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競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

日経経済教室:新時代の競争政策(上)大橋弘東大教授

公正取引委員会 経済産業省 企業結合 データ 杉本和行 銀行 日本経済新聞 大橋弘

2017年3月22日と23日に連続して、日本経済新聞の経済教室欄に「新時代の競争政策」と題して、大橋教授と杉本公取委委員長の主張が掲載されていました。

新時代の競争政策(上)IT世界の寡占化 課題に データ囲い込み 対応急務 大橋弘・東京大学教授 :日本経済新聞

 

新時代の競争政策(下)経済成長・格差是正に寄与 デジタル化への対応重要 杉本和行・公正取引委員会委員長 :日本経済新聞

 

今回は大橋弘東京大学教授の記事について、考察したいと思います。

 

大橋教授は、独禁法とも関係の深い産業組織論を専門とする方であり、かつ、経済産業省の競争政策関連の研究会で座長を務めています。*1

 

大橋教授の主張としては、日本では人口減少と第四次産業革命という2つの課題を踏まえた競争政策が必要であり、前者への対応としては競争当局と他府省との連携、後者への対応としてはデータ関連の事件の摘発のために競争当局の体制・専門性の確立が必要とのものです。

 

全般的には興味深い主張と感じました。しかし、数点の疑問があります。

 

(1)人口減少

まず、下記の表を基礎に次のとおり述べています。

鉄鋼に関して直近10年間の財務データを分析すると、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)でみた寡占度は世界的な減少傾向とは対照的に、わが国では高まっている(表参照)。今後の詳細な分析は不可欠だが、国内の業界再編は、急激な人口減少に直面するわが国に特有の現象であることが分かる。

 

 

 

f:id:japancompetitionpolicy:20170325234504j:plain

「今後の詳細な分析は不可欠」との留保をしつつ、 この表の鉄鋼部分から、「国内の業界再編は、急激な人口減少に直面するわが国に特有の現象」と主張しています。

しかし、

(1)米国、英国、韓国等の国との比較がないため、日本特有の現象かどうか不明

(2)人口現象と業界再編との関係性が不明

(3)鉄鋼のみのデータで日本全体に一般化してよいか疑問

(4)世界全体では、2006年から2015年の間に中国、インド等の新興国の急速な発展があり、その影響に触れられていない

といった点が気になりました。

データソースは検証できませんでしたが、世界全体の寡占度(HHI)があまりにも低く、「鉄鋼業」の実際の範囲が気になりました。世界全体のHHIが120では、シェアが最大の企業でも11%未満*2となり、相当広範囲の企業を含めているように感じます。

 

人口減少部分は「業界再編」つまり、企業結合を念頭に記載されています。

「他府省と連携」という言及からしても、明示的に触れられていませんが地方銀行の企業結合を視野に主張がなされているように感じました。

 

また、「競争制限効果が強く働けば、需要家がその地域から離れる可能性がある点にも留意が必要だ。」との点にも疑問があります。理論的可能性はあるにせよ、需要者が実際に安価な財・サービスをもとめて移動するとのイメージは持ちにくいです。銀行に即して言えば、企業が低金利を求めて長崎から福岡などに移動するでしょうか。

仮に移動が大きく起きるとすれば、人口減少地域から都市部に企業や人が移り、東京等への集中が加速すると考えられます。そのような結果自体は当然の帰結かと思いますが、地方創生との政府の方向とは異なるおそれがあります。

 

(2)第四次産業革命

後半部分に大きな違和感はありません。

ただし、「わが国のものづくりの最先端技術」、「わが国のものづくりの優位性」がビッグデータの活用、第四次産業革命によって失われるおそれがあるとの主張については、説得的ではないように感じました。この場合の「わが国」の「ものづくり」が何を指すかは明確ではありませんが、製造工場自体は海外に移転し、製品の設計や企画を含めた企業全体でも東芝やシャープといった企業が苦戦しています。日本において、「ものづくり」に優位性が存在し、それがどの程度経済全体に大きく影響していることは、もはや自明ではないように感じられます。

 

*1:

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/001_02_00.pdf

http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160915001/20160915001-1.pdf

*2: シェア1位が11%で他はごく小さいとしても、11%の二乗で121となり、120を超えることになる。

HHIについては、下記を参照しました。

用語の解説:公正取引委員会

新潟県の地銀が経営統合との報道

公正取引委員会 企業結合 長崎 銀行 新潟

3週間連続で銀行関連の記事となってしまいました。

 

新潟県で最大手の第四銀行と二番手の北越銀行が経営統合するとの報道がありました。

地銀再編、次は新潟で第四・北越が経営統合へ | 週刊ダイヤモンドSCOOP | ダイヤモンド・オンライン

 

両行とも、経営統合は決定していないものの、検討自体は認めています。*1

 

両行の県内の貸出市場の合計シェアは約50%とされています。*2

一部報道によれば、シェアは69%に達するとありました。*3しかし、その報道でのシェアのソース*4を見ると、「新潟県内の地銀から信組までの23金融機関の貸出金合計」を分母にとっており、都市銀行政府系金融機関の数値を捨象しているため、シェアが上振れしていると考えられます。

また、「シェア69%」については、両行の県外向け融資残高も含まれているので、県内のシェアとしては、やはり50%程度のとの報道もありました。*5ただし、この推計に基づけば、両行の融資残高の相当程度が県外向けでなければ辻褄が合いません。両行は他の県内金融機関に比べて、県外向け融資の割合が高いようには思えますが、それだけでシェアが2割も変わることについては疑問があります。

 

このシェア50%という数字は、長崎の銀行経営統合後では60%以上とされているのに比べると、低く感じられます。

*6

しかし、もちろんシェア50%とは非常に高い数字ですので、上述の報道でも指摘があるように、公取委の審査が注目されます。

 

ところで、今回の調査の過程で、3月8日の長崎県での説明会について、ある程度内容の分かる記事を見ました。

www.kinzai.jp

さらに地銀の話題が続きますが、来週は上記の記事について取り上げたいと考えています。

 

長崎県の銀行の企業結合:金融庁の説明会と官房長官コメント

公正取引委員会 企業結合 長崎 金融庁

前回の記事と関連する内容です。

長崎県の銀行の企業結合についての記事と論文 - 競争政策研究所

 

公取委で二次審査中の「株式会社ふくおかフィナンシャルグループと株式会社十八銀行の経営統合」*1に関連して、十八銀行の基盤である長崎県で、金融庁が企業向けの説明会を開催したとされています。また、報道では、金融庁が「指針」を示すとされています。

 

地銀再編で異例の指針 金融庁「顧客の視点重視を」 統合効果、地域に還元 :日本経済新聞

しかし、この「指針」がいわゆる「ガイドライン」として、法令解釈に関連して文書で金融庁の考え方を示すものであるのか、説明会で口頭で示された内容を指すのかは分かりません。なお、現時点で、説明会や「指針」の内容について具体的には確認できていません。

 

この説明会に関連して、3月8日午後の菅義偉官房長官記者会見で、発言があったようです

官房長官、地銀統合「地域の活性化につながることを期待」 :日本経済新聞

 

前置きが長くなりましたが、今回はこの官房長官記者会見について、考察したいと思います。

平成29年3月8日(水)午後 | 平成29年 | 官房長官記者会見 | 記者会見 | 首相官邸ホームページ

(該当部分の質疑は11:20ころから)

 

まず、内容全体を文字に起こししました。

(記者)共同通信のAです。話題変わりまして地方銀行の関係でお尋ねします。金融庁は、本日、ふくおかフィナンシャルグループと経営統合で合意している十八銀行の地元長崎で、企業向けに異例の説明会を開きましたが狙いをお願いします。


官房長官)まずですね、ふくおかフィナンシャルグループ十八銀行が経営統合を公表していますが、現在公取で審査が行われている途中だそうでありますのでコメントを控えたいと思います。
 いま指摘されました説明会ですけれども、地元企業の方から色々な不安が出てくるとか色々な問題がありましたので、金融庁の地域金融に対する考え方など、そうしたことを長崎県の皆様に対して説明をしたということであります。

(記者 上記と同一かどうかは不明)いま長官がおっしゃりましたように、(経営統合は)公取委で審査が行われているわけですが、二社の統合が実現すれば、県内の貸出金シェアの二社の(統合後の銀行の)割合が高くなって金利が高止まりしてしまうのではないかと懸念があるのですけど、こうした懸念自体、長官はどうお考えでしょうか

官房長官)説明会ではそうした地元の不安があったので、まだ審査中でありますけれども、地域金融に対しての金融庁としての考え方を示して安心をしていただいたということではなかったでしょうか。私(の個人的見解)ということではありますけれども、政府として、やはり地域の金融機関がですね、経営統合あるいは再編するということはですね、まず自主的な判断ではありますけれども、一般論で申し上げれば、地域の金融機能が更に円滑に発揮されて地域の活性化につながることをこれは期待したいと思います。

 

 

 映像では、官房長官は一定の頻度で手元に視線を落としており、回答のスクリプトがあることがうかがわれます。回答の内容も、経営統合自体の見解を問われていないにもかかわらず、公取委にて審査中であり、個別の事案にはコメントしない旨をまず述べています。この構造は、麻生金融担当大臣の過去の会見とも類似しています。*2

この部分は、公取委の個別の事案審査について、意見を述べるものではないことを強調する趣旨と考えられます。「公正取引委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う。」(独占禁止法第二十八条)ことになっているからです。

 

 

記者の2回目の問に対して、敢えて「地域の金融機能が更に円滑に発揮されて地域の活性化につながる」との一般的見解を答えています。貸出金利の高止まりへの懸念についての質質問への回答として、この部分は必要不可欠ではなく、敢えて一歩踏み込んだ発言をした、あるいはスクリプトに踏み込んだ発言が記載されていたのではないかと推測します。

 

この点について、政府として推進する「地方創生」のために、地銀再編による金融仲介機能の改善が必要となると指摘する記事もありました。

金融庁が説明会、健全な地銀再編後押し(1/2ページ) - 産経ニュース

官房長官の発言は、政府として地銀の経営統合全体を後押しする方針を示唆している可能性もあります。

 

 

*1:

http://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/index.files/160708.pdf

*2:

麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要:金融庁

 

問)

福岡フィナンシャルグループと十八銀行の経営統合が公取の審査が長引いている関係で段取りがそれぞれ半年延期になった、これが1月にアナウンスされたことは御承知のとおりです。今の現状について、金融担当大臣としてどのように御認識されているかというのが1点と、金融庁が3月8日に地元長崎で地域金融に関する説明会の開催を予定しております。統合に関する地元理解が深まる可能性があるというふうにも考えますけれども、この開催の意義、狙いについて御見解をお聞かせください。

答)

最初の方の話は個別案件に関わる話ですから、これにコメントすることは差し控えたいと思いますが、一般論で言えば、経営の統合とか再編は、金融機関が自主的な経営判断をされるのが当たり前なのだと思います。しかし各地では、人口減少は結構進んでいますから増えるところと減るところと人口の差がついてきます。九州の中を見ても人口の差がついてきますので、うまく金融機関の健全性が維持されるようにしておかないといけないところだとは思ってはいます。説明会は、その地域の金融行政について、各地でいろいろやりますが、金融庁の取組み等について長崎県の皆様に対していろいろ説明をするというものです。

 

長崎県の銀行の企業結合についての記事と論文

公正取引委員会 企業結合 日本経済新聞 長崎 金融庁 銀行

2017年2月20日に、長崎県の銀行の企業結合の記事が日経新聞に掲載されていました。

(エコノフォーカス)寡占巡り論争 ふくおかFGと十八銀統合計画 :日本経済新聞

 

公取委ら当事者の考え方を理論的裏付けを交えながら解説する記事であり、意欲的な取組みと感じました。記事で紹介されていたレポートを読み解こうとしましたが、難解であり、納得のいくブログ記事を書けるには至っていませんが、中間的にまとめてみました。

 

具体的な争点となっている事案は

「株式会社ふくおかフィナンシャルグループと株式会社十八銀行の経営統合」であり、昨年7月から公取委の二次審査となっています。

http://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/index.files/160708.pdf

 

本件をめぐっては、経営統合により効率化効果があるとする金融庁側の意見として、金融庁金融研究センターのディスカッションペーパーが取り上げられています。

長崎県における地域銀行の経営統合効果について」 (大庫 直樹、中村 陽二、吉野 直行 2017年1月)

http://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2016/06.pdf

(以下「長崎論文」)

 寡占による競争の後退を懸念する公取委側の根拠の一つとして、「15年に日銀金融機構局がまとめたリポート」が紹介されていましたが、レポートそのものは検索することができませんでした。このため、それぞれのソースに依拠して論じることはできませんでした。

 

(1)記事のグラフ

日経記事での銀行・金融庁側と公取委側の主張が、以下のグラフが端的に表しています。

f:id:japancompetitionpolicy:20170304222232p:plain

 出典:

(エコノフォーカス)寡占巡り論争 ふくおかFGと十八銀統合計画 :日本経済新聞 ただし、赤色の丸は引用者によるもの。

 

銀行・金融庁側は貸出残高が増加するほど、経費削減の傾向があり、「貸出金利」が「低下」するというものです。

公取委は地域内の寡占度合いが高いほど貸出金利が上昇する傾向にあるというものです。

このグラフを見ると、なぜ赤色の丸の「貸出金利低下」となる根拠がわかりませんでした。むしろ、両グラフによれば、経営統合により費用は削減される(上のグラフ)が貸出金利は上昇し(下のグラフ)、統合後の銀行のみが利潤を高めるとの論理となるように思われます。

 

(2)長崎論文での費用と金利の関係

上の疑問を持ちつつ、長崎論文 を見ると、費用の低下と貸出金利の関係は明確に記載がありました。

ただし、貸出金利を低廉に抑えるコスト構造になるだけであり、実際に規模 が拡大すると貸出金利が低下するかどうかは、さらに深い検証が必要になる。 それについて、一定の見解を示しているのが、平賀一希・真鍋雅史・吉野直行 による「地域金融市場では、寡占度が高まると貸出金利は高まるか」である。この論文によると、過去 5 年分の都道府県別の貸出金利水準は、都道府県別の 貸出残高による HHI が高まるとマイナスに転じる統計的な傾向があることが実証されている。

出典:P6

 

指摘の論文は下記と考えられます。

「地域金融市場では、寡占度が高まると貸出金利は上がるのか」 (平賀 一希、真鍋 雅史、吉野 直行 2017年1月)

http://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2016/05.pdf

この論文は、長崎論文と同時期に金融庁金融研究センターのディスカッションペーパーとして公表されています。

この論文は日本の地域ごとの寡占度と貸出金利の関係を検証しています。しかし内容が経済学の専門的な内容であり、現時点では、自分の中で十分に消化できていないため、更に勉強したいと考えています。

 

(3)長崎論文に対する指摘事項

長崎論文には内容面でも疑問があり、それについて更に検証したいと考えています。しかし、表面的な事項だけでも、次のような指摘が可能です。

・「果たして、銀行業では、規模拡大による効率化の余地は、顧客の利益に敵うのか、あるいは供給者の利得を増やすだけなのか、それを検証していくことが、本稿の狙いである。」(P1 下線は引用者による。以下同じ。)は、「利益に適う」の誤字ではないか。

・「また、銀行業がネットワーク産業である。それは、不特定の個人や法人から予期を集め、不特定の企業や個人に貸し付けていくこと自体、結びつける行為であり、ネットワーキングと呼ぶことができることからも、然りである。」は、「預金を集め」の誤字ではないか。

・「また、市場金利も長期にわたって継続的に低下していたが、日銀による今年 1 月のマイナス金利導入以降は、市場運用による収益確保が一層困難な局面を迎えている。」(P3)について、マイナス金利の導入は2016年である(2016年内に作成したドラフトを、2017年1月に公表したため、齟齬が生じたと考えられる。)。

・「それについて、一定の見解を示しているのが、平賀一希・真鍋雅史・吉野直行による「地域金融市場では、寡占度が高まると貸出金利高まるか」である。」(P6)は、論文の正式な題名は「地域金融市場では、寡占度が高まると貸出金利上がるのか」である。

・次のグラフ(P7)に、「プロットエリア」との不必要な表記がある。

f:id:japancompetitionpolicy:20170304230058p:plain

 

 

公取委の庁舎移転

公正取引委員会 庁舎移転

公正取引委員会の庁舎が、中央合同庁舎6号館から5号館に移転するとの報道がありました。

庁舎の賃料、16億円削減 環境省・公取委など移転・集約で :日本経済新聞

移転先である環境省の移転が2020年度以降と報道されていますが、公取委の移転時期は報道されていませんでした。

 

検討母体である「財政制度等審議会第34回国有財産分科会」(平成29年2月17日(金))の資料が公表されていたため、それを紹介したいと思います。*1

 

結論を先取りすると、以下の図のとおりです。

移転距離としては極めて近いです。

 

f:id:japancompetitionpolicy:20170225222858p:plain

 

 報道されていなかった情報もいくつかありました。

まず、移転時期は「平成33年度」(2021年度)と明示されていました(分科会資料2のP2)。

 

次に、新庁舎の面積は10,000m2です。現庁舎は8,810m2であり、そのうち8,200m2が移転します。逆に言えば、約7%の610m2は移転しないこととなります。このほか、会議室・倉庫の仮受解消として、900m2が移転されます。現在、会議室・倉庫の費用として年間3200万円がかかっているようです(以上、分科会資料2のP2−3)。

面積の純増としては900m2(10000-8200-900) と考えられます。

 

この庁舎移転がどのような影響をもたらすでしょうか。

一つ懸念されるのは、上述の移転しない施設によっては、公取委の業務上の非効率をもたらす可能性です。

また、強いてあげるとすれば、検察庁との物理的な距離が遠くなるため、犯則事件の調査・告発での協力関係に多少影響する可能性はあるかもしれません。逆に、弁護士会館からは地下で直結することになります。 

 

 

データと競争政策:デジタルカルテル

公正取引委員会 独占禁止法 データ 経済産業省 デジタルカルテル

今回の記事は非常に短いです。

経済産業省の「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」(第1回)の資料

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)‐配布資料(METI/経済産業省)

では、下記のとおり、「デジタルカルテル」について言及があり、議論されています。

ビッグデータが競争法執⾏に対して持つ意味

4.デジタルカルテルの出現

例えば、事業者が共通の価格決定アルゴリズムを使⽤すれば、市場データに基づいて価格調整が 可能となる。また、AIを⽤いて利益最⼤化アルゴリズムを組むことで黙⽰の共謀が可能。

出典:経産省事務局説明資料P4

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/001_04_00.pdf

 

他方、公取委の検討会(第1回)の資料では、次のとおり、「デジタルカルテル」について取り扱わないことが明記されています。

OECD 事務局作成文書 「BIG DATA: BRINGING COMPETITION
POLICY TO THE DIGITAL ERA」(2016年 11 月)

(報告書では,同一の価格アルゴリズムを用いることで市場データに対応して同時に価格調整を行うようにすること等の「デジタルカルテル」の出現可能性についても言及しているが,本検討会では議論の対象としない。)

出典: 別紙3「ビッグデータに関する海外当局の事例と議論」P2

http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170120data06.pdf

 

この相違点の背景は何か、報告書といった成果物にどのような影響があるか、注視したいと思います。 

 

全米商工会議所での安倍首相発言

usdoj 反トラスト法 トランプ大統領 自動車部品 中国 企業結合

安倍首相の米国訪問の一環で、2017年2月10日に全米商工会議所・米日経済協議会共催朝食会に出席したようです。

安倍総理の全米商工会議所・米日経済協議会共催朝食会への出席 | 外務省

 

その際の発言要旨が記事になっていました。

www.nikkei.com

 

記事によると、次の発言があった模様です(強調は引用者によるもの)。

鉄鋼をみてください。ある国での過剰生産が止まらず、輸出が増え、世界的な安値を招いている。知的財産を守るルールが国際的に浸透しなければイノベーションの成果も台無しだ。情報の流通を妨げるハッキングも国境を越えている。本来公正な市場競争を守るはずの独占禁止法がその国での外国企業の新規参入を妨げ、逆に競争を妨げるとの懸念される事態も散見される。

 

国名は明示されていませんが、全米商工会議所が中国の独占禁止法執行を批判する報告書*1を公表していることも勘案すれば、「少なくとも」中国は対象と考えられます。

報道によれば、前半の鉄鋼や知財に関しては、「安倍総理大臣は中国を念頭に」置いたとされています。*2

 

 中国の独占禁止法の執行と産業政策等との関係については、次の論文が詳しいです。

RIETI - 中国独占禁止法の運用動向―「外資たたき」及び「産業政策の道具」批判について―

 

同論文は、中国での企業結合審査に関する競争当局の執行について

企業結合審査は禁止及び条件付き承認となった介入事例 26 件のすべてにおいて、 企業結合当事会社の少なくとも一方が外国企業であり、うち 21 件(約 81%)が外国企業同 士の結合事例である。この統計だけに基づけば、外国企業が狙い撃ちされているとの疑いが生じやすい。しかし、従来、企業結合審査届出の約 90%近くが外国企業関係案件(外外 又は外中)という届出の母数を考慮すると、上記の統計をもって直ちにこれを外国狙い撃 ちであるとか、内外差別であると断ずることはできない。

41頁

との分析をしています。

しかし、「中国当局が産業政策上、重視する技術が関係する市場での介入傾向」として、

パナソニックによる三洋電機買収

湖南科力遠新能源トヨタ、PEVE らによる JV

グーグルによるモトローラバイル買収

マイクロソフトによるノキア・モバイル事業買収

での問題解消措置を挙げています。

また、「資源供給、食糧供給等外国依存度の高い市場での介入傾向」として、 グレンコアによるエクストラータ買収、丸紅によるガビロン買収、ウラルカリウムによるシリビニト吸収合併を挙げています。

 

このように一般的には安倍首相は中国に関して発言したと考えられます。

 

 

しかし、米国での日本の自動車部品メーカーに対する反トラスト法の執行が「狙い撃ち」との見方がなされる場合もあります。*3このような見方が有力ではないと認識していますが、「本来公正な市場競争を守るはずの独占禁止法がその国での外国企業の新規参入を妨げ、逆に競争を妨げるとの懸念される事態も散見される。」との安倍首相発言が、もしも米国での日本の自動車部品メーカーへの執行やそれによる完成車メーカーへの影響について、皮肉の意味を含めていたとすれば、非常に興味深いと思います。

 

 

 

欧州委がデジタル分野の3事件の審査を開始

欧州委員会 ホテル ゲーム エレクトロニクス ジオブロッキング

2017年2月2日、欧州委員会電子商取引(Eコマース)関連の3事件の調査を開始したと公表しました。

 

European Commission - PRESS RELEASES - Press release - Antitrust: Commission opens three investigations into suspected anticompetitive practices in e-commerce

 

具体的には次の3事件の調査を開始したとのことです。

(1)民生用エレクトリニクス・メーカーによるオンラインショップの小売価格の制限

(2)ゲーム(Video game)のプラットフォームとメーカーによる地域制限(geo-blocking。ジオブロッキング

(3)ホテルと旅行会社による価格の地域差別

日系企業、日本でも馴染みのある企業も調査対象になっています。

以下で概略を検討したいと思います。拙い翻訳に不安があるので、事件部分の記載を引用します。引用の前が概要訳で、後が簡単な考察や独自の関連情報です。

当方の理解力不足や資料の確認不足のため、本記事には誤りがあり後日訂正する可能性がありますのでご留意ください。

 

(1)エレクトロニクス製品の小売価格制限

 民生用エレクトロニクスメーカーのAsus, Denon & Marantz, Philips and Pioneeが、インターネット販売業者の小売価格を制限した疑いがあるとのことです。

また、価格制限の効果は、多くのインターネット販売業者が利用する価格設定ソフトによって悪化するおそれがあるとされています。この価格設定ソフトとは、自動的に小売価格を主要競争業者(leading competitors)の価格に適応させる(adapt)ものとされています。

本事件は欧州委自ら発掘した事件のようです。

The Commission is investigating whether Asus, Denon & Marantz, Philips and Pioneer have breached EU competition rules by restricting the ability of online retailers to set their own prices for widely used consumer electronics products such as household appliances, notebooks and hi-fi products.
The effect of these suspected price restrictions may be aggravated due to the use by many online retailers of pricing software that automatically adapts retail prices to those of leading competitors. As a result, the alleged behaviour may have had a broader impact on overall online prices for the respective consumer electronics products.
The Commission is carrying out this in-depth investigation on its own initiative.

発表文からは、4社の単独行為を並行して調査しているのか、4社の共同行為を調査しているのか、明確には読み取れませんが、共同行為を示唆する表現がないこと、各社の製品が必ずしも一致しないことから、単独行為ではないかと推測されます。

仮に、共同行為であればいわゆる「デジタルカルテル」のリーディングケースとなるかと思いましたが、そうではなさそうです。

(2)ゲーム(Video game)の地域制限

ゲーム販売のプラットフォーム(the Steam)の運営事業者であるValve Corporationとパソコン用ゲームの制作会社(PC video game publishers)5社との間の個別の合意について調査がなされているとのことです。パソコン用ゲームの制作会社は、具体的にBandai Namco, Capcom, Focus Home, Koch Media and ZeniMaxと記載されています。

調査対象は、パソコン用ゲームの地域制限(ジオブロッキング)です。ゲームの購入者が違法コピーでないことを示すため、アクティベーションキーをゲームのプラットフォーム(the Steam)で使用するようです。アクティベーションキーに関する合意が、地域制限を目的としているか否かが調査の焦点とされています。現行の合意と過去の合意の両方が調査対象のようです。

アクティベーションキーは、特定のEU加盟国の消費者のみが購入したゲームを利用できるようになる可能性があるとのこと。具体的には、EU単一市場内でのいわゆる「並行輸入*1parallel trade)を制限し、消費者が他の加盟国で販売されている廉価なゲームを購入することを妨げ、結果、加盟国を跨ぐ競争を減退させるおそれがあるとされています。

本事件も欧州委自ら発掘した事件のようです。

The Commission is investigating bilateral agreements concluded between Valve Corporation, owner of the Steam game distribution platform, and five PC video game publishers, Bandai Namco, Capcom, Focus Home, Koch Media and ZeniMax. The investigation concerns geo-blocking practices, where companies prevent consumers from purchasing digital content, in this case PC video games, because of the consumer's location or country of residence.
After the purchase of certain PC video games users need to confirm that their copy of the game is not pirated to be able to play it. This is done with an "activation key" on Valve's game distribution platform, Steam. This system is applied for a wide range of games, including sports, simulation and action games.
The investigation focuses on whether the agreements in question require or have required the use of activation keys for the purpose of geo-blocking. In particular, an "activation key" can grant access to a purchased game only to consumers in a particular EU Member State (for example the Czech Republic or Poland). This may amount to a breach of EU competition rules by reducing cross-border competition as a result of restricting so-called "parallel trade" within the Single Market and preventing consumers from buying cheaper games that may be available in other Member States.
The Commission is carrying out this in-depth investigation on its own initiative.

 

geo-blockingは適切な訳語がなく、欧州委の駐日代表部も「ジオブロッキング」とそのまま使用しています。*2

公取委の訳では、地域制限や 地域分割が使用されています。*3 英語も併記しているものの、「地域分割」の訳語は実態と齟齬があるように思えます。

加盟国の集合体であるEU内の地域(国)制限と日本の地域制限とはやや意味合いが異なると感じています。欧州委はこの地域制限(ジオブロッキング)について、EUとしての単一市場を形成するためにでしょうか、近年非常に強調している印象があります。

参考 Geo-blocking | Digital Single Market | Digital Single Market

 

近年では、下記の有料テレビ放送に関する確約事案もありました。

European Commission - PRESS RELEASES - Press release - Antitrust: Commission accepts commitments by Paramount on cross-border pay-TV services

 (3)ホテルと旅行会社による価格の地域差別

欧州の旅行会社(Kuoni, REWE, Thomas Cook, TUI) とホテル (Meliá Hotels)との間の合意についての調査とのことです。調査対象の合意には国籍や居住地によって顧客を差別する条項が存在するおそれがあり、結果、顧客は完全な形でホテルの空室状況を把握できなかったり、最適な価格で部屋を予約できなかった可能性があるとのことです。

本事件は、上記の2事件と異なり、消費者からの申告(complaints)を契機としたものであると明記されています。

 

Following complaints from customers, the Commission is investigating agreements regarding hotel accommodation concluded between the largest European tour operators on the one hand (Kuoni, REWE, Thomas Cook, TUI) and hotels on the other hand (Meliá Hotels). The Commission welcomes hotels developing and introducing innovative pricing mechanisms to maximise room usage but hotels and tour operators cannot discriminate customers on the basis of their location. The agreements in question may contain clauses that discriminate between customers, based on their nationality or country of residence – as a result customers would not be able to see the full hotel availability or book hotel rooms at the best prices.
This may breach EU competition rules by preventing consumers from booking hotel accommodation at better conditions offered by tour operators in other Member States simply because of the consumer's nationality or place of residence. This would lead to the partitioning of the Single Market.

 

この事件も(2)の地域制限(ジオブロッキング)に類似した事件と思われます。 

 

 

 

*1:必ずしも適切な訳ではありませんが、イメージとしてこの訳語を使用しています。

*2:デジタル単一市場の構築―次代を切り開くEUの成長戦略 | 駐日EU代表部公式ウェブマガジン EU MAG 内容についても、本事件の背景を知る上で参考になります。

*3:

2015年5月:公正取引委員会

2016年11月:公正取引委員会

データと競争政策:ネットワーク効果

公正取引委員会 経済産業省 データ OECD

2017年1月29日時点で、経済産業省の「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」(第1回)の資料と議事要旨

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)‐配布資料(METI/経済産業省)

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)-議事要旨(METI/経済産業省)

 

公正取引委員会の「データと競争政策に関する検討会」の資料

検討会:公正取引委員会

が公表されていました。

 

これらの資料のうち、「ネットワーク効果」(network effect)について考察してみたいと思います。

ネットワーク効果」は、例えば以下のように説明されます。

 「ネットワーク効果」とは,製品,技術,仕様等を利用する者が増えることにより,製 品,技術,仕様等の利用価値が高まることをいう。ネットワーク効果により,製品,技術, 仕様等を提供する者は,更に多くの利用者を獲得することができる。なお,ネットワーク 効果は,それ自体は,製品,技術,仕様等の利用者において,その利便性を向上させる側面もある。

 特に,インターネット・ショッピング・モールに代表される双方向市場(後述※注3) においては,「間接的ネットワーク効果」が生じるとされる。これは,プラットフォームの 一方の市場(A市場)の需要者が多いほど当該A市場における商品・役務の需要が増加す る可能性が高まるため,他方の市場(B市場)の需要者にとってプラットフォームの魅力が高まり,他方で,商品・役務の選択肢が多いほどA市場の需要者にとってプラットフォ ームの魅力が高まることをいう。

出典: 

http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170120data05.pdf

P1、2

  前段は「直接(的)ネットワーク効果」と言われることが多い印象です。「直接(的)ネットワーク効果」と「間接(的)ネットワーク効果」を総称して「ネットワーク効果」として言及していることもあり、下記の引用部分でもその可能性があります。

 

1 経産省研究会の事務局説明資料

まず、経産省研究会の事務局説明資料では、次の記載がありました。

諸外国での議論① OECD 『BIG DATA: BRINGING COMPETITION POLICY TO THE DIGITAL ERA』

ビッグデータが提起する競争上の問題

ビッグデータによる「ネットワーク効果」と「規模の経済性」は、市場⽀配⼒と競争優位性をもたらす。

出典:経産省事務局説明資料P4

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/001_04_00.pdf

 

OECDの報告書の引用元と見込まれるパラグラフ全体は次の通りです。下線は経産省資料で具体的に言及したと見込まれる部分です(下線は当ブログが引用する際に付しています。)。

20. As the acquisition and use of Big Data becomes a key parameter of competition, companies will increasingly undertake strategies to obtain and sustain a data advantage. As argued by Stucke and Ezrachi (2016, p. 30), “Companies are increasingly adopting business models that rely on personal data as a key input. (…) companies offer individuals free services with the aim of acquiring valuable personal data to assist advertisers to better target them with behavioural advertising.” While the competitive rivalry and drive to maintain a data advantage can be pro-competitive, yielding innovations that benefit consumers and the company, some competition authorities emphasise that network effects and economies of scale driven by Big Data can also confer market power and a durable competitive advantage(脚注19).

(脚注19)See the recent report by the Autorité de la Concurrence and Bundeskartellamt (2016).

出典:

https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf

 OECD報告書の全体の流れとしては、「データをめぐる競争は競争促進的であり、消費者にもメリットのあるイノベーションにつながりうる一方で、ビッグデータによる「ネットワーク効果」と「規模の経済」は市場支配力や持続的な(durable)競争優位をもたらしうる(can)と強調する競争当局もある」とのものです。

経産省資料では、意図的にかどうか不明ですが、(1)競争当局(some competition authorities)の言及であることが省かれている、(2)可能性を示す「can」の要素や競争促進効果との対比が省かれており、競争阻害効果が強調されることとなっている、(3)競争優位の持続的な(durable)要素が省かれている、ことが気になります。

なお、下線の文書の記載は、OECD報告書では独仏の競争当局のレポート*1が引用されており再引用となることから、原典である独仏の競争当局のレポートの該当部分を引用した方が適切だったのではないでしょうか。*2

 

2 経産省研究会の議事概要

このネットワーク効果に関して、経産省研究会(第一回)では次のような発言がありました。

ビッグデータによるネットワーク効果は、今後より一層出てくると思われる。この正の循環が進んでいくが、それが進むと他者と共存が困難になる。これを競争政策的にどう考えるか。中長期的には、データの蓄積は独占に繋がるのでは無いかと考えている。

(中略)

プラットフォームというビジネス形態における競争上の問題は、四半世紀前から、ネットワーク効果の問題と検討されてきたが、データ蓄積がもたらす特性が問題を大きくしている。

(中略)

データの標準化は、競争政策上重要。ネットワーク効果が期待できず、他者の追随が出来ない。 

出典 第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)-議事要旨(METI/経済産業省)

3点目の「データの標準化は、競争政策上重要。ネットワーク効果が期待できず、他者の追随が出来ない。」について、「データの標準化」が「競争政策上重要」との点は、「データの標準化が、競争政策上重要な論点である」と読むのが素直かもしれませんが、後半の文脈からすれば「データの標準化の状況は企業の競争上重要」といった意図かもしれません。

後半の「ネットワーク効果が期待できず、他者の追随が出来ない。」は、(データが標準化されていない状況では、新規参入者が先行者のデータを活用した)ネットワーク効果が期待できず、先行者に追随することができない、ということかもしれませんが、もう少し説明がないと理解しにくいように思います。

 

3 ビッグデータによるネットワーク効果の具体的な意味

 経産省の研究会の資料と議事要旨ではビッグデータネットワーク効果との関係があまり理解できなかったのですが、OECDの資料でイメージができました。

f:id:japancompetitionpolicy:20170128222545p:plain

出典:

https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf P10

 同資料によると、(1)多数のユーザーを抱えることでより多くのデータが収集でき、それによりサービスの品質を向上させ、さらにユーザーを獲得できるというループ、(2)データにより広告のターゲット精度を向上させて、収益機会を得ることができ、その収益に由来する投資によりサービスの品質を高め、ユーザーを獲得できるというループが考えられるとのことです。*3

 

4 公取委検討会の事務局説明資料

公取委の検討会(第1回)の資料でもネットワーク効果の言及があります。*4

○ 一方で,競争政策の観点からは,ビッグデータ(別紙2)はオンライン市場に見られるネットワーク効果※注1を強化し,市場の「ティッピング」(別紙2)と「winner-takes-all の帰結」を生じさせる可能性があると指摘されるなど,競争政策の観点からの問題提起がなされている(OECDビッグデータに関するラウンドテーブル(平成28年11月開催)事務局作成文書(参考2)。この他※注4及び※注5で後述)。

(中略) 

(2) データの収集及び活用による市場支配力の形成等の可能性

○ 市場支配力との関係で,プラットフォームに観察されるネットワーク効果や規模・範囲の経済,競争者へのスイッチングコストをどのように考慮することが適当か。

出典: 

http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170120data05.pdf

P1、P8

 

公取委研究会では、さらに「間接ネットワーク効果」にも着目しているようです。

○ 現時点の内外の議論においては,オンライン上でプラットフォームを広く提供している,いわゆるデジタルプラットフォーム企業が,データの収集における競争法上の議論の中心となることが多い。
 代表的な懸念として,これらデジタルプラットフォーム企業は,双方向市場※注2(二面市場)としての事業の性格から,間接ネットワーク効果が働く(後略)

出典: 

http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170120data05.pdf

P3

 

(関連)

データと競争政策:経産省と公取の検討会(1)比較 - 競争政策研究所

データと競争政策:経産省研究会(1)趣旨と経緯 - 競争政策研究所

 

 

*1:

http://www.autoritedelaconcurrence.fr/doc/reportcompetitionlawanddatafinal.pdf

*2:ただし、私が簡易的に検索した範囲では、独仏の競争当局のレポートでOECDの記載を直接表現する箇所はみつかりませんでした。

*3:22. Unlike the brick-and-mortar retail economy, modern business models are frequently characterised by data-driven network effects that can improve the quality of the product or service. These data-driven network effects are the result of the two user feedback loops depicted in Figure 1. On the one hand, a company with a large base of users is able to collect more data to improve the quality of the service (for instance, by creating better algorithms) and, this way, to acquire new users – ‘user feedback loop’. On the other hand, companies are able to explore user data to improve ad targeting and monetise their services, obtaining additional funds to invest in the quality of the service and attracting again more users – ‘monetisation feedback loop’. These interminable loops can make it very difficult for any entrant to compete against an incumbent with a large base of customers. https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf 

*4:

なお、前半のOECD報告書の引用部分は下記と考えられます

26. Another difference between modern applications of Big Data and traditional business models is the lack of physical bounds to the quantity and variety of data that can be collected in a digital world and the unlimited knowledge that can be obtained by running data mining algorithms on a variety of datasets, or using data-fusion. As a result, Big Data has shifted the slope of the business learning curve (Figure 2), allowing the steep acceleration phase of the Big Data incumbent to last longer and making the increasing returns on data harder to exhaust. When a Big Data player finally reaches the plateau stage, its dimension is so big that may be very difficult for any small player to effectively exert competitive pressure, creating a potential for market ‘tipping’ and winner-takes-all outcomes.

108. (前略) Data-driven network effects tend to become self-sustaining, favouring incumbents and enabling them to entrench their positions once they reach the tipping point of a critical mass of users.

出典:https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf

データと競争政策:経産省研究会(1)趣旨と経緯

公正取引委員会 独占禁止法 経済産業省 データ

前回の記事

データと競争政策:経産省と公取の検討会(1)比較 - 競争政策研究所

に引き続き、

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」(以下「経産データ研究会」)について、考察したいと思います。

現時点において、経産データ研究会の第一回議事録は公表されていませんが、第一回資料、2016年9月に公表された「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書」を確認しつつ、経産データ研究会の趣旨や位置付けについて考えてみます。

同報告書については、過去の記事も参照ください。

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(1)報道 - 競争政策研究所

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(2)形式など - 競争政策研究所

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(3)内容 - 競争政策研究所

スマホOSのシェア - 競争政策研究所

 

(1)経産データ研究会の趣旨

経産データ研究会の趣旨は次のとおりと説明されています。

2.本研究会の取り組み

上記の動きを踏まえて、本研究会では、
(1)データの集積・利活用の実態について、幅広く事例を集めて類型化
(2)データの集積・利活用に関する競争政策上の論点を整理
(3)欧米の議論も踏まえつつ公正・自由な競争による絶え間ないイノベーションを実現するための考え方の提示
を行うべく、必要な検討を行います。

上記に加えて、昨年9月に公表した報告書で指摘したアプリ市場の取引実態に関するフォローアップも行います。

出典:「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」を開催します(METI/経済産業省)

 (3)は具体的な対象を明示していませんが、全体としては「データ」の取扱いと競争政策との関係をテーマとしていると考えられます。

しかし、「昨年9月に公表した報告書で指摘したアプリ市場の取引実態に関するフォローアップ」も実施することが記載されています。このフォローアップは、「上記に加えて」と接続されているとおり、データの論点とは別の事項であることが示されています。

 

フォローアップの対象と考えられる取引実態は下記と考えられます。

【確認できた事例】
■ストア事業者は、自らを経由しない決済手段を原則禁止するとともに、経由するたびに売上の30%程度の手数料を徴収。
■一部のストアでは、提供者は、ストア事業者が示す表の中から価格を選ばざるを得ず、自由な価格設定ができない。
(例)120円、240円、360円・・・という単位でしか設定できない。
■ストア事業者が共通通貨を禁止しているため、ユーザーは余った分を他のアプリで使用できない。
(例)A社のアプリaの利用を止めても、余ったコインは同社のアプリbでは使えない。
■一部のストア事業者が競合アプリを制限し、競争を排除(ユーザーも不便に)。
(例)ストア事業者B社の音楽アプリではアプリ内で楽曲購入できるが、(B社による制限のため)C社・D社の音楽アプリではできない。
■ストア事業者は提供者に代わって返金可能な契約になっているが、返金の際に理由・相手・金額等の情報が提供者に伝えられないため、適切な対応ができない。
(例)提供者にクレーム内容が伝わらないため、アプリの品質改善につながらない。
相手が不明なため、別途要求があれば提供者からも二重に返金せざるを得ない。
■ストア事業者のアプリ審査基準が不透明で、予測や修正対応が困難。
■ストアを用いずwebで検索しても、ストアのアプリが上位に表示される。

出典:「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書概要」

http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160915001/20160915001-2.pdf

やはり、一見したところ、データと密接に関連する事例はないように感じます。

 

経産データ研究会で、主題(データ)と関連性の薄い(と思料される)事例のフォローアップを行う理由は今後の資料等での説明を注視したいと思います。

 

(2)横断的制度報告書との関係

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」という名称や事務局説明資料*1から示唆されているとおり、本研究会は第四次産業革命に向けた横断的制度研究会」の報告書(以下「横断的制度報告書」)との連続性を有している模様です。

しかし、横断的制度報告書では、「競争政策」の項目は主に前述のアプリ市場の行為の検討に8頁(P7−14の課題①)を割き、競争政策とデータの関連の記載は1頁にも満たない量です。具体的には下記となります。

 

課題②:第四次産業革命に対応した運用・制度の検討
(ⅰ)新たな論点に対する独占禁止法の運用に関する理論的検討
第四次産業革命の下では、検索サイト等の無料で提供されるサービスが登場したり、それによって集められたデータの集積が競争力の源泉となるなど、今までの単なるモノやサービスの競争とは異なる領域での競争が行われている。そのため、こうした無料のサービスをどう捉えるか、データの集積を競争法上どのように評価するなど、新たに検討を要する課題が生じている。こうした課題は欧米でも認識されており、例えば、企業結合審査のなかで、合併により大量のデータを取り扱うようになることをどのように評価するかといった検討がされている。

(中略)

【基本的方向性:中長期的な取組】
– デジタル市場における理論的検討
公正取引委員会において行われるデジタル市場における経済環境や市場の
変化を踏まえた検証をみつつ、経済産業政策を所管する立場から必要に応じた協力・検討を行う。

(後略)

出典:第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書 15−16頁

http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160915001/20160915001-3.pdf

 

このほかにも、横断的制度報告書では、データとビジネスについての一般論の記載や競争政策とは別の項目で「データ利活用・保護」の記載もあります。しかし、横断的制度報告書の公表時の印象では、「データと競争政策」について、引き続き踏み込んで検討するとの印象は受けませんでした。

もしも、横断的制度報告書の検討時から、データと競争政策について将来的に検討する見込みがあれば、「【基本的方向性:中長期的な取組】」に具体的な記載があってもよかったように思えます。

 

(3)公取委との関係

横断的制度報告書16頁では、「公正取引委員会において行われるデジタル市場における経済環境や市場の変化を踏まえた検証をみつつ、経済産業政策を所管する立場から必要に応じた協力・検討を行う。」(強調は引用者によるもの)とあり、公取委の状況を勘案することが明示されていました。*2

しかし、先日の記事*3のとおり、公取委経産省のデータに関する検討は並列している模様です。公取委が検討を開始しないのであればともかく、既に検討に着手しているのであれば*4

経産省のリソースは他のテーマに活用したり、あるいは、公取委の検討結果を踏まえた上で再検討したりする方が、行政全体の効率性は高まったのではないでしょうか。

 

過去には、公取委のみでは流通取引慣行ガイドラインの再検討の議論が進展しなかったものの、経産省の報告書*5によって、同ガイドラインの改定の契機となったことがありました。このような、公取委が着手しがたい重要な論点こそ経産省が掘り下げるべきではないかと思います。

 

なお、今回の考察については、2017年1月中旬の限定的な情報に基づいているため、今後の公取委経産省の議論の方向によっては、再検討したいと考えております。いずれにしても、2つの検討会・研究会には注目しています。

 

*1:

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/001_04_00.pdf P2では「前述のとおり、先の報告書で情報がプラットフォームの競争⼒の源泉となることを指摘。」と記載があり。

*2:なお、この記載では、「協力・検討」の主体は明示されていませんが、「経済産業政策を所管する立場」ということは「経済産業省」と考えられます。第三者との体裁である研究会の報告書であるならば、「経済産業省においても経済産業政策を所管する立場から必要に応じた協力・検討を行うことが適切である」といった表現がふさわしいように思えます。

*3:

データと競争政策:経産省と公取の検討会(1)比較 - 競争政策研究所

*4:公取委検討会と経産省研究会の公表は同日ですが、会の委員が重複していることからしても、お互いに相手方の行動は事前に把握していたものと考えられます。

*5:

消費インテリジェンスに関する懇談会報告書を取りまとめました(METI/経済産業省)

データと競争政策:経産省と公取の検討会(1)比較

独占禁止法 公正取引委員会 経済産業省 データ

経産省公取委が、各々で「データ」と競争政策に関連して検討の場を設けると、同日(2017年1月12日)に公表しました。

 

経済産業省

「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」を開催します(METI/経済産業省)

公正取引委員会

(平成29年1月12日)データと競争政策に関する検討会の開催について :公正取引委員会

 

報道によると、

経産省は「データの囲い込みや共有の拒否など、データを巡る不公正な取引やその防止方法を議論」し、

公取委は「独占禁止法の運用方法を検討する」とされています。

企業間のデータ融通、適正な取引方法検討 経産省 :日本経済新聞

 

 

2つの研究会・検討会については、重複しているとの指摘があります。

 

前述の開催案内の表現を抜粋すると次の通りです。

 

経済産業省

2.本研究会の取り組み

上記の動きを踏まえて、本研究会では、
(1)データの集積・利活用の実態について、幅広く事例を集めて類型化
(2)データの集積・利活用に関する競争政策上の論点を整理
(3)欧米の議論も踏まえつつ公正・自由な競争による絶え間ないイノベーションを実現するための考え方の提示
を行うべく、必要な検討を行います。

 

 公正取引委員会

2 主な論点

 ・ データの収集及び活用によって市場支配力が形成等される可能性の有無・程度,これを踏まえた競争政策上又は独占禁止法上の考え方
 ・ データへのアクセスに関する競争政策上又は独占禁止法上の考え方

 

比較すると、経済産業省がより実態把握に重点を置きつつ((1))、産業政策の考え方も示す((3))との印象を受けますが、理論的な整理という面では類似している可能性はあります。

しかし、確認できた範囲では、オンライン関連事業に関する共同ヒアリング調査*1のような、共同の取組みの情報はありませんでした。

 

検討会委員を比較すると次のとおりです。経産省研究会は8名、公取委検討会は10名で、このうち重複は2名(川濵 昇教授、森 亮二 弁護士)となります。

 

 

 

検討会委員 経産省 公取委
  第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会 データと競争政策に関する検討会
大橋 弘 東京大学大学院経済学研究科教授 <座長>  
川濵 昇 京都大学大学院法学研究科教授
武田 邦宣 大阪大学大学院法学研究科教授  
森 亮二 英知法律事務所弁護士
立本 博文 筑波大学大学院ビジネスサイエンス科学研究科教授  
林 秀弥 名古屋大学大学院法学研究科教授  
原田 博植 一般社団法人丸の内アナリティクス代表理事  
平塚 三好 東京理科大学大学院イノベーション研究科教授  
宇都宮 秀樹 森・濱田松本法律事務所 弁護士  
後藤 晃 東京大学名誉教授   <座長>
鮫島 正洋 内田・鮫島法律事務所 弁護士  
土佐 和生 甲南大学法科大学院教授  
中林 純 近畿大学経済学部准教授  
西岡 靖之 法政大学デザイン工学部教授  
松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科准教授  
和久井 理子 大阪市立大学大学院法学研究科特任教授  
  8名 10名

 

経産省研究会は既に1月13日に第一回を実施済みで、資料が公表されています。 

第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会(第1回)‐配布資料(METI/経済産業省)

資料を見ると、興味深い点、考察したい点がありましたので、後日記事にしたいと思います。

公取委検討会は1月20日に第一回が開催予定とされています。

 

 

酒類の廉売に関する公正取引の基準案(国税庁)

公正取引委員会 独占禁止法 不当廉売 国税庁

以前紹介したとおり、酒類の廉売を規制する観点から酒税法の改正がなされ、

酒の廉売規制 - 競争政策研究所

規制の具体的な基準の案(酒類の公正な取引の基準(案)。以下「基準案」)が、平成28年12月21日の国税審議会酒類分科会に示されました。

第17回 酒類分科会 説明資料 目次|審議会・研究会等|国税庁

 

報道によると、審議会で了承された模様です。

酒の安売り、赤字続けたら免許取り消し 国税庁規制強化:朝日新聞デジタル

 

本日はその内容について、簡単に考察してみたいと思います。

公取委関連の引用は赤、国税庁関連の引用は青としています。

 

(1)目的

(目的)
1 この基準は、酒類が、酒税の課される財政上重要な物品であるとともに、致酔性及び習慣性を有する等、社会的に配慮を要するものであるというその特殊性に鑑み、酒類の販売価格は、一般的にはその販売に要する費用に利潤を加えたものとなることが合理的であるとの考え方の下、酒類の公正な取引に関し必要な事項を定め、酒類業者がこれを遵守することにより、酒税の保全及び酒類の取引の円滑な運行を図ることを目的とする。

審議会での説明資料2−1によると、議員立法の趣旨説明「酒類に関する公正な取引のための指針」(平成18年8月31日 国税庁)の基本的な考え方を明記したもののようです。

目的としては、「酒税の保全」と「酒類の取引の円滑な運行」とのことです。また、酒類の販売価格は「一般的にはその販売に要する費用に利潤を加えたもの」が「合理的」との考え方が示されています。この点については後ほど費用基準の部分で詳述します。

 

(2)具体的な公正な取引の基準

今回の実体規定として重要なのはこの「2」と考えられます。

酒類業者は、次のいずれにも該当する行為を行ってはならないものとする。
⑴ 正当な理由なく、酒類を当該酒類に係る売上原価の額と販売費及び一般管理費の額との合計額を下回る価格で継続して販売すること
⑵ 自己又は他の酒類業者の酒類事業に相当程度の影響を及ぼすおそれがある取引をすること

独占禁止法上の不当廉売規制と比較をしたいと思います。

 

不当廉売に関する独占禁止法上の考え方:公正取引委員会

(1) 独占禁止法第2条第9項第3号
 正当な理由がないのに,商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
(2) 不公正な取引方法第6項
 法第2条第9項第3号に該当する行為のほか,不当に商品又は役務を低い対価で供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。

(ア)正当な理由なく

まず、必ずしも同じ文言であるからといって、同一の解釈とは限りませんが、「基準案」では「正当な理由なく」とし、「独占禁止法第2条第9項第3号」いわゆる「法定不当廉売」と同様に、他の要件に該当すれば、「正当な理由」がない限りは原則として問題となるとの考え方を示しているものと考えられます。

 

(イ)継続性

基準案も法定不当廉売と同様に継続性の要件を付与しているようです。

公取委の指針では、継続してとは、「相当期間にわたって繰り返し廉売を行い,又は廉売を行っている事業者の営業方針等から客観的にそれが予測されることであるが,毎日継続して行われることを必ずしも要しない」とあります。継続性に関して、国税庁公取委運用を参考とするのであれば、短期間の単発の廉売は規制しないのではないかと考えられます。

 

(ウ)影響

独占禁止法上の不当廉売については、「酒類の流通における不当廉売,差別対価等への対応について」(平成21年12月18日公正取引委員会)において、他の事業者への影響の判断要素として下記が記載されています。

  • 廉売を行っている事業者(以下「廉売行為者」という。)の事業の規模及び態様(事業規模の大きさ,多店舗展開の状況,総合量販店であるかなど)
  • 廉売対象商品の数量,廉売期間(廉売対象となっている酒類の品目数,販売数量,箱売り等の販売単位,廉売期間の長さ等)
  • 広告宣伝の状況(新聞折込広告で広範囲に広告しているかなど)
  • 廉売対象商品の特性(廉売対象となっている酒類の銘柄等)
  • 廉売行為者の意図・目的
  • 周辺の酒類販売業者の状況(事業規模の大きさ,事業に占める廉売対象商品の販売割合,廉売行為者と周辺の酒類販売業者との販売価格差の程度,他の廉売業者の有無,廉売対象商品の売上高の減少の程度等)

酒類の流通における不当廉売,差別対価等への対応について:公正取引委員会

 

基準では、影響を判断する要素を基準案に明記していませんが、審議会説明資料(別紙2−1のP7)によると、以下を通達で規定するとされています。

1 総販売原価割れの程度、廉売数量・期間・品目数等【廉売の程度・特性】
2 廉売業者の酒類事業の規模(酒類の取扱数量や地域シェア等)【事業者の影響力】
3 廉売商品を目玉商品(おとり商品)とした広告の状況等【広範性・廉売の目的】
4 周辺の酒類業者※の酒類事業に対する廉売の影響(廉売対象酒類の売上高の減少、利益率の低下、対抗廉売の実施等)【他の酒類業者への影響度】
※ 対象とする酒類業者については、単に地理的・距離的な範囲だけでなく、店舗の態様(都心型か郊外型か)や販売の態様(店頭かインターネットか)、チラシの配付地域などを勘案し、個別に判断する。
5 廉売を行った酒類業者の酒類事業の経営状況【当該酒類業者への影響度】
6 廉売業者の過去の改善指導の状況【反復性】

概ね、公取の基準と同様と考えられますが、「5 廉売を行った酒類業者の酒類事業の経営状況【当該酒類業者への影響度】」と「6 廉売業者の過去の改善指導の状況【反復性】」は国税庁の通達記載事項にのみ見られます。「5」については、基準案の2に「自己又は他の酒類業者の酒類事業に相当程度の影響を及ぼすおそれがある取引をすること」(下線は引用者による)とあり、他の企業への影響のみならず、自己の酒類事業に影響を及ぼすおそれも規制の対象に含まれていることが理由と考えられます。

 

(エ)費用基準

「正当な理由」や「継続性」の点から、基準案は独禁法の法定不当廉売と類似する部分があります。しかし、基準案と法定不当廉売との大きな違いは費用基準と考えられます。まず、

基準案では「酒類を当該酒類に係る売上原価の額と販売費及び一般管理費の額との合計額を下回る価格」、つまり総販売原価をボーダーとしています*1

他方、独禁法の法定不当廉売の費用基準は廉売対象商品を供給しなければ発生しない費用」(可変的性質を持つ費用)とされています*2。下記の図は公取委の不当廉売ガイドラインの公表時の資料です*3。この資料によると、法定不当廉売のボーダー、つまり費用基準(可変的性質を持つ費用)は、仕入原価と販売費の一部であり、一般管理費は含まれないことが示されています。

 

 

 

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不当廉売に関する独占禁止法上の考え方:公正取引委員会でも、総販売原価を下回ることが合理的であることがあり得ると明記されています。

商品の価格が「供給に要する費用」,すなわち総販売原価(注2)を下回っていても,供給を継続した方が当該商品の供給に係る損失が小さくなるときは,当該価格で供給することは合理的である。

  

(3)今後のスケジュール

平成29年1月にパブリックコメント開始、3月に公正取引委員会との協議・基準の告示、6月施行とされています。

*1:審議会説明資料の別紙2−1のP7に、「総販売原価を下回る価格」での販売かどうかが基準であり、「総販売原価」とは、「仕入原価(製造原価)、販売費及び一般管理費の合計額」と明記されています。

*2:不当廉売に関する独占禁止法上の考え方:公正取引委員会 3(1)ア

*3:

(平成21年12月18日)「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」等の改定について:公正取引委員会 の資料1

ガソリン卸売価格の「価格操作」

公正取引委員会 独占禁止法 マスコミ 経済産業省 毎日新聞 ガソリン

毎日新聞がガソリンの卸売価格に関する報道を行いました。

 

記事(1) ガソリン卸価格、給油所の半数高値 大手5社が繰り返す(2016/12/17)

http://mainichi.jp/articles/20161217/dde/001/020/046000c

 

記事(2) ガソリン卸、監視強化へ 経産省、消費者に影響懸念(2016/12/18)

http://mainichi.jp/articles/20161218/ddm/003/020/079000c

 

記事(1)の見出しは次のものです。

石油元売り大手5社が、市場の実勢より割高な価格で給油所にガソリンを販売する価格操作を繰り返していたことが、経済産業省の調査で分かった。

一見、石油元売5社が「カルテルを結んで」卸売価格を引き上げる価格操作をしていたかのような印象でしたが、記事全体を見ると、5社は「それぞれ個別に」卸売価格を高価格に維持するような取引(後述)を行っていることが判明しているのみで、共同行為としては触れられていません。

 

今回はこれらの記事を考察してみたいと思います。

価格操作とは何か

 ガソリン業界には元売り大手が卸価格を決めて系列給油所に納入し、その後給油所と個別交渉して値引きする「事後調整」という取引慣行がある。給油所間の競争が激しくなる中、元売りがシェア(市場占有率)を保つために一部給油所を優遇し、安売りの原資を確保する仕組みとされる。

 経産省によると、市場縮小でガソリンが過剰になるなか、2014年後半ごろから元売りによる「割高な卸価格設定」が目立ち始めた。より高い価格で卸すことで、市場縮小の局面でも利益確保を狙ったとみられる。納入後の値引きは元売りと給油所の交渉で決まるが、調査に対し給油所経営者からは「値引きは元売りのさじ加減で決まる」「値引きは量をたくさん売るところだけ」などと不満が相次いだ。特に過疎地の給油所などでは高い卸値を受け入れさせられていたという。(記事(1))

ガソリンの卸売価格の事後調整のことを「価格操作」と表現しているようです。特に、元売り会社が原則として高価格な卸売価格を設定しつつ、一部の給油所にのみ事後的に値引きし、それ以外の給油所には高価格(割高)にすることを問題視しているようです。

しかし、給油所の声にあるとおり「値引きは量をたくさん売るところだけ」にすることは、基本的なボリュームディスカウントと考えられます。「過疎地」では、配送等のコストが特別に必要となるおそれもあります。

 

このような慣行自体は、公正取引委員会の実態調査でも既に明らかになっています。

ほとんどの元売は,毎週の価格通知後に,系列特約店の申出を受けて個別に値引き交渉を行い,原則として当月内に値引き交渉の結果としての最終的な仕切価格を確定し,各週の決着価格に数量を乗じた額を翌月に発行する当月分請求書に記載している。ただし,一般特約店からは,大規模特約店は個別交渉による値引きを確実に受けられているが,小規模特約店は個別交渉による値引きを受けられるかどうか不確実であるという指摘もみられる。

「ガソリンの取引に関するフォローアップ調査報告書」(平成28年4月
公正取引委員会事務総局)(P19)

http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/apr/160428.files/160428_4hontai.pdf

 

 

独占禁止法上の問題(公取委の立場)

記事(1)によると、

経産省公正取引委員会は「不合理な差別的扱いは独占禁止法違反にあたる可能性もある」と問題視している。

として、公正取引委員会も問題視しているとのことです。

独占禁止法上の考え方は、前記の公取委報告書で次のとおり記載されています。

ウ 値引き交渉
 前記1(4)ア(ウ)で述べたように,ほとんどの元売が,系列特約店の申出を受けて,原則として当月内に行っている個別の値引き交渉について,一般特約店からは,大規模特約店は値引きを確実に受けられているが,小規模特約店は値引きを受けられるかどうか不確実であるという指摘もみられる。

 元売が系列特約店との個別の値引き交渉に応じ,原則として当月内に仕切価格の引下げを実施した結果として,系列特約店ごとに引下げの有無・水準が異なること自体は直ちに独占禁止法上問題となるものではないが,系列特約店の仕切価格について,個別の値引き交渉により,特定の系列特約店を競争上著しく有利又は不利にさせるなど,合理的な理由なく差別的な取扱いをし,一般特約店の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより公正な競争秩序に悪影響を与える場合には,独占禁止法上問題(差別対価等)となることに留意する必要がある。 

 「ガソリンの取引に関するフォローアップ調査報告書」(平成28年4月
公正取引委員会事務総局)(P39ー40)同

(注)下線は報告書に記載されているもの。

前段にやや留保のある記載ですが、値引きの有無・水準が異なること自体は直ちに独占禁止法上問題となるものではないと明示されています。

独占禁止法上問題となるのは、(1)合理的な理由なく差別的な取扱いをし、(2)一般特約店*1の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより、(3)競争に悪影響を与えること、という3段階をクリアする場合のようです。記事の記載からは、(1)から(3)の該当性について、判断できる情報はなさそうです。

 

 「適正な」価格水準

調査結果を20日の有識者会議で公表し、卸価格を原油の市場価格の実勢に連動させることなどを元売りに求める方針だ。(記事(1)

 

また、適正な価格を決めるための「国内需給を適切に反映した指標」(経産省)の構築も課題となる。(記事(2))

 

上記のように、ガソリンの卸売価格を何らかの指標に連動させるような取組も検討される可能性があるようです。

このような指標に紐づいた価格の方が、むしろ独占禁止法上問題となるのではないでしょうか。

事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針(平成7年10月30日公正取引委員会

1―(1)―4

(共通の価格算定方式の設定)
○ 具体的な数値、係数等を用いて構成事業者に価格に関する共通の具体的な目安を与える価格算定方式を設定すること。

事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針:公正取引委員会

 

補足:元売りの合併について

 出光興産は合併協議を進める昭和シェル石油の株式を年内にも取得する。企業結合審査を進める公正取引委員会が週明けにも両社の合併について正式承認を出す見通しとなったため。(中略)

公取委は同時に、2017年4月に予定するJXホールディングス(HD)と東燃ゼネラル石油の経営統合にも承認を出す見込みだ。

出光、年内にも昭シェル株取得 公取委が合併承認へ :日本経済新聞

ガソリンの卸売市場における影響を懸念するのであれば、むしろこの元売り合併について検証する方が重要な印象を受けました。 

  

*1: 一般特約店とは、販売子会社、商社系特約店又は全農系特約店以外の特約店とされています(詳細は同報告書P8)。一般特約店は、商社や全農といった大規模な事業者のグループの一員でないため、相対的に交渉力が小さいものと推測されます。

(EU)MicrosoftによるLinkedIn買収の条件付き承認

欧州委員会 企業結合 データ

欧州委がMicrosoftによるLinkedIn買収を条件付きで承認したようです。

European Commission - PRESS RELEASES - Press release - Mergers: Commission approves acquisition of LinkedIn by Microsoft, subject to conditions

 

条件(コミットメント)は後述しますが、当事者にとって深刻な内容ではなさそうです。

EU: Microsoft $26 billion LinkedIn buy approved with light conditions | Competition Policy International

 

まず、前提として、MicrosoftとLinkedInはごく一部のウェブ広告分野を除いては、補完的な事業だったとされています。

Microsoft and LinkedIn are mainly active in complementary business areas, except for minor overlaps in online advertising.

 

そして、欧州委は

(1)専門的SNSサービス(professional social network services)

(2)顧客関係管理(CRM)ソフトウェアサービス (customer relationship management software solutions)

(3)ウェブ広告サービス(online advertising services)

の3分野について特に焦点をあてて審査を行ったとのことです。

 

プレスリリースから 明らかとなったポイントは以下のとおりです。

 

(1)専門的SNSサービス

Microsoftがパソコン向けOSやオフィスソフトに関する強力な立場を利用して、LinkedInの専門的SNSサービスにおける地位の強化を懸念。特に、(ア)すべてのWindowsパソコンにLinkedinをあらかじめインストールすること、また、(イ)LinkedinのサービスをOfficeに統合した上で、Linkedinを契約やプライバシー法上可能な範囲で、LinkedinとMicrosoftの顧客データベースを統合することを懸念。特に(イ)の取扱いは、Linkedinの競合他社によるMicrosoftのアプリケーションとの接続を阻害することで強化されるおそれがある。これは、競合他社にとっては、Microsoftのサービスと円滑に相互運用したり、Microsoftクラウド上のユーザー情報にアクセスすることが必要であるためである。

 

コミットメント/問題解消措置

(ア)PC製造企業・流通企業に対してはWindowsOSにLinkedinをインストールしない自由を与え、PCのユーザーに対してはあらかじめインストールされたLinkedinを削除することを可能とする

(イ)専門的SNSサービスの競合他社に対して、現在と同等のOfficeソフトとの相互運用を可能とすること

(ウ)専門的SNSサービスの競合他社に対して、「Microsoft Graph」(アプリケーションの開発とMicrosoftの保有するユーザー情報へのアクセスのための機能。情報へのアクセスはユーザーの同意が必要)の利用を可能とすること

(エ)コミットメントの内容は5年間有効であり、トラスティー(Trustee)によって監視される。

上記の履行を条件として、買収は競争上の懸念を有しない。

 

(2)顧客関係管理(CRM)ソフトウェアサービス (customer relationship management software solutions)

(ア)買収後に、Linkedinのサービスの利用者にMicrosoftのソフトウェアを購入するよう強制すること

(イ)競争者によるLinkedinのデータベース全体( the full LinkedIn database)への接続を拒否し、それを通じた競争者の高度な顧客関係管理(CRM)サービスの開発を阻害すること

を懸念。

しかし、

(ア)については、MicrosoftとLinkedinのサービスの需要者は重複しているものの、Linkedinのサービスは需要者にとって必須(must have)とはいえない。

(イ)については、Linkedinのデータベース全体( the full LinkedIn database)への接続は、競争者にとって不可欠(essential)とはいえない。

さらに、MicrosoftCRMサービス分野では、OracleやSAPに比べるとそれほど強力な企業ではなく、競争者をこの分野の市場から締め出し、競争を排除するおそれはない。

 

なお、MicrosoftのサービスはDynamics、LinkedinのサービスはSales Navigatorとして公表文で紹介されています。詳細は下記のリンクにありますが、顧客関係管理の経験がなければイメージがつかみにくいのではないでしょうか。

Microsoft Dynamics

Sales Navigator: The Social Selling Tool | LinkedIn

(3)ウェブ広告サービス(online advertising services)

 ウェブ広告サービスについて、EUにおける両社の合算シェアは低いことや、同サービスの市場は移ろいやすい(fragmented)ことから、競争上の懸念はない。

 

データ関連

以上はほぼ概要訳でした。ただ、データについて興味深い記載がありましたので取り上げてみたいと思います。

(1)データの位置付け

まずデータの記載の位置ですが、素直に読めば「ウェブ広告サービス」の検討の一部として記載されていると考えられます。これはFACEBOOK/ WHATSAPP(Case No COMP/M.7217)と同様の位置・構成です。

http://ec.europa.eu/competition/mergers/cases/decisions/m7217_20141003_20310_3962132_EN.pdf

しかし、後述のとおり、どのような単なるウェブ広告サービス」市場の内容を超えて、データの集中そのものに対して言及している印象があります。

 

(2)データと競争法の関係

FACEBOOK/ WHATSAPPの場合、データについて「公表文」では次の記載でした。

FACEBOOK/ WHATSAPP(Case No COMP/M.7217)

In the context of this investigation, the Commission analysed potential data concentration issues only to the extent that it could hamper competition in the online advertising market. Any privacy-related concerns flowing from the increased concentration of data within the control of Facebook as a result of the transaction do not fall within the scope of EU competition law.

European Commission - PRESS RELEASES - Press release - Mergers: Commission approves acquisition of WhatsApp by Facebook

 

Microsoft/LinkedInの公表文の記載は次の通りです(引用部分よりも前にもデータの記載があります。(3)参照)。

The Commission analysed potential data concentration as a result of the merger with regard to its potential impact on competition in the Single Market. Privacy related concerns as such do not fall within the scope of EU competition law but can be taken into account in the competition assessment to the extent that consumers see it as a significant factor of quality, and the merging parties compete with each other on this factor. In this instance, the Commission concluded that data privacy was an important parameter of competition between professional social networks on the market, which could have been negatively affected by the transaction.

(注:下線は引用者による)

 このように、下線部の前までは概ね同様の内容ですが、下線部以降が追加されています。

つまり、プライバシーの問題は競争法の範囲ではないとする一般論は同様です。しかし、消費者がプライバシーを(サービスの)質の重要な要素として認識し、合併当事者が同要素を巡って競争している場合、競争法上の評価においても考慮され得ると一般論(現在形)で述べています。この部分は、FACEBOOK/ WHATSAPPに比べて、一歩踏み込んでいるものと考えられます。同事案のDecision*1でも確認できませんでした。単なる推測ですが、このような変化はVestager委員に交代した影響による可能性もあります。

 

また、Microsoft/LinkedIn事案で具体的にデータのプライバシーは専門的SNSサービスにおける重要な競争上の要素であったと結論付けられています。これは過去形の記載であることからしても、具体的に検討がなされた結果と考えられます。

前段の一般論においては、合併当事者がお互いに、つまり水平的に競合し、プライバシー要素に関して競争をしている状況に限定していると一見感じました。しかし、Microsoft/LinkedIn事案では、「専門的SNSサービス」で水平的に競合しているとは判断されておらず、より広い範囲でのプライバシー保護競争を検討している可能性があります。ウェブ広告サービス」であれば、合併当事者はある程度、水平的に競合していると認定されています。

 

なお、which以下を仮定法であるとして素直に読めば、買収により悪影響を生じる可能性があったが、そのような懸念は生じなかったことを示すものと考えられます。

 

(3) Web広告におけるデータ

この買収による広告目的のデータの集中は競争上の懸念を惹起しないと明言されています。理由付けは、そのようなユーザーデータは他で入手可能とのものです。推測ですが、Decisionでは、FACEBOOK/ WHATSAPPと同様のグラフが記載されているのではないでしょうか。

Moreover, no competition concerns arise from the concentration of the parties' user data that can be used for advertising purposes. This is because a large amount of such user data will continue to be available on the market after the transaction. In addition, the transaction would not reduce the amount of data available to third parties as neither Microsoft nor LinkedIn currently makes available its data to third parties for advertising purposes.

 

 

f:id:japancompetitionpolicy:20161211002853p:plain

出典 FACEBOOK/ WHATSAPP Decision P34 

http://ec.europa.eu/competition/mergers/cases/decisions/m7217_20141003_20310_3962132_EN.pdf

 

公表文のみでは不明確な部分も多く、決定本体が公表される段階で、今後、詳細な検討がなされるものと考えられます。

介護に関する公取委報告書について(2)国会でのやり取り

公正取引委員会 独占禁止法 自民党 介護 共産党

混合介護について、国会でも取り上げられたようです。

保険制度の崩壊招く/倉林議員 「混合介護」撤回を/参院厚労委

 

公開された議事録が興味深いものであったので、紹介したいと思います。

参議院会議録情報 第192回国会 厚生労働委員会 第6号

 

平成二十八年十一月十七日(第192回国会 参議院 厚生労働委員会 第6号 )の倉林 明子参議院議員(共産)の質疑です。

倉林議員は看護師であったとのこと。

プロフィール | 倉林明子 日本共産党 参院議員・京都選挙区

 

(1)厚生労働省の受け止め方

厚生労働大臣からは、公取委の報告書に関して、「厚労省としては御意見をしっかりと受け止めて今後の対応を考えていきたいと思います。その際、私としては、利用者そしてその家族にとってプラスになるかどうかということをしっかりと見ていきたいというふうに思います。」との答弁がありました。

これは、現時点での具体的な意見を述べず、今後対応を検討することと、利用者・家族の観点という原則論を述べることにより、将来的な対応の自由度を確保したものと考えられます。

倉林明子(前略)

 混合介護の問題を今日質問させていただきたいと思いまして、資料を付けております。公正取引委員会が九月五日に、介護分野に関する調査報告書なるものを発表しております。資料一枚目、二枚目に付けております。これ、介護分野における諸問題への対応は喫緊の政策課題だということで、この分野で活発な競争促進をさせることで、介護サービスの、右の方に書いてあります、供給量を増加、介護サービスの質、利用者の利便性の向上、事業者の採算性の向上、介護労働者の何と賃金増と人手不足まで解消するというふうに効果、期待書いてあるわけですね。
 介護分野の規制を外して市場競争に委ねれば全て解決すると、こんな提案が出されたということに正直言って私あきれました。介護分野を所管する大臣として、私は、率直なこの提言に対する御感想をお聞かせいただきたい。
国務大臣塩崎恭久君) 本年九月に、公正取引委員会から介護分野に関する調査報告書が出されておりまして、その中で、いわゆる混合介護の弾力化について提言をされているものを今指しておられるんだろうというふうに思います。
(中略)報告書ではこの運用の見直しが提案をされておりますけれども、厚労省としては御意見をしっかりと受け止めて今後の対応を考えていきたいと思います。その際、私としては、利用者そしてその家族にとってプラスになるかどうかということをしっかりと見ていきたいというふうに思います。

 

(2) 公取委の提言の根拠

 公取委の政策提言の根拠は独占禁止法1条(目的)に基づく任務となるようです。任務ということは、具体的には27条を念頭に置いているものと考えられます。ただ、質問者は納得していない模様です。

独占禁止法

(目的)

第一条

 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。

(任務、所轄)

第二十七条

 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第三項の規定に基づいて、第一条の目的を達成することを任務とする公正取引委員会を置く。

 

 

倉林明子君 (前略)本来、公正取引委員会たるものは、消費者利益のために不公正な競争、これを排除すべき役割があるんじゃないかと。権限を越えたような、介護、高齢者福祉のこれ政策に対する介入じゃないかと私は思うんですね。

 公正取引委員会にそこで確認したいと思います。
 一体この提言の法的根拠は何でしょうか、明確にお答えください。
○政府参考人(山田昭典君) お答えいたします。
 公正取引委員会は、独占禁止法第一条の公正かつ自由な競争を促進するなどの目的を達成することを任務としており、個々の独占禁止法違反行為に対して厳正に対処するとともに、公正かつ自由な競争が行われる環境を整備する観点から、これまでも様々な事業分野におきまして実態調査を行い、規制の在り方や取引慣行等について考え方を取りまとめてきたところでございます。
 今回の介護分野に関する報告書も、そのような観点から実態調査を行って取りまとめたものでございます。
倉林明子君 こういう政策介入みたいな法的根拠どこにあるのかと、今聞いていてもよく分からなかったですよね。ここにあるからこれをやったんだということの説明にはなっていなかったんじゃないかと思うんですよ。答弁は結構です。

 

参考 過去の混合介護に関する答弁

混合介護については、過去にどちらかといえば政府が前向きに捉える向きもありました。

衆 - 予算委員会 - 17号  平成27年03月13日

北川イッセイ君 成長戦略についての具体的な、できるだけそういう問題について話をしていきたいと、そういうように思います。
 成長戦略を挙げるときに必ず出てくるのが、介護、医療、環境産業ですね、こういうようなものに転換していってそれを伸ばしていくと、こういうことが必ず出てくるわけです。私もやはり将来可能性のある産業だなと、これを伸ばしていかないかぬということは同感であります。
(中略)
 先ほど、甘利大臣、本当に失礼しました、要らぬことを言いまして。具体的に、介護の産業に転換していくとか、そんなようなことで何かありましたら、ひとつ御披露いただけたらと思いますが。

国務大臣甘利明君) ほかに答弁する大臣が何か、厚労大臣が答弁されるのかと思いますけれども。
 例えば介護というのは、現状でいいますと混合介護なんですね。公的な保険がカバーするところと私企業が入れるところがあります。ここの分野でもいろんな提案がなされておりまして、公的制度で病院と介護の間にすき間があったりいたします。そこのところを民間のビジネスが入ってくる、あるいは民間の保険が入ってくる余地もあると。しかも、極めて低廉な保険料でできると。ビジネスクラス介護なんというちまたでは呼び名もありますけれども、そういうところも成長戦略の一つの箇所ではないかと思いますし、まさにマンパワー、このキャリアパスも含めて、しっかりとつくっていくということが検討課題として取り上げられるかと思っております。