に即して言えば、企業が低金利を求めて長崎から福岡などに移動するでしょうか。

仮に移動が大きく起きるとすれば、人口減少地域から都市部に企業や人が移り、東京等への集中が加速すると考えられます。そのような結果自体は当然の帰結かと思いますが、地方創生との政府の方向とは異なるおそれがあります。

 

(2)第四次産業革命

後半部分に大きな違和感はありません。

ただし、「わが国のものづくりの最先端技術」、「わが国のものづくりの優位性」がビッグデータの活用、第四次産業革命によって失われるおそれがあるとの主張については、説得的ではないように感じました。この場合の「わが国」の「ものづくり」が何を指すかは明確ではありませんが、製造工場自体は海外に移転し、製品の設計や企画を含めた企業全体でも東芝やシャープといった企業が苦戦しています。日本において、「ものづくり」に優位性が存在し、それがどの程度経済全体に大きく影響していることは、もはや自明ではないように感じられます。

 

*1:

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/001_02_00.pdf

http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160915001/20160915001-1.pdf

*2: シェア1位が11%で他はごく小さいとしても、11%の二乗で121となり、120を超えることになる。

HHIについては、下記を参照しました。

用語の解説:公正取引委員会

新潟県の地銀が経営統合との報道

3週間連続で銀行関連の記事となってしまいました。

 

新潟県で最大手の第四銀行と二番手の北越銀行が経営統合するとの報道がありました。

地銀再編、次は新潟で第四・北越が経営統合へ | 週刊ダイヤモンドSCOOP | ダイヤモンド・オンライン

 

両行とも、経営統合は決定していないものの、検討自体は認めています。*1

 

両行の県内の貸出市場の合計シェアは約50%とされています。*2

一部報道によれば、シェアは69%に達するとありました。*3しかし、その報道でのシェアのソース*4を見ると、「新潟県内の地銀から信組までの23金融機関の貸出金合計」を分母にとっており、都市銀行政府系金融機関の数値を捨象しているため、シェアが上振れしていると考えられます。

また、「シェア69%」については、両行の県外向け融資残高も含まれているので、県内のシェアとしては、やはり50%程度のとの報道もありました。*5ただし、この推計に基づけば、両行の融資残高の相当程度が県外向けでなければ辻褄が合いません。両行は他の県内金融機関に比べて、県外向け融資の割合が高いようには思えますが、それだけでシェアが2割も変わることについては疑問があります。

 

このシェア50%という数字は、長崎の銀行経営統合後では60%以上とされているのに比べると、低く感じられます。

*6

しかし、もちろんシェア50%とは非常に高い数字ですので、上述の報道でも指摘があるように、公取委の審査が注目されます。

 

ところで、今回の調査の過程で、3月8日の長崎県での説明会について、ある程度内容の分かる記事を見ました。

www.kinzai.jp

さらに地銀の話題が続きますが、来週は上記の記事について取り上げたいと考えています。

 

長崎県の銀行の企業結合:金融庁の説明会と官房長官コメント

前回の記事と関連する内容です。

長崎県の銀行の企業結合についての記事と論文 - 競争政策研究所

 

公取委で二次審査中の「株式会社ふくおかフィナンシャルグループと株式会社十八銀行の経営統合」*1に関連して、十八銀行の基盤である長崎県で、金融庁が企業向けの説明会を開催したとされています。また、報道では、金融庁が「指針」を示すとされています。

 

地銀再編で異例の指針 金融庁「顧客の視点重視を」 統合効果、地域に還元 :日本経済新聞

しかし、この「指針」がいわゆる「ガイドライン」として、法令解釈に関連して文書で金融庁の考え方を示すものであるのか、説明会で口頭で示された内容を指すのかは分かりません。なお、現時点で、説明会や「指針」の内容について具体的には確認できていません。

 

この説明会に関連して、3月8日午後の菅義偉官房長官記者会見で、発言があったようです

官房長官、地銀統合「地域の活性化につながることを期待」 :日本経済新聞

 

前置きが長くなりましたが、今回はこの官房長官記者会見について、考察したいと思います。

平成29年3月8日(水)午後 | 平成29年 | 官房長官記者会見 | 記者会見 | 首相官邸ホームページ

(該当部分の質疑は11:20ころから)

 

まず、内容全体を文字に起こししました。

(記者)共同通信のAです。話題変わりまして地方銀行の関係でお尋ねします。金融庁は、本日、ふくおかフィナンシャルグループと経営統合で合意している十八銀行の地元長崎で、企業向けに異例の説明会を開きましたが狙いをお願いします。


官房長官)まずですね、ふくおかフィナンシャルグループ十八銀行が経営統合を公表していますが、現在公取で審査が行われている途中だそうでありますのでコメントを控えたいと思います。
 いま指摘されました説明会ですけれども、地元企業の方から色々な不安が出てくるとか色々な問題がありましたので、金融庁の地域金融に対する考え方など、そうしたことを長崎県の皆様に対して説明をしたということであります。

(記者 上記と同一かどうかは不明)いま長官がおっしゃりましたように、(経営統合は)公取委で審査が行われているわけですが、二社の統合が実現すれば、県内の貸出金シェアの二社の(統合後の銀行の)割合が高くなって金利が高止まりしてしまうのではないかと懸念があるのですけど、こうした懸念自体、長官はどうお考えでしょうか

官房長官)説明会ではそうした地元の不安があったので、まだ審査中でありますけれども、地域金融に対しての金融庁としての考え方を示して安心をしていただいたということではなかったでしょうか。私(の個人的見解)ということではありますけれども、政府として、やはり地域の金融機関がですね、経営統合あるいは再編するということはですね、まず自主的な判断ではありますけれども、一般論で申し上げれば、地域の金融機能が更に円滑に発揮されて地域の活性化につながることをこれは期待したいと思います。

 

 

