競争政策研究所

将来の研究所を目指して、独禁法、競争法、競争政策関連の考察をしています。

介護に関する公取委報告書について(1)

9月、公取委は介護に関する報告書を公表しました。

(平成28年9月5日)介護分野に関する調査報告書について:公正取引委員会

 

具体的には以下の点について検討がなされています。

[1]多様な事業者の新規参入が可能となる環境

[2]事業者が公平な条件の下で競争できる環境

[3]事業者の創意工夫が発揮され得る環境

[4]利用者の選択が適切に行われ得る環境

 

今回の報告書の内容は、必ずしも政治家の支持を得られていない模様です。

なかでも、「[3]事業者の創意工夫が発揮され得る環境」に関する「混合介護」について、批判があるようです。

自民PT:「混合介護」反発 唐突な容認論「中身知らぬ」 - 毎日新聞

共産党からも反対の声があります。

主張/「混合介護」論議/公的制度に大穴を開ける危険

 

また、「[1]多様な事業者の新規参入が可能となる環境」についても反対論が示されています。

特養への参入規制撤廃論に反対する

 

対して、公取委の報告書を評価する意見もあります。

介護事業を飛躍的に伸ばす、公取委の画期的提言|医療・介護 大転換|ダイヤモンド・オンライン

 

介護サービスについては、規制改革推進会議でも議論されている模様です。

第3回医療・介護・保育ワーキング・グループ 議事次第 : 規制改革 - 内閣府

 

今回の記事はあまり内容がありませんが、今後、介護に関してもフォローしようと考えています。

トランプ大統領と反トラスト法(2)

前回の記事

トランプ大統領と反トラスト法 - 競争政策研究所

の補足的な記事です。

 

トランプ大統領の下での反トラスト法執行体制について、新たな報道がありました。

US: Former FTC Commissioner to lead Trump transition on antitrust | Competition Policy International

元の記事は下記。

Former FTC Commissioner Wright to lead Trump transition on antitrust - MLex

 

主要な内容は

(1)Joshua Wright氏が反トラスト法分野で政権移行に関連するチームを主導すること

(2)Joshua Wright氏自身も当局(司法省のAssistant Attorney Generalが例示)に就任する可能性があること

です。

ちなみに、Assistant Attorney Generalは反トラスト局長とも訳され、反トラスト法において重要なポジションです。

司法省反トラスト局(以下「反トラスト局」という。)は,局長(Assistant Attorney General)及び5人の次長並びに7の地方事務所等から構成されており,反トラスト局長は,上院の承認を経て,大統領が任命する。また,における反トラスト法の執行に関する権限は,事実上,反トラスト局長に集中している。

出典 米国(United States):公正取引委員会 

引用者注:最終文には脱字があり、次の趣旨と考えられます。

「司法省」における反トラスト法の執行に関する権限は,事実上,反トラスト局長に集中している。

 

Joshua Wright氏は元FTC委員で、経済学の博士号と弁護士資格を有しています。

Joshua D. Wright | Federal Trade Commission

 

Joshua Wright氏の記事で興味深い点は次のものです。

・FTCの政策についても経済分析の重要性を強調した。

・FTC委員の退任後に勤めた法律事務所は、Googleの代理をしている。(He also joined as of counsel at Wilson Sonsini Goodrich and Rosati, a prominent antitrust firm that frequently represents Google.)

 

 

 

 

トランプ大統領と反トラスト法

トランプ大統領の就任により、米国反トラスト法の執行については、どのような影響が推測されるのでしょうか。なお、法執行そのものは、当局の判断であり、大統領が「直接の」影響を持つものではないと考えられます。

 

 

まず、日本語にも翻訳されているとおり、AT&Tのタイム・ワーナー買収については、トランプ大統領は厳しい見方のようです。

米大統領選挙の共和党候補ドナルド・トランプ氏は選挙集会で、大統領選に当選した場合、買収を承認しない考えを明らかにした。

米AT&Tのタイム・ワーナー買収、与野党から懸念表明相次ぐ - ロイターニュース - 国際:朝日新聞デジタル

 

トランプ大統領はビジネスに理解があるとの見方もあるようですが、結局は見出しのように「unclear」のようです。少し興味深かったのは、トランプ大統領の公約のとおり国際貿易の縮小すると、米国企業は国内の市場に成長余地を求めることになり、競合他社の買収につながるかもしれないとのことです。

出典 http://www.nytimes.com/2016/11/11/business/dealbook/future-of-big-mergers-under-trump-like-much-else-its-unclear.html?_r=0

 

このほかにも、トランプ大統領は、過去にアマゾンが反トラスト法上の懸念があると発言したようです。しかし、詳細はよくわかりません。

出典 トランプ、アマゾンを「大きな反トラスト問題を抱える」と非難 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

さらに、OPECに対して、反トラスト法違反で訴えることについても発言があるようです。

出典:Election 2016: Trump on Antitrust | The National Law Review

 

また、トランプ大統領は、過去に反トラスト法訴訟の当事者となった経験があるようです。

(1)企業結合の届出義務違反について、FTCから民事訴訟を提起され、75万ドルを支払う和解を行った。

(2)NFLとは別のフットボールリーグを運営する立場から、NFLをシャーマン法2条違反で訴えた。しかし、訴えは認められず、そのフットボールリーグも消滅。

(3)運営するホテルのカジノが“Central Boardwalk Area” of Atlantic Cityの独占化を図った等として、民事訴訟を提起された。結果は地理的市場の画定が狭すぎるとのことで原告の訴えは退けられたが、$50 million(約50億円)もの訴訟費用を要したとも言われているようです。

出典:Donald Trump’s Major Antitrust Encounters (Robert A. Skitol, the antitrust source April 2016)

http://www.americanbar.org/content/dam/aba/publishing/antitrust_source/apr16_skitol_4_11f.authcheckdam.pdf

 

 

 

 

JAおおいたに対する立入検査 など

JAおおいたに対する立入検査

大分県農業協同組合(JAおおいた)に対して、公正取引委員会が立入検査を実施したとの報道がなされました。概要については、次のようなものとされています。

JAおおいたは2008年、大分県北部の3市で生産される小ネギの銘柄を統一し「味一ねぎ」として商標登録しました。そして生産部会を設立し翌年2009年に集出荷施設を設置、皮むきや袋詰作業を一本化して全国に出荷しておりました。JAおおいたは組合員である生産者が農協を通さずに他業者に出荷した場合、味一ねぎの商標を使用させなかったり、集出荷施設の利用を拒否することによって生産したネギの全量をJAおおいたに出荷するよう強制していた疑いがもたれております。強制をうけていた生産者の通報を受け公取委は先月27日、JAおおいたに立入検査を実施しておりました。

出典: JAに公取委が立入検査、事業者団体規制について | 企業法務ナビ

 

このような行為に対しては、

JAおおいたのこのような措置は8条5号や一般指定5項に該当する可能性が高いと言えるでしょう。
出典: JAに公取委が立入検査、事業者団体規制について | 企業法務ナビ

といった、独占禁止法違反の可能性が高いとの評価もあります。

 

競争に悪影響を与える可能性を指摘するにとどまる評価もあります。

仮に、報道されているような、JAを通じた出荷をせずに、他の販売先に出荷したことを理由に、ブランド名や集荷設備の使用で差別的な取扱いをしているとすると、それによって競争に悪影響が生じることもあります

出典: JAが全量出荷強制、従わない農家にブランド使わせず…独禁法でどんな問題になる? - 弁護士ドットコム

  

農業に関しては、「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成19年4月18日 公正取引委員会。以下「指針」と言います。)が存在します。*1

しかし、報道の行為について、同指針で明示的に記載があるものではなりません。

手がかりは次の2点と考えられます。
(1)商標や共同施設の利用拒否
(2)ブランド

 

(1)商標や共同施設の利用拒否

指針では、以下の記載があります(太字は引用者によるもの。)。

(2) 共同利用施設の利用に当たって販売事業の利用を強制する行為
 共同利用施設の利用を制限又は禁止されると,組合員が農業活動を行う上で重大な支障が生じることについては,前記1(2)のとおりである。
 このため,単位農協が組合員に対して,共同利用施設を組合員が利用する際に,自己の販売事業の利用を強制する等何らかの方法により,販売事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な事業活動が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなる。例えば,以下のような行為は,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(注8)(一般指定第10項(抱き合わせ販売等),第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))。
(注8)前記1(2)の(注5)と同じ。
[1] 単位農協が組合員に対して,組合員が共同利用施設を利用する際に,販売事業の利用を条件とする行為
(具体的事例)
ア 単位農協が自ら事業主体として行っているビニールハウスのリース事業について,組合員がリース事業を利用するに当たっては,農産物を単位農協へ出荷することを義務付けること
イ 単位農協が組合員に対して,単位農協を通じて米を出荷しない場合には育苗センター,ライスセンター及びカントリーエレベーターの3施設の利用を断ることがある旨を各施設の利用案内文書に記載して,組合員に対して周知することにより,当該組合員に単位農協を通じて米を出荷させること

まず、共同施設の利用は組合員の事業上重要であることが述べられております。その共同施設の利用の条件として、農協の販売事業の利用を強制させることは、組合員の自由かつ自主的な事業活動の阻害と,競争事業者の組合員と取引をする機会の減少の二つの側面から問題となり得ることが示されています。

ブランドについては明示されていませんが、共同施設の利用と同様に重要な要素であれば、上記の指針の論理は同じではないかと考えられます(後記のブランドの留意点を除く。)。

また、競争に関する影響(いわゆる弊害要件)としては、組合員の自由な事業活動の阻害の程度、競争事業者に与える影響という面から検討されるのではないかと考えられます。

 

(2)ブランド 

指針では、ブランドに関して次の記載があります。

(4) 販売事業の利用に当たって購買事業の利用を強制する行為

(中略)

(注7)一般的に,農畜産物の品質を揃え,ブランド農畜産物として出荷するために,品質の均一化等に関し合理的な理由が認められる必要最小限の範囲内で,単位農協の農畜産物の生産方法を統一すること(使用する農薬や肥料その他の生産資材を同じ品質・規格とすること等)は,それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。

また、ブランドについては、「「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(原案)に寄せられた主な意見の概要及びそれらに対する考え方 」で次の考え方が示されています(「注8」とありますが、質問と文脈から考えると現指針の「注7」を指すものと考えられます。)。

なお,具体的な行為が(注8)に当たるかどうかについては,当該ブランド農畜産物の品質・規格の内容や程度,生産方法の統一の必要性等を勘案 して,個々のケースに応じて,市場の競争に与える影響から判断されます。

http://www.jftc.go.jp/dk/noukyou/noukyou.files/noukyoupc.pdf

 このように、ブランドの維持のためには、「合理的な理由が認められる必要最小限の範囲内」で、一定の拘束行為が独占禁止法上問題とならないことが明記されています。

前記(1)の検討によって仮に商標や共同施設の利用拒否が競争上問題があるとされた場合、ブランドの維持のための正当化事由に類似する観点から検討されるのではないかと考えられます。

 しかし、ブランドに関する行為について、合理的な理由を正当化事由としてではなく、「市場の競争に与える影響」から判断するのは、記載からはどのような論理であるか明らかではないように感じられます。



(参考1)立入検査に対する当事者の反応

大分県農業協同組合からは以下のプレスリリースが公表されています。

 

公正取引委員会の立ち入り検査について

 拝 啓
 秋冷の候、組合員・利用者の皆さま方におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。平素より、JA事業につきましては格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。 
 さて、マスコミ報道もされましたとおり、当組合におきましては10月27日、28日の両日、公正取引委員会の立ち入り検査を受けました。組合員・利用者の皆さまには、大変ご心配をお掛けしております。 
 内容につきましては、調査の段階であり、結果が出た段階で、改めて報告をさせていただきます。

出所:公正取引委員会の立ち入り検査について | JAおおいた

 

公取委の調査に対して協力する旨が記載されてあるプレスリリースを目にします*2

が、今回はそのような記載はありません。

 

(参考2)

本件とはあまり関係ないのですが、自民党農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム(PT)の小泉進次郎委員長が下記の発言をしたとされています。

「協同組合は、株式会社にはできない共同購入ができる。その強みを最大限発揮する組織とはどういうあり方なのか。僕は今、その言葉(株式会社化)を使っていない」

www.sankei.com


 協同組合は共同購入ができて、株式会社では共同購入ができないとの意図と考えられます。

しかし、以下の相談事例もあるとおり、共同購入の内容によっては、少なくとも独占禁止法上は実施できる場合もあります。

競争関係にあるメーカーが合理化を推進するために,共同で資材及び部品の購入を行うことは,独占禁止法上問題ないと回答した事例。

http://www.jftc.go.jp/dk/soudanjirei/kyodokoi/kyodo3.html

 

自動車部品メーカーが,共同出資会社を通じて原材料の共同購入を行うことは,独占禁止法上問題ないと回答した事例

http://www.jftc.go.jp/dk/soudanjirei/h16/h14_15nendomokuji/h14_15nendo07.html

 

農協については、近日中に別途検討をする可能性があります。

 

 

雇用契約と競争法(2)公取委の見解

前回 雇用契約と競争法(1)米国ガイダンス - 競争政策研究所 の続きです。

 

今回は、日本における雇用契約と競争法の関係について、公取委の見解を中心に検討したいと思います。

結論を先取りすると、公取委の見解には批判があり、私も疑問が多いと考えます。 

 

労働契約への独禁法の適用: 弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。

http://www2.kobe-u.ac.jp/~sensui/sports-competition%20law.pdf

 

公取委の見解としては、以下のものがあります。

 問5(4月5日追加)
 仕事を失った被災者を地域でなるべく多く従業員として受け入れたい。その際,関係事業者が共同して,又は事業者団体が,賃金,労働時間等について調整したり決定することは,独占禁止法上問題となりますか。
 答
 被災者をどのような条件で雇用するかという雇用契約上の問題ですので,労働関係法令上の考慮の必要性は別として,独占禁止法上は問題となるものではありません。

出典:東日本大震災に関連するQ&A:公正取引委員会

 このように、雇用契約上の問題であれば、賃金等の雇用条件に関してカルテルを結んでも問題ないとされています。

しかし、このような行為は米国では危険な行為(red flag)とされています。

Agree with another company about employee salary or other terms of compensation, either at a specific level or within a range.

出典 

https://www.ftc.gov/system/files/documents/public_statements/992623/ftc-doj_hr_red_flags.pdf

 ただし、被災地における上記の行為については、競争に与える影響や正当化事由の観点から、独占禁止法上問題とならない可能性はあります。しかし、「雇用契約上の問題」であるとの理由で独占禁止法の観点から問題ないとされる論理は不明です。米国の考え方に見られる通り、雇用契約に関してカルテルが行われる場合にも、競争に影響を与える可能性はあると考えられます。

 

この他にも、プロ野球の関連で以下の見解が示されています。

 (事務総長) 今の御質問の点に関しましては,公正取引委員会は,平成6年に,プロ野球球団の団体から新人選手の契約金に上限を設けることについて相談を受けております。これに対しては,平成6年10月ですが,プロ野球選手の契約関係については,労働契約ないしは労働関係としての性格を備えているものとみられる点などを踏まえますと,独占禁止法に直ちに違反するものとの認識は現在有していない,契約金の性格等に関して当事者において確立した理解がされていない面があることから判断は困難であるものの,基本的な認識としては,今申し上げたとおり,労働契約としての性格を備えているものとみられる点などを踏まえますと,独占禁止法に直ちに違反するものとの認識は現在有していないということを口頭で回答しております。

 出典: 平成24年3月28日付 事務総長定例会見記録:公正取引委員会

 

上記の定例会見でも言及されていますが、労働契約との関係は国会でも複数の質疑応答があります。これらの積み重ねにより、プロ野球選手の契約関係についても、「直ちに」問題とすることはできないものと推測します。

独占禁止法に直ちに違反するものとの認識は現在有していない」との発言は「直ちに」と「現在」との2点において、一定の留保を置いたものと考えられます。

 

参考となりそうな質疑応答を掲載しておきます。強調はいずれも引用者によるものです。全体の雰囲気を伝えるため、かなり長くなっています。

国会での質疑応答においては、不当な取引制限(独占禁止法2条6項)の「取引の相手方」に労働者は該当しないことをもって、雇用に関する制限行為は不当な取引制限や事業者団体による競争の実質的制限に該当しないと明示されています。逆に言えば、事業者団体による機能活動制限の適用は明示的には排除されていないとも考えらえます。

しかし、取引との文言が含まれない規定も含めて、雇用契約独占禁止法の適用外と解釈されています。この理由は不明確に思われます。

 

 

参-文教委員会-13号 昭和45年04月28日

○田中寿美子君 この法案の提案理由説明の中にも、映画界の実態を勘案するという——ことばはちょっと違うかもしれませんが、そういうことばがあるわけです。ところがその映画界の実態というのは、これは御存じだと思いますけれども、これは公正取引委員会なんかは十分把握していらっしゃるのが当然だと思うんですけれども、今日これまで、参考人も述べておりましたけれども、映画界の五社というものがあって、これはほとんど独占企業でございますね。五社協定というのは監督に対して統一契約書というのを入れさしておりますね。たとえば専属監督契約書一号のAというようなものを入れさして、それでその中の第六条によりますと、「本契約による乙の監督映画の一切の権利は甲又は甲の指示する会社が保有するものとする。」というような契約を入れておりまして、そして形式上は現行法で自由契約なんですけれども、実際には、五社協定が意味していることは、一社との間に契約上のトラブルが一つでも起きたら他の四社はその監督の地位を剥奪してしまうこともできる、全部干してしまうということもできる。これは監督だけではございませんですね、俳優についてもそうでございますね。たとえば山本富士子が全然映画に出られないのはなぜか、五社の協定を破っているからだ。それから製作会社は五社がほとんど独占している。それに配給機構があって、配給会社があって、それから興業と、縦に独占しているわけですね。で、五社の指定している作品以外のものはほとんど自由には上映できないような体制をつくり上げている。こういう実情を公取のほうでは認識をしていらっしゃるのかどうか。

○説明員(三代川敏三郎君 [引用者注:公正取引委員会事務局経済部長]) 映画の関係につきましては、独占禁止法ができましてから間もなく映画の全プロ契約でありますとか、あるいはしばらくたちましてから、それにかわるものとしてできましたブロックブッキングの契約、そういったものを違反として取り上げて是正をいたしました。そういったように、映画の製作、配給面という点では、映画会社というものは事業者と認められますので、その行為につきましては、独占禁止法の適用があると考えております。で、その監督さんとか俳優さん、それは一体労働者なのか事業者なのか、その点が非常にわかりにくいことでございまして、大部屋の俳優さんあたりですと雇用契約が締結されていると思われますので、労働者ということになると思います。そしてそうでなくて、いわゆる歩合給と申しますか、そういった契約の方々になりますと、それが労働者ということではなくなってくると思われますが、といって、それじゃそれが事業者ということになるのかという点になりますと、その給付するサービスの内容というものが非常に個人的な性格を持っておりまして、はたしてその競争というものにどの程度なじみ得るのだろうか、山本富士子さんの演技というものは山本富士子さんでなければできない、そういったような非常に個人と結びついた性格を持っているように思われますので、その辺で事業者性というものがなかなか判断がつきにくいところでございます。

 

 

-参-法務委員会-3号 昭和53年03月02日

○寺田熊雄君 大分長い弁明だったけれども、それは大変検挙しにくい事件だということはよくわかるんだけれども、あなた方のいままでの実績を見てみるとほかの事件は非常によく検挙しておられるのだから、まあ困難はあると思うけれども、さらに努力をして検挙率を上げていただくように要望しておきます。いいですか。——それじゃ、警察の方はよろしいです。
 公正取引委員会の方にプロ野球の事業についてお尋ねをしますけれども、プロ野球の事業は独禁法第一条に規定する「事業」の中に含まれますか。

○政府委員(戸田嘉徳君[引用者注:公正取引委員会事務局長]) 独占禁止法に申しますところの「事業」には、商業、工業、金融業などのほかに、映画とかスポーツなどがいわゆるサービス業というものも含まれると解されておりますので、プロ野球の事業は独占禁止法第一条に言うところの「事業」に該当すると、かように考えます。

○寺田熊雄君 プロ野球の球団は独禁法第二条の「事業者」に当たりますか。

○政府委員(戸田嘉徳君) 独禁法第二条第一項で「事業者」と申しますときには「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。」と、かように規定しております。たとえば株式会社阪急ブレーブスでありますとかあるいは読売興業株式会社などのいわゆるプロ野球球団はサービス業を行っておるわけでございます。したがいまして、「その他の事業を行う者」に該当するということで、いわゆるここに言います「事業者」に該当するものと考えます。

○寺田熊雄君 そういたしますと、セントラル及びパシフィック野球連盟は、独禁法第二条第二項の「事業者団体」に当たりますね。いかがでしょう。

○政府委員(戸田嘉徳君) 独禁法第二条第二項で、「この法律において事業者団体とは、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体又はその連合体をいい、」云々と、かように規定してございます。ところで、太平洋野球連盟いわゆるパシフィック野球連盟は、株式会社阪急ブレーブス等の六球団、また、セントラル野球連盟は、読売興業株式会社等の六球団をそれぞれ構成員として組織されているわけでございまして、年度連盟選手権試合の実施を行うこと等を目的といたしておるわけでございます。したがって、ここで言う「共通の利益を増進することを主たる目的」としているものと認められるわけでございまして、「事業者団体」に該当するものと考えられます。

○寺田熊雄君 独禁法第二条第六項に、「取引の相手方を制限する」問題をつかまえておりますけれども、これは、雇用契約ないしは請負契約、あるいは雇用契約とも言えず、請負契約とも言えず、まあ一種特別な無名契約とすべきか、そういう疑いはありますが、野球選手契約というのがありますね、これの締結についての相手方を制限するということも含みますか。

○政府委員(戸田嘉徳君) 独占禁止法の第二条第六項で、「取引の相手方を制限する」というふうに規定してございますが、ここに言いますところの「取引」という中には、いわゆる請負契約、これは御承知のように当事者の一方がある事業を完成することを約束しまして、それに対して他の一方がその仕事の結果に対しまして報酬を払う、こういう契約でございますが、かような請負契約は一般的に含まれるものと解されております。しかしながら、雇用契約、これは御承知のように当事者の一方が使用者に対してその使用者の労務に服するということを約しまして、使用者の方がこれに対して給料等の報酬を支払う、こういうことを約する契約でございます。その契約の内容は、まあいわば一定の賃金を得まして一定の雇用条件のもとで労務を供給すると、こういう契約でございます。さらに申しますと、この契約は、非独立的な従属的な状態の時間的に束縛をされた労務を提供すると、かような契約でございます。かような雇用契約は、いわゆる独禁法に申しますところの「取引」には含まれない、かように解されてきております。
 いまお話のございましたところのプロ野球選手契約でございますが、この性格につきましては必ずしも一定した解釈が確立していないようでございますが、私どもといたしましては、これはきわめて雇用契約に類似した契約である、したがいましてこれは独禁法上問題としがたいものと、かように考えて従来運用をいたしてきております。

○寺田熊雄君 最近話題になっております野球界の憲法と言われる野球協約というのがございますね。この野球協約の中に規定されているドラフト制度、このドラフト制度は独禁法第二条第六項の「不当な取引制限」に当たるかどうか、公取のお考えを承りたい。

○政府委員(戸田嘉徳君) ただいまお尋ねのドラフト制度でございますが、これはプロ野球球団が相互に野球選手契約の相手方について一定の制限を課すると、そういうことを内容としているものと考えられるわけでございます。ところが、この野球選手契約というのは、先ほど申し上げましたように、一種の雇用契約に類する契約と、かように私どもは判断いたしますので、独占禁止法第二条第六項または第八条第一項第一号というようなところに言いますところの規定には該当しないと、かように解しておる次第でございます。

○寺田熊雄君 そういたしますと、このドラフト制度は、独禁法第八条第一号の「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。」にも該当しないと、そういう解釈をとっておられますか。

○政府委員(戸田嘉徳君) 仰せのとおりでございます。

○寺田熊雄君 かつて、野球選手の契約金の最高額について球団側が申し合わせたことに関連して、独禁法の問題が論議されたことがありました。もちろん反対論もあります。そうすると、この野球協約に規定せられるその種の事項はすべて独禁法の規律するところの範囲外だと、こういうふうに見ておられるわけですね。

○政府委員(戸田嘉徳君) 私、野球協約のすべてに精通しているわけでございませんのですが、ただ申し上げられますことは、いわゆる雇用、まあ雇用に準ずるといいますか、いわゆる雇用契約に関連することども、さようなものについては独禁法の適用は外れると、かような解釈で運用をしてきておるわけでございます。

○寺田熊雄君 もう結構です、終わりましたから。
 次は法務省の方にお尋ねしますが、いま公取の方の御解釈がちょっとのぞけましたね。プロ野球選手が球団と結ぶ選手契約の法律的性格、これはまあいろいろ契約の自由と関連したりあるいは職業選択の自由に関連をいたしていろいろ論議されておりますが、これは法務省としてはどういうふうにこの選手契約の法律的性格について考えておられますか。

○政府委員(香川保一君[引用者注:法務省民事局長]) 先ほども寺田委員御指摘のように、大まかに申し上げますと、民法における雇用契約と請負契約の中間的な無名契約というふうに法律的な性格を考えるべきだろうと思います。

○寺田熊雄君 いまの民事局長のお話ですと、雇用契約と請負契約の中間にある一種の無名契約と、こういうふうに見ておられるというのですね。いま公取の事務局長は、雇用契約にきわめて類似したと言われる。まあこのごろ中道ということがはやるけれども、どっちの方に傾いているかというそれが問題なんでね。雇用契約の方に近いのか、請負契約の方に近いのか。つまり、雇用契約の類似とまで言えるのかどうか、この点どうでしょうか。

○政府委員(香川保一君) 無名契約につきましてこれは民法自身規定が何もないわけでございますから、いろいろの法律を解釈いたします場合に、やはりその法律の趣旨から、たとえば選手契約が一般的に言って請負契約の方に近いというふうに言えるといたしましても、独禁法の趣旨で言えばやはり雇用に近いものというふうな位置づけもこれはあながち不合理ではないと思うのでありますけれども、先ほど申しました民法から見て請負と雇用の中間的と申したわけでございますから、ほかの法律から見た場合に、その法律の適用上どちらの方に近いものとして考えるかというのは、これはやはり相対的に考えざるを得ない問題だろうと思うのであります。私は個人的にはよくこの選手契約の内容をつまびらかしておりませんけれども、少なくとも民法で考える場合には、どちらかと言えば請負に近いような解釈とした方がいいのじゃないかという感じがいたしておりますけれども、これはまあ民法的な考え方として申し上げる限りでございます。

○寺田熊雄君 公取の方は、どっちかというと雇用契約に類似したという、雇用契約に近い距離を示唆された。あなたは、どっちかというと請負契約に近いというようなお説のようですね。等距離にないというふうな、どちらもそういうニュアンスが感じられますけれども、あなたはドラフト制度についてはどう考えられますか。これはもう御研究になったと思うのですが、これこそ民法九十条との関連、あるいは民法第一条の第二項との関連、いろいろありますね。どういうふうにお考えでしょう。

○政府委員(香川保一君) これはいろいろ見方があると思いますけれども、きわめて法律的にと申しますか冷ややかにと申しますか考えますと、特に選手に選手契約を締結しなきゃならない義務があるわけでもありませんし、また逆に契約締結の請求権を持っているわけでもございませんので、さような基本的な立場で考えますと、民法の九十条、公序良俗に違反する契約というふうには考えられないのではないかというふうに思っております。

-参-経済・産業委員会-15号 平成12年05月11日

○梶原敬義君 わかりました。
 それから、ちょっとプロ野球のドラフト制、これは昭和五十三年に我が党の先輩の寺田議員あたりが議論をちょっとしておりますが、これらの選手が、どうもおれはこの球団に行きたいと、しかしあっちもこっちも声がかかって、くじを引いてくじで当たったところに行かなきゃならぬというような場合に、差しとめ請求というのですか、そういうような形がこれから起こってくるんではないかと、このように思うんです。
 いただいた資料によりますと、ヘイウッド事件と言って、仮差しとめを求めた例で、アメリカのバスケットボールの選手について、NBA、ナショナル・バスケットボール・アソシエーションというところが、高校を卒業して四年間はNBAに加盟するチームに所属することができないと、こういう協会の規則が定まっておって、そして彼は、ヘイウッド氏は、高校を出て四年たたないうちにシアトルチームと契約をした、それでNBAがだめだと、こう言った、それで裁判をやって、一審は仮処分で勝って、二審は仮処分の停止をした、そして上告をして最高裁は仮差しとめ処分を支持したと。ヘイウッドさんの希望するところでバスケットができるようになったというんです。
 今度は、日本のドラフト制というのは、私はこの法律ができたらやっぱり、これは独禁法云々という議論はきょうは時間がないからしませんが、恐らく訴訟が選手からふえてくるんじゃないかと、このように思うんですが、いかがですか。

○政府特別補佐人(根來泰周[引用者注:公正取引委員会委員長]) 私は、こういうドラフトなんかは当然独禁法の適用があると思いましたら、うちの方の学者がこれは適用がないんだという話のようであります。ちゃんと論文を書いた人がおりますから、詳細お聞きならば御説明申し上げますが、アメリカでもプロ野球については何か独禁法の適用がないようでございます。
 そうしますと、ただいまお話しのようなプロ野球の選手がいろいろ野球協約上の問題で不公正な取引方法の被害を受けたということで裁判所へ差しとめ請求、これは請求はできるとしましても勝ち目がないということになるんじゃないかと私は思いますけれども。

○梶原敬義君 結論は、今根來さんの言われたことは、よく聞き取れなかったんですが、結局は本人が訴訟をやっても勝ち目がないということですか。

○政府特別補佐人(根來泰周君) 独占禁止法プロ野球の各種協定に適用がない、それはプロ野球選手と球団との雇用契約であって取引ではないという解釈をとりますと、独占禁止法の適用がないという前提に立てば請求をしても勝ち目がないんじゃないかと思うわけでありますし、また、これは何か悪意の場合には担保を提供するというようなことがございますから、入り口でもいろいろまた問題もあろうかと思います。

○梶原敬義君 結局、不当な取引制限に当たるのか、あるいはこのプロ野球選手がドラフトにかかるというのは不当な取引制限に当たるんではないかというのが、私は当然当たるんだろうと、こう思います。しかし、今言われているのは、一種の雇用契約だということから独占禁止法にはひっかからないということなんですかね、今言われているのは。

○政府特別補佐人(根來泰周君) 何か通説はそういうことのようです。

○梶原敬義君 これは、先ほど言いましたヘイウッド事件という、バスケットボールの選手が裁判を繰り返しながら最終的にはヘイウッドさんの仮差しとめ処分がアメリカでは最高裁では勝っているんですよね。だから、なかなか簡単にはこれはいかないんじゃないかと思うんですけれども、ちょっと。

○政府参考人(山田昭雄君[引用者注:公正取引委員会事務総局経済取引局長]) 御指摘のとおり、アメリカではプロのバスケットボールもサッカーもこれは独禁法の適用があるとされております。野球につきましては委員長が申しましたように適用除外となっていましたが、最近その適用除外の範囲を縮めまして、一応適用があるというような判例なり、あるいは制定法で適用除外としていたものが範囲が縮小されるというようなことでございます。
 我が国の場合につきましては、プロ野球の球団と野球選手との関係というのは、これは雇用契約の色彩が非常に強いのではないか、あるいは前回の国会等の御議論では請負契約の色彩もあるんじゃないかと。いずれにいたしましても、独占禁止法上の球団と野球選手との取引関係があるかどうかということで、独立の事業者と言えるかどうかという問題であろうかと思います。
 したがいまして、これは公正取引委員会として従来そのように考えそのように運用してきたわけでございますが、これはどうもひいきの球団がどこであるかによりましてもそれぞれ解釈がかなり違っておりますので、裁判所に訴えを提起しそして司法の判断を求めていくというのも、これもまた一つの道ではないかというようには思います。そして、委員長が先ほど申しましたように、判例として集積していくということではなかろうかと思います。

 

 

-参-文教科学委員会-5号 平成19年03月27日

鈴木寛君 ありがとうございます。
 今、正に局長から野球界に対してもそういうことを申し上げたいという大変貴重な御答弁をいただきました。是非そうした注意喚起をしていただいて、これを機に本当に、いろいろな知恵はあると思いますので、ジュニア期からいかにそうした健全な育成をしていくか。
 それと、スポーツ・青少年局というのは非常に重要なポジションにありまして、結局教育的な配慮と、これやっぱりバランスの問題ですよね、教育的な配慮もしなければいけない。しかし、その一方でやっぱりスポーツの振興、その中で非常に、特にスポーツ能力の高いジュニア人材、若手人材をどういうふうに育成していくかと、このスポーツ振興の、これの折り合いを付ける。さらに、青少年の健全育成というこのかなめを握っておられるのが私はスポーツ・青少年局長であると思っておりますので、これ、そうした野球界とも、何というんですか、コミュニケーションはやっぱり密に、もちろんそれぞれ自立した、独立した運営であるということはこれは当然ですけれども、いろんなやっぱり意見交換とか、我々の問題関心を時々はきちっと伝えていただくとか、そういうことは是非私はやっていただきたいというふうに思いますので、今文部科学省としても野球関係団体等々に注意喚起をしていただくという大変前向きな御発言をいただきましたことは大変多としたいと思いますし、是非これを機に頑張っていただきたいなと、こういうふうに思っているところでございます。
 それで、もう少しこの問題を掘り下げてみたいと思うんですけれども、なぜここまで青田買いが過熱してしまうかということは、ある意味では入団してからの問題ともこれ裏腹の関係にあります。すなわち、これ九年たつとフリーエージェントという、FAという制度が利用できるわけでありますけれども、これは例えば一軍に九年間いなきゃいけないとか、物すごく限定された制度になっているわけですね。
 一般の企業でありますと、企業も野球もこれは人材がすべてであります。新人のいい人材を採れるかどうかということに皆さん躍起になるわけでありますし、と同時に、今かなり世の中、人材の流動化というのがなされていて、中途採用というんでしょうか、経験者の採用でもって強化をすると。それから、人材の方も、Aという会社にはなかなか自分の活躍の場はなかったけれども、Bという会社であれば自分が本当に活躍する場もある。これはチームワークですから、それぞれの人の能力の問題もありますけれども、相性とか、働く職場と。そういうふうにある程度人材の流動化ということができることによって組織といいますかチームというのは、新人の採用とそれから中途の経験者と、この両方のベストミックスによっていいチームづくりというのはしているわけであります、民間企業においては。
 ただ、野球界の場合は、あるいは実は国家公務員の場合もそうかもしれませんけれども、なかなか中途の戦力強化ということが十分に行えないがために、どうしてもこの新人のところに過度な、何といいますか、バイアスが、荷重が掛かってしまうというのが現状かと思うんですけれども。もちろん、難しいことはよく分かってはおりますけれども、選手のより自分が頑張りたいチームで頑張りたいと、こういう非常に率直で素朴な思いというものを私はもう少しかなえてあげてもいいんではないかなというふうに思います。
 そういう中で、これも二〇〇四年来ずっと問題提起がされてきた問題ですけれども、今日は公正取引委員会にも来ていただいていますけれども、プロ野球の球団と選手との契約の在り方で、私は、契約というのは基本的にはやっぱり対等な立場で契約ができると、もちろん合理的な制限というんでしょうか、制約というのはある程度はやむを得ないと思いますが、しかしそれは必要最小限でなければならないというのが契約あるいは民法の大原則だと、こういうふうに思っております。
 明らかにその原則が崩れていることは事実であります。もちろん、しかしプロ野球界の全体の発展という中でやむを得ない部分もあるということも承知しておりますが、例えば日本プロフェッショナル野球協約というのがございます。その四十五条とか四十六条では、契約というのは全部これ統一契約でやらなきゃいけないということになっているんですね。それで、「球団と選手との間に締結される選手契約条項は、統一様式契約書による。」と、こういうふうになっているわけなんです。これまた面白いことに