 映像では、官房長官は一定の頻度で手元に視線を落としており、回答のスクリプトがあることがうかがわれます。回答の内容も、経営統合自体の見解を問われていないにもかかわらず、公取委にて審査中であり、個別の事案にはコメントしない旨をまず述べています。この構造は、麻生金融担当大臣の過去の会見とも類似しています。*2

この部分は、公取委の個別の事案審査について、意見を述べるものではないことを強調する趣旨と考えられます。「公正取引委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う。」(独占禁止法第二十八条)ことになっているからです。

 

 

記者の2回目の問に対して、敢えて「地域の金融機能が更に円滑に発揮されて地域の活性化につながる」との一般的見解を答えています。貸出金利の高止まりへの懸念についての質質問への回答として、この部分は必要不可欠ではなく、敢えて一歩踏み込んだ発言をした、あるいはスクリプトに踏み込んだ発言が記載されていたのではないかと推測します。

 

この点について、政府として推進する「地方創生」のために、地銀再編による金融仲介機能の改善が必要となると指摘する記事もありました。

金融庁が説明会、健全な地銀再編後押し(1/2ページ) - 産経ニュース

官房長官の発言は、政府として地銀の経営統合全体を後押しする方針を示唆している可能性もあります。

 

 (2017年4月9日 誤ったアイキャッチ画像を削除)

*1:

http://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/index.files/160708.pdf

*2:

麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要:金融庁

 

問)

福岡フィナンシャルグループと十八銀行の経営統合が公取の審査が長引いている関係で段取りがそれぞれ半年延期になった、これが1月にアナウンスされたことは御承知のとおりです。今の現状について、金融担当大臣としてどのように御認識されているかというのが1点と、金融庁が3月8日に地元長崎で地域金融に関する説明会の開催を予定しております。統合に関する地元理解が深まる可能性があるというふうにも考えますけれども、この開催の意義、狙いについて御見解をお聞かせください。

答)

最初の方の話は個別案件に関わる話ですから、これにコメントすることは差し控えたいと思いますが、一般論で言えば、経営の統合とか再編は、金融機関が自主的な経営判断をされるのが当たり前なのだと思います。しかし各地では、人口減少は結構進んでいますから増えるところと減るところと人口の差がついてきます。九州の中を見ても人口の差がついてきますので、うまく金融機関の健全性が維持されるようにしておかないといけないところだとは思ってはいます。説明会は、その地域の金融行政について、各地でいろいろやりますが、金融庁の取組み等について長崎県の皆様に対していろいろ説明をするというものです。

 

長崎県の銀行の企業結合についての記事と論文

2017年2月20日に、長崎県の銀行の企業結合の記事が日経新聞に掲載されていました。

(エコノフォーカス)寡占巡り論争 ふくおかFGと十八銀統合計画 :日本経済新聞

 

公取委ら当事者の考え方を理論的裏付けを交えながら解説する記事であり、意欲的な取組みと感じました。記事で紹介されていたレポートを読み解こうとしましたが、難解であり、納得のいくブログ記事を書けるには至っていませんが、中間的にまとめてみました。

 

具体的な争点となっている事案は

「株式会社ふくおかフィナンシャルグループと株式会社十八銀行の経営統合」であり、昨年7月から公取委の二次審査となっています。

http://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/index.files/160708.pdf

 

本件をめぐっては、経営統合により効率化効果があるとする金融庁側の意見として、金融庁金融研究センターのディスカッションペーパーが取り上げられています。

長崎県における地域銀行の経営統合効果について」 (大庫 直樹、中村 陽二、吉野 直行 2017年1月)

http://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2016/06.pdf

(以下「長崎論文」)

 寡占による競争の後退を懸念する公取委側の根拠の一つとして、「15年に日銀金融機構局がまとめたリポート」が紹介されていましたが、レポートそのものは検索することができませんでした。このため、それぞれのソースに依拠して論じることはできませんでした。

 

(1)記事のグラフ

日経記事での銀行・金融庁側と公取委側の主張が、以下のグラフが端的に表しています。

f:id:japancompetitionpolicy:20170304222232p:plain

 出典:

(エコノフォーカス)寡占巡り論争 ふくおかFGと十八銀統合計画 :日本経済新聞 ただし、赤色の丸は引用者によるもの。

 

銀行・金融庁側は貸出残高が増加するほど、経費削減の傾向があり、「貸出金利」が「低下」するというものです。

公取委は地域内の寡占度合いが高いほど貸出金利が上昇する傾向にあるというものです。

このグラフを見ると、なぜ赤色の丸の「貸出金利低下」となる根拠がわかりませんでした。むしろ、両グラフによれば、経営統合により費用は削減される(上のグラフ)が貸出金利は上昇し(下のグラフ)、統合後の銀行のみが利潤を高めるとの論理となるように思われます。

 

(2)長崎論文での費用と金利の関係

上の疑問を持ちつつ、長崎論文 を見ると、費用の低下と貸出金利の関係は明確に記載がありました。

ただし、貸出金利を低廉に抑えるコスト構造になるだけであり、実際に規模 が拡大すると貸出金利が低下するかどうかは、さらに深い検証が必要になる。 それについて、一定の見解を示しているのが、平賀一希・真鍋雅史・吉野直行 による「地域金融市場では、寡占度が高まると貸出金利は高まるか」である。この論文によると、過去 5 年分の都道府県別の貸出金利水準は、都道府県別の 貸出残高による HHI が高まるとマイナスに転じる統計的な傾向があることが実証されている。

出典:P6

 

指摘の論文は下記と考えられます。

「地域金融市場では、寡占度が高まると貸出金利は上がるのか」 (平賀 一希、真鍋 雅史、吉野 直行 2017年1月)

http://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2016/05.pdf

この論文は、長崎論文と同時期に金融庁金融研究センターのディスカッションペーパーとして公表されています。

この論文は日本の地域ごとの寡占度と貸出金利の関係を検証しています。しかし内容が経済学の専門的な内容であり、現時点では、自分の中で十分に消化できていないため、更に勉強したいと考えています。

 

(3)長崎論文に対する指摘事項

長崎論文には内容面でも疑問があり、それについて更に検証したいと考えています。しかし、表面的な事項だけでも、次のような指摘が可能です。

・「果たして、銀行業では、規模拡大による効率化の余地は、顧客の利益に敵うのか、あるいは供給者の利得を増やすだけなのか、それを検証していくことが、本稿の狙いである。」(P1 下線は引用者による。以下同じ。)は、「利益に適う」の誤字ではないか。

・「また、銀行業がネットワーク産業である。それは、不特定の個人や法人から予期を集め、不特定の企業や個人に貸し付けていくこと自体、結びつける行為であり、ネットワーキングと呼ぶことができることからも、然りである。」は、「預金を集め」の誤字ではないか。

・「また、市場金利も長期にわたって継続的に低下していたが、日銀による今年 1 月のマイナス金利導入以降は、市場運用による収益確保が一層困難な局面を迎えている。」(P3)について、マイナス金利の導入は2016年である(2016年内に作成したドラフトを、2017年1月に公表したため、齟齬が生じたと考えられる。)。

・「それについて、一定の見解を示しているのが、平賀一希・真鍋雅史・吉野直行による「地域金融市場では、寡占度が高まると貸出金利高まるか」である。」(P6)は、論文の正式な題名は「地域金融市場では、寡占度が高まると貸出金利上がるのか」である。

・次のグラフ(P7)に、「プロットエリア」との不必要な表記がある。

f:id:japancompetitionpolicy:20170304230058p:plain

 

 

公取委の庁舎移転

公正取引委員会の庁舎が、中央合同庁舎6号館から5号館に移転するとの報道がありました。

庁舎の賃料、16億円削減 環境省・公取委など移転・集約で :日本経済新聞

移転先である環境省の移転が2020年度以降と報道されていますが、公取委の移転時期は報道されていませんでした。

 

検討母体である「財政制度等審議会第34回国有財産分科会」(平成29年2月17日(金))の資料が公表されていたため、それを紹介したいと思います。*1

 

結論を先取りすると、以下の図のとおりです。

移転距離としては極めて近いです。

 

f:id:japancompetitionpolicy:20170225222858p:plain

 

 報道されていなかった情報もいくつかありました。

まず、移転時期は「平成33年度」(2021年度)と明示されていました(分科会資料2のP2)。

 

次に、新庁舎の面積は10,000m2です。現庁舎は8,810m2であり、そのうち8,200m2が移転します。逆に言えば、約7%の610m2は移転しないこととなります。このほか、会議室・倉庫の仮受解消として、900m2が移転されます。現在、会議室・倉庫の費用として年間3200万円がかかっているようです(以上、分科会資料2のP2−3)。

面積の純増としては900m2(10000-8200-900) と考えられます。

 

この庁舎移転がどのような影響をもたらすでしょうか。

一つ懸念されるのは、上述の移転しない施設によっては、公取委の業務上の非効率をもたらす可能性です。

また、強いてあげるとすれば、検察庁との物理的な距離が遠くなるため、犯則事件の調査・告発での協力関係に多少影響する可能性はあるかもしれません。逆に、弁護士会館からは地下で直結することになります。 

 

 

データと競争政策:デジタルカルテル

今回の記事は非常に短いです。

経済産業省の「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」(第1回)の資料

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)‐配布資料(METI/経済産業省)

では、下記のとおり、「デジタルカルテル」について言及があり、議論されています。

ビッグデータが競争法執⾏に対して持つ意味

4.デジタルカルテルの出現

例えば、事業者が共通の価格決定アルゴリズムを使⽤すれば、市場データに基づいて価格調整が 可能となる。また、AIを⽤いて利益最⼤化アルゴリズムを組むことで黙⽰の共謀が可能。

出典:経産省事務局説明資料P4

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/001_04_00.pdf

 

他方、公取委の検討会(第1回)の資料では、次のとおり、「デジタルカルテル」について取り扱わないことが明記されています。

OECD 事務局作成文書 「BIG DATA: BRINGING COMPETITION
POLICY TO THE DIGITAL ERA」(2016年 11 月)

(報告書では,同一の価格アルゴリズムを用いることで市場データに対応して同時に価格調整を行うようにすること等の「デジタルカルテル」の出現可能性についても言及しているが,本検討会では議論の対象としない。)

出典: 別紙3「ビッグデータに関する海外当局の事例と議論」P2

http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170120data06.pdf

 

この相違点の背景は何か、報告書といった成果物にどのような影響があるか、注視したいと思います。 

 

全米商工会議所での安倍首相発言

安倍首相の米国訪問の一環で、2017年2月10日に全米商工会議所・米日経済協議会共催朝食会に出席したようです。

安倍総理の全米商工会議所・米日経済協議会共催朝食会への出席 | 外務省

 

その際の発言要旨が記事になっていました。

www.nikkei.com

 

記事によると、次の発言があった模様です(強調は引用者によるもの)。

鉄鋼をみてください。ある国での過剰生産が止まらず、輸出が増え、世界的な安値を招いている。知的財産を守るルールが国際的に浸透しなければイノベーションの成果も台無しだ。情報の流通を妨げるハッキングも国境を越えている。本来公正な市場競争を守るはずの独占禁止法がその国での外国企業の新規参入を妨げ、逆に競争を妨げるとの懸念される事態も散見される。

 

国名は明示されていませんが、全米商工会議所が中国の独占禁止法執行を批判する報告書*1を公表していることも勘案すれば、「少なくとも」中国は対象と考えられます。

報道によれば、前半の鉄鋼や知財に関しては、「安倍総理大臣は中国を念頭に」置いたとされています。*2

 

 中国の独占禁止法の執行と産業政策等との関係については、次の論文が詳しいです。

RIETI - 中国独占禁止法の運用動向―「外資たたき」及び「産業政策の道具」批判について―

 

同論文は、中国での企業結合審査に関する競争当局の執行について

企業結合審査は禁止及び条件付き承認となった介入事例 26 件のすべてにおいて、 企業結合当事会社の少なくとも一方が外国企業であり、うち 21 件(約 81%)が外国企業同 士の結合事例である。この統計だけに基づけば、外国企業が狙い撃ちされているとの疑いが生じやすい。しかし、従来、企業結合審査届出の約 90%近くが外国企業関係案件(外外 又は外中)という届出の母数を考慮すると、上記の統計をもって直ちにこれを外国狙い撃 ちであるとか、内外差別であると断ずることはできない。

41頁

との分析をしています。

しかし、「中国当局が産業政策上、重視する技術が関係する市場での介入傾向」として、

パナソニックによる三洋電機買収

湖南科力遠新能源トヨタ、PEVE らによる JV

グーグルによるモトローラバイル買収

マイクロソフトによるノキア・モバイル事業買収

での問題解消措置を挙げています。

また、「資源供給、食糧供給等外国依存度の高い市場での介入傾向」として、 グレンコアによるエクストラータ買収、丸紅によるガビロン買収、ウラルカリウムによるシリビニト吸収合併を挙げています。

 

このように一般的には安倍首相は中国に関して発言したと考えられます。

 

 

しかし、米国での日本の自動車部品メーカーに対する反トラスト法の執行が「狙い撃ち」との見方がなされる場合もあります。*3このような見方が有力ではないと認識していますが、「本来公正な市場競争を守るはずの独占禁止法がその国での外国企業の新規参入を妨げ、逆に競争を妨げるとの懸念される事態も散見される。」との安倍首相発言が、もしも米国での日本の自動車部品メーカーへの執行やそれによる完成車メーカーへの影響について、皮肉の意味を含めていたとすれば、非常に興味深いと思います。

 

 

 

欧州委がデジタル分野の3事件の審査を開始

2017年2月2日、欧州委員会電子商取引(Eコマース)関連の3事件の調査を開始したと公表しました。

 

European Commission - PRESS RELEASES - Press release - Antitrust: Commission opens three investigations into suspected anticompetitive practices in e-commerce

 

具体的には次の3事件の調査を開始したとのことです。

(1)民生用エレクトリニクス・メーカーによるオンラインショップの小売価格の制限

(2)ゲーム(Video game)のプラットフォームとメーカーによる地域制限(geo-blocking。ジオブロッキング

(3)ホテルと旅行会社による価格の地域差別

日系企業、日本でも馴染みのある企業も調査対象になっています。

以下で概略を検討したいと思います。拙い翻訳に不安があるので、事件部分の記載を引用します。引用の前が概要訳で、後が簡単な考察や独自の関連情報です。

当方の理解力不足や資料の確認不足のため、本記事には誤りがあり後日訂正する可能性がありますのでご留意ください。

 

(1)エレクトロニクス製品の小売価格制限

 民生用エレクトロニクスメーカーのAsus, Denon & Marantz, Philips and Pioneeが、インターネット販売業者の小売価格を制限した疑いがあるとのことです。

また、価格制限の効果は、多くのインターネット販売業者が利用する価格設定ソフトによって悪化するおそれがあるとされています。この価格設定ソフトとは、自動的に小売価格を主要競争業者(leading competitors)の価格に適応させる(adapt)ものとされています。

本事件は欧州委自ら発掘した事件のようです。

The Commission is investigating whether Asus, Denon & Marantz, Philips and Pioneer have breached EU competition rules by restricting the ability of online retailers to set their own prices for widely used consumer electronics products such as household appliances, notebooks and hi-fi products.
The effect of these suspected price restrictions may be aggravated due to the use by many online retailers of pricing software that automatically adapts retail prices to those of leading competitors. As a result, the alleged behaviour may have had a broader impact on overall online prices for the respective consumer electronics products.
The Commission is carrying out this in-depth investigation on its own initiative.

発表文からは、4社の単独行為を並行して調査しているのか、4社の共同行為を調査しているのか、明確には読み取れませんが、共同行為を示唆する表現がないこと、各社の製品が必ずしも一致しないことから、単独行為ではないかと推測されます。

仮に、共同行為であればいわゆる「デジタルカルテル」のリーディングケースとなるかと思いましたが、そうではなさそうです。

(2)ゲーム(Video game)の地域制限

ゲーム販売のプラットフォーム(the Steam)の運営事業者であるValve Corporationとパソコン用ゲームの制作会社(PC video game publishers)5社との間の個別の合意について調査がなされているとのことです。パソコン用ゲームの制作会社は、具体的にBandai Namco, Capcom, Focus Home, Koch Media and ZeniMaxと記載されています。

調査対象は、パソコン用ゲームの地域制限(ジオブロッキング)です。ゲームの購入者が違法コピーでないことを示すため、アクティベーションキーをゲームのプラットフォーム(the Steam)で使用するようです。アクティベーションキーに関する合意が、地域制限を目的としているか否かが調査の焦点とされています。現行の合意と過去の合意の両方が調査対象のようです。

アクティベーションキーは、特定のEU加盟国の消費者のみが購入したゲームを利用できるようになる可能性があるとのこと。具体的には、EU単一市場内でのいわゆる「並行輸入*1parallel trade)を制限し、消費者が他の加盟国で販売されている廉価なゲームを購入することを妨げ、結果、加盟国を跨ぐ競争を減退させるおそれがあるとされています。

本事件も欧州委自ら発掘した事件のようです。

The Commission is investigating bilateral agreements concluded between Valve Corporation, owner of the Steam game distribution platform, and five PC video game publishers, Bandai Namco, Capcom, Focus Home, Koch Media and ZeniMax. The investigation concerns geo-blocking practices, where companies prevent consumers from purchasing digital content, in this case PC video games, because of the consumer's location or country of residence.
After the purchase of certain PC video games users need to confirm that their copy of the game is not pirated to be able to play it. This is done with an "activation key" on Valve's game distribution platform, Steam. This system is applied for a wide range of games, including sports, simulation and action games.
The investigation focuses on whether the agreements in question require or have required the use of activation keys for the purpose of geo-blocking. In particular, an "activation key" can grant access to a purchased game only to consumers in a particular EU Member State (for example the Czech Republic or Poland). This may amount to a breach of EU competition rules by reducing cross-border competition as a result of restricting so-called "parallel trade" within the Single Market and preventing consumers from buying cheaper games that may be available in other Member States.
The Commission is carrying out this in-depth investigation on its own initiative.

 

geo-blockingは適切な訳語がなく、欧州委の駐日代表部も「ジオブロッキング」とそのまま使用しています。*2

公取委の訳では、地域制限や 地域分割が使用されています。*3 英語も併記しているものの、「地域分割」の訳語は実態と齟齬があるように思えます。

加盟国の集合体であるEU内の地域(国)制限と日本の地域制限とはやや意味合いが異なると感じています。欧州委はこの地域制限(ジオブロッキング)について、EUとしての単一市場を形成するためにでしょうか、近年非常に強調している印象があります。

参考 Geo-blocking | Digital Single Market | Digital Single Market

 

近年では、下記の有料テレビ放送に関する確約事案もありました。

European Commission - PRESS RELEASES - Press release - Antitrust: Commission accepts commitments by Paramount on cross-border pay-TV services

 (3)ホテルと旅行会社による価格の地域差別

欧州の旅行会社(Kuoni, REWE, Thomas Cook, TUI) とホテル (Meliá Hotels)との間の合意についての調査とのことです。調査対象の合意には国籍や居住地によって顧客を差別する条項が存在するおそれがあり、結果、顧客は完全な形でホテルの空室状況を把握できなかったり、最適な価格で部屋を予約できなかった可能性があるとのことです。

本事件は、上記の2事件と異なり、消費者からの申告(complaints)を契機としたものであると明記されています。

 

Following complaints from customers, the Commission is investigating agreements regarding hotel accommodation concluded between the largest European tour operators on the one hand (Kuoni, REWE, Thomas Cook, TUI) and hotels on the other hand (Meliá Hotels). The Commission welcomes hotels developing and introducing innovative pricing mechanisms to maximise room usage but hotels and tour operators cannot discriminate customers on the basis of their location. The agreements in question may contain clauses that discriminate between customers, based on their nationality or country of residence – as a result customers would not be able to see the full hotel availability or book hotel rooms at the best prices.
This may breach EU competition rules by preventing consumers from booking hotel accommodation at better conditions offered by tour operators in other Member States simply because of the consumer's nationality or place of residence. This would lead to the partitioning of the Single Market.

 

この事件も(2)の地域制限(ジオブロッキング)に類似した事件と思われます。 

 

 

 

*1:必ずしも適切な訳ではありませんが、イメージとしてこの訳語を使用しています。

*2:デジタル単一市場の構築―次代を切り開くEUの成長戦略 | 駐日EU代表部公式ウェブマガジン EU MAG 内容についても、本事件の背景を知る上で参考になります。

*3:

2015年5月:公正取引委員会

2016年11月:公正取引委員会

データと競争政策:ネットワーク効果

2017年1月29日時点で、経済産業省の「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」(第1回)の資料と議事要旨

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)‐配布資料(METI/経済産業省)

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)-議事要旨(METI/経済産業省)

 

公正取引委員会の「データと競争政策に関する検討会」の資料

検討会:公正取引委員会

が公表されていました。

 

これらの資料のうち、「ネットワーク効果」(network effect)について考察してみたいと思います。

ネットワーク効果」は、例えば以下のように説明されます。

 「ネットワーク効果」とは,製品,技術,仕様等を利用する者が増えることにより,製 品,技術,仕様等の利用価値が高まることをいう。ネットワーク効果により,製品,技術, 仕様等を提供する者は,更に多くの利用者を獲得することができる。なお,ネットワーク 効果は,それ自体は,製品,技術,仕様等の利用者において,その利便性を向上させる側面もある。

 特に,インターネット・ショッピング・モールに代表される双方向市場(後述※注3) においては,「間接的ネットワーク効果」が生じるとされる。これは,プラットフォームの 一方の市場(A市場)の需要者が多いほど当該A市場における商品・役務の需要が増加す る可能性が高まるため,他方の市場(B市場)の需要者にとってプラットフォームの魅力が高まり,他方で,商品・役務の選択肢が多いほどA市場の需要者にとってプラットフォ ームの魅力が高まることをいう。

出典: 

http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170120data05.pdf

P1、2

  前段は「直接(的)ネットワーク効果」と言われることが多い印象です。「直接(的)ネットワーク効果」と「間接(的)ネットワーク効果」を総称して「ネットワーク効果」として言及していることもあり、下記の引用部分でもその可能性があります。

 

1 経産省研究会の事務局説明資料

まず、経産省研究会の事務局説明資料では、次の記載がありました。

諸外国での議論① OECD 『BIG DATA: BRINGING COMPETITION POLICY TO THE DIGITAL ERA』

ビッグデータが提起する競争上の問題

ビッグデータによる「ネットワーク効果」と「規模の経済性」は、市場⽀配⼒と競争優位性をもたらす。

出典:経産省事務局説明資料P4

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/001_04_00.pdf

 

OECDの報告書の引用元と見込まれるパラグラフ全体は次の通りです。下線は経産省資料で具体的に言及したと見込まれる部分です(下線は当ブログが引用する際に付しています。)。

20. As the acquisition and use of Big Data becomes a key parameter of competition, companies will increasingly undertake strategies to obtain and sustain a data advantage. As argued by Stucke and Ezrachi (2016, p. 30), “Companies are increasingly adopting business models that rely on personal data as a key input. (…) companies offer individuals free services with the aim of acquiring valuable personal data to assist advertisers to better target them with behavioural advertising.” While the competitive rivalry and drive to maintain a data advantage can be pro-competitive, yielding innovations that benefit consumers and the company, some competition authorities emphasise that network effects and economies of scale driven by Big Data can also confer market power and a durable competitive advantage(脚注19).

(脚注19)See the recent report by the Autorité de la Concurrence and Bundeskartellamt (2016).

出典:

https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf

 OECD報告書の全体の流れとしては、「データをめぐる競争は競争促進的であり、消費者にもメリットのあるイノベーションにつながりうる一方で、ビッグデータによる「ネットワーク効果」と「規模の経済」は市場支配力や持続的な(durable)競争優位をもたらしうる(can)と強調する競争当局もある」とのものです。

経産省資料では、意図的にかどうか不明ですが、(1)競争当局(some competition authorities)の言及であることが省かれている、(2)可能性を示す「can」の要素や競争促進効果との対比が省かれており、競争阻害効果が強調されることとなっている、(3)競争優位の持続的な(durable)要素が省かれている、ことが気になります。

なお、下線の文書の記載は、OECD報告書では独仏の競争当局のレポート*1が引用されており再引用となることから、原典である独仏の競争当局のレポートの該当部分を引用した方が適切だったのではないでしょうか。*2

 

2 経産省研究会の議事概要

このネットワーク効果に関して、経産省研究会(第一回)では次のような発言がありました。

ビッグデータによるネットワーク効果は、今後より一層出てくると思われる。この正の循環が進んでいくが、それが進むと他者と共存が困難になる。これを競争政策的にどう考えるか。中長期的には、データの蓄積は独占に繋がるのでは無いかと考えている。

(中略)

プラットフォームというビジネス形態における競争上の問題は、四半世紀前から、ネットワーク効果の問題と検討されてきたが、データ蓄積がもたらす特性が問題を大きくしている。

(中略)

データの標準化は、競争政策上重要。ネットワーク効果が期待できず、他者の追随が出来ない。 

出典 第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)-議事要旨(METI/経済産業省)

3点目の「データの標準化は、競争政策上重要。ネットワーク効果が期待できず、他者の追随が出来ない。」について、「データの標準化」が「競争政策上重要」との点は、「データの標準化が、競争政策上重要な論点である」と読むのが素直かもしれませんが、後半の文脈からすれば「データの標準化の状況は企業の競争上重要」といった意図かもしれません。

後半の「ネットワーク効果が期待できず、他者の追随が出来ない。」は、(データが標準化されていない状況では、新規参入者が先行者のデータを活用した)ネットワーク効果が期待できず、先行者に追随することができない、ということかもしれませんが、もう少し説明がないと理解しにくいように思います。

 

3 ビッグデータによるネットワーク効果の具体的な意味

 経産省の研究会の資料と議事要旨ではビッグデータネットワーク効果との関係があまり理解できなかったのですが、OECDの資料でイメージができました。

f:id:japancompetitionpolicy:20170128222545p:plain

出典:

https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf P10

 同資料によると、(1)多数のユーザーを抱えることでより多くのデータが収集でき、それによりサービスの品質を向上させ、さらにユーザーを獲得できるというループ、(2)データにより広告のターゲット精度を向上させて、収益機会を得ることができ、その収益に由来する投資によりサービスの品質を高め、ユーザーを獲得できるというループが考えられるとのことです。*3

 

4 公取委検討会の事務局説明資料

公取委の検討会(第1回)の資料でもネットワーク効果の言及があります。*4

○ 一方で,競争政策の観点からは,ビッグデータ(別紙2)はオンライン市場に見られるネットワーク効果※注1を強化し,市場の「ティッピング」(別紙2)と「winner-takes-all の帰結」を生じさせる可能性があると指摘されるなど,競争政策の観点からの問題提起がなされている(OECDビッグデータに関するラウンドテーブル(平成28年11月開催)事務局作成文書(参考2)。この他※注4及び※注5で後述)。

(中略) 

(2) データの収集及び活用による市場支配力の形成等の可能性

○ 市場支配力との関係で,プラットフォームに観察されるネットワーク効果や規模・範囲の経済,競争者へのスイッチングコストをどのように考慮することが適当か。

出典: 

http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170120data05.pdf

P1、P8

 

公取委研究会では、さらに「間接ネットワーク効果」にも着目しているようです。

○ 現時点の内外の議論においては,オンライン上でプラットフォームを広く提供している,いわゆるデジタルプラットフォーム企業が,データの収集における競争法上の議論の中心となることが多い。
 代表的な懸念として,これらデジタルプラットフォーム企業は,双方向市場※注2(二面市場)としての事業の性格から,間接ネットワーク効果が働く(後略)

出典: 

http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170120data05.pdf

P3

 

(関連)

データと競争政策:経産省と公取の検討会(1)比較 - 競争政策研究所

データと競争政策:経産省研究会(1)趣旨と経緯 - 競争政策研究所

 

 

*1:

http://www.autoritedelaconcurrence.fr/doc/reportcompetitionlawanddatafinal.pdf

*2:ただし、私が簡易的に検索した範囲では、独仏の競争当局のレポートでOECDの記載を直接表現する箇所はみつかりませんでした。

*3:22. Unlike the brick-and-mortar retail economy, modern business models are frequently characterised by data-driven network effects that can improve the quality of the product or service. These data-driven network effects are the result of the two user feedback loops depicted in Figure 1. On the one hand, a company with a large base of users is able to collect more data to improve the quality of the service (for instance, by creating better algorithms) and, this way, to acquire new users – ‘user feedback loop’. On the other hand, companies are able to explore user data to improve ad targeting and monetise their services, obtaining additional funds to invest in the quality of the service and attracting again more users – ‘monetisation feedback loop’. These interminable loops can make it very difficult for any entrant to compete against an incumbent with a large base of customers. https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf 

*4:

なお、前半のOECD報告書の引用部分は下記と考えられます

26. Another difference between modern applications of Big Data and traditional business models is the lack of physical bounds to the quantity and variety of data that can be collected in a digital world and the unlimited knowledge that can be obtained by running data mining algorithms on a variety of datasets, or using data-fusion. As a result, Big Data has shifted the slope of the business learning curve (Figure 2), allowing the steep acceleration phase of the Big Data incumbent to last longer and making the increasing returns on data harder to exhaust. When a Big Data player finally reaches the plateau stage, its dimension is so big that may be very difficult for any small player to effectively exert competitive pressure, creating a potential for market ‘tipping’ and winner-takes-all outcomes.

108. (前略) Data-driven network effects tend to become self-sustaining, favouring incumbents and enabling them to entrench their positions once they reach the tipping point of a critical mass of users.

出典:https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf

データと競争政策:経産省研究会(1)趣旨と経緯

前回の記事

データと競争政策:経産省と公取の検討会(1)比較 - 競争政策研究所

に引き続き、

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」(以下「経産データ研究会」)について、考察したいと思います。

現時点において、経産データ研究会の第一回議事録は公表されていませんが、第一回資料、2016年9月に公表された「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書」を確認しつつ、経産データ研究会の趣旨や位置付けについて考えてみます。

同報告書については、過去の記事も参照ください。

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(1)報道 - 競争政策研究所

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(2)形式など - 競争政策研究所

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(3)内容 - 競争政策研究所

スマホOSのシェア - 競争政策研究所

 

(1)経産データ研究会の趣旨

経産データ研究会の趣旨は次のとおりと説明されています。

2.本研究会の取り組み

上記の動きを踏まえて、本研究会では、
(1)データの集積・利活用の実態について、幅広く事例を集めて類型化
(2)データの集積・利活用に関する競争政策上の論点を整理
(3)欧米の議論も踏まえつつ公正・自由な競争による絶え間ないイノベーションを実現するための考え方の提示
を行うべく、必要な検討を行います。

上記に加えて、昨年9月に公表した報告書で指摘したアプリ市場の取引実態に関するフォローアップも行います。

出典:「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」を開催します(METI/経済産業省)

 (3)は具体的な対象を明示していませんが、全体としては「データ」の取扱いと競争政策との関係をテーマとしていると考えられます。

しかし、「昨年9月に公表した報告書で指摘したアプリ市場の取引実態に関するフォローアップ」も実施することが記載されています。このフォローアップは、「上記に加えて」と接続されているとおり、データの論点とは別の事項であることが示されています。

 

フォローアップの対象と考えられる取引実態は下記と考えられます。

【確認できた事例】
■ストア事業者は、自らを経由しない決済手段を原則禁止するとともに、経由するたびに売上の30%程度の手数料を徴収。
■一部のストアでは、提供者は、ストア事業者が示す表の中から価格を選ばざるを得ず、自由な価格設定ができない。
(例)120円、240円、360円・・・という単位でしか設定できない。
■ストア事業者が共通通貨を禁止しているため、ユーザーは余った分を他のアプリで使用できない。
(例)A社のアプリaの利用を止めても、余ったコインは同社のアプリbでは使えない。
■一部のストア事業者が競合アプリを制限し、競争を排除(ユーザーも不便に)。
(例)ストア事業者B社の音楽アプリではアプリ内で楽曲購入できるが、(B社による制限のため)C社・D社の音楽アプリではできない。
■ストア事業者は提供者に代わって返金可能な契約になっているが、返金の際に理由・相手・金額等の情報が提供者に伝えられないため、適切な対応ができない。
(例)提供者にクレーム内容が伝わらないため、アプリの品質改善につながらない。
相手が不明なため、別途要求があれば提供者からも二重に返金せざるを得ない。
■ストア事業者のアプリ審査基準が不透明で、予測や修正対応が困難。
■ストアを用いずwebで検索しても、ストアのアプリが上位に表示される。

出典:「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書概要」

http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160915001/20160915001-2.pdf

やはり、一見したところ、データと密接に関連する事例はないように感じます。

 

経産データ研究会で、主題(データ)と関連性の薄い(と思料される)事例のフォローアップを行う理由は今後の資料等での説明を注視したいと思います。

 

(2)横断的制度報告書との関係

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」という名称や事務局説明資料*1から示唆されているとおり、本研究会は第四次産業革命に向けた横断的制度研究会」の報告書(以下「横断的制度報告書」)との連続性を有している模様です。

しかし、横断的制度報告書では、「競争政策」の項目は主に前述のアプリ市場の行為の検討に8頁(P7−14の課題①)を割き、競争政策とデータの関連の記載は1頁にも満たない量です。具体的には下記となります。

 

課題②:第四次産業革命に対応した運用・制度の検討
(ⅰ)新たな論点に対する独占禁止法の運用に関する理論的検討
第四次産業革命の下では、検索サイト等の無料で提供されるサービスが登場したり、それによって集められたデータの集積が競争力の源泉となるなど、今までの単なるモノやサービスの競争とは異なる領域での競争が行われている。そのため、こうした無料のサービスをどう捉えるか、データの集積を競争法上どのように評価するなど、新たに検討を要する課題が生じている。こうした課題は欧米でも認識されており、例えば、企業結合審査のなかで、合併により大量のデータを取り扱うようになることをどのように評価するかといった検討がされている。

(中略)

【基本的方向性:中長期的な取組】
– デジタル市場における理論的検討
公正取引委員会において行われるデジタル市場における経済環境や市場の
変化を踏まえた検証をみつつ、経済産業政策を所管する立場から必要に応じた協力・検討を行う。

(後略)

出典:第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書 15−16頁

http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160915001/20160915001-3.pdf

 

このほかにも、横断的制度報告書では、データとビジネスについての一般論の記載や競争政策とは別の項目で「データ利活用・保護」の記載もあります。しかし、横断的制度報告書の公表時の印象では、「データと競争政策」について、引き続き踏み込んで検討するとの印象は受けませんでした。

もしも、横断的制度報告書の検討時から、データと競争政策について将来的に検討する見込みがあれば、「【基本的方向性:中長期的な取組】」に具体的な記載があってもよかったように思えます。

 

(3)公取委との関係

横断的制度報告書16頁では、「公正取引委員会において行われるデジタル市場における経済環境や市場の変化を踏まえた検証をみつつ、経済産業政策を所管する立場から必要に応じた協力・検討を行う。」(強調は引用者によるもの)とあり、公取委の状況を勘案することが明示されていました。*2

しかし、先日の記事*3のとおり、公取委経産省のデータに関する検討は並列している模様です。公取委が検討を開始しないのであればともかく、既に検討に着手しているのであれば*4

経産省のリソースは他のテーマに活用したり、あるいは、公取委の検討結果を踏まえた上で再検討したりする方が、行政全体の効率性は高まったのではないでしょうか。

 

過去には、公取委のみでは流通取引慣行ガイドラインの再検討の議論が進展しなかったものの、経産省の報告書*5によって、同ガイドラインの改定の契機となったことがありました。このような、公取委が着手しがたい重要な論点こそ経産省が掘り下げるべきではないかと思います。

 

なお、今回の考察については、2017年1月中旬の限定的な情報に基づいているため、今後の公取委経産省の議論の方向によっては、再検討したいと考えております。いずれにしても、2つの検討会・研究会には注目しています。

 

*1:

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/001_04_00.pdf P2では「前述のとおり、先の報告書で情報がプラットフォームの競争⼒の源泉となることを指摘。」と記載があり。

*2:なお、この記載では、「協力・検討」の主体は明示されていませんが、「経済産業政策を所管する立場」ということは「経済産業省」と考えられます。第三者との体裁である研究会の報告書であるならば、「経済産業省においても経済産業政策を所管する立場から必要に応じた協力・検討を行うことが適切である」といった表現がふさわしいように思えます。

*3:

データと競争政策:経産省と公取の検討会(1)比較 - 競争政策研究所

*4:公取委検討会と経産省研究会の公表は同日ですが、会の委員が重複していることからしても、お互いに相手方の行動は事前に把握していたものと考えられます。

*5:

消費インテリジェンスに関する懇談会報告書を取りまとめました(METI/経済産業省)

データと競争政策:経産省と公取の検討会(1)比較

経産省公取委が、各々で「データ」と競争政策に関連して検討の場を設けると、同日(2017年1月12日)に公表しました。

 

経済産業省

「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」を開催します(METI/経済産業省)

公正取引委員会

(平成29年1月12日)データと競争政策に関する検討会の開催について :公正取引委員会

 

報道によると、

経産省は「データの囲い込みや共有の拒否など、データを巡る不公正な取引やその防止方法を議論」し、

公取委は「独占禁止法の運用方法を検討する」とされています。

企業間のデータ融通、適正な取引方法検討 経産省 :日本経済新聞

 

 

2つの研究会・検討会については、重複しているとの指摘があります。

 

前述の開催案内の表現を抜粋すると次の通りです。

 

経済産業省

2.本研究会の取り組み

上記の動きを踏まえて、本研究会では、
(1)データの集積・利活用の実態について、幅広く事例を集めて類型化
(2)データの集積・利活用に関する競争政策上の論点を整理
(3)欧米の議論も踏まえつつ公正・自由な競争による絶え間ないイノベーションを実現するための考え方の提示
を行うべく、必要な検討を行います。

 

 公正取引委員会

2 主な論点

 ・ データの収集及び活用によって市場支配力が形成等される可能性の有無・程度,これを踏まえた競争政策上又は独占禁止法上の考え方
 ・ データへのアクセスに関する競争政策上又は独占禁止法上の考え方

 

比較すると、経済産業省がより実態把握に重点を置きつつ((1))、産業政策の考え方も示す((3))との印象を受けますが、理論的な整理という面では類似している可能性はあります。

しかし、確認できた範囲では、オンライン関連事業に関する共同ヒアリング調査*1のような、共同の取組みの情報はありませんでした。

 

検討会委員を比較すると次のとおりです。経産省研究会は8名、公取委検討会は10名で、このうち重複は2名(川濵 昇教授、森 亮二 弁護士)となります。

 

 

 

検討会委員 経産省 公取委
  第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会 データと競争政策に関する検討会
大橋 弘 東京大学大学院経済学研究科教授 <座長>  
川濵 昇 京都大学大学院法学研究科教授
武田 邦宣 大阪大学大学院法学研究科教授  
森 亮二 英知法律事務所弁護士
立本 博文 筑波大学大学院ビジネスサイエンス科学研究科教授  
林 秀弥 名古屋大学大学院法学研究科教授  
原田 博植 一般社団法人丸の内アナリティクス代表理事  
平塚 三好 東京理科大学大学院イノベーション研究科教授  
宇都宮 秀樹 森・濱田松本法律事務所 弁護士  
後藤 晃 東京大学名誉教授   <座長>
鮫島 正洋 内田・鮫島法律事務所 弁護士  
土佐 和生 甲南大学法科大学院教授  
中林 純 近畿大学経済学部准教授  
西岡 靖之 法政大学デザイン工学部教授  
松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科准教授  
和久井 理子 大阪市立大学大学院法学研究科特任教授  
  8名 10名

 

経産省研究会は既に1月13日に第一回を実施済みで、資料が公表されています。 

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)‐配布資料(METI/経済産業省)

資料を見ると、興味深い点、考察したい点がありましたので、後日記事にしたいと思います。

公取委検討会は1月20日に第一回が開催予定とされています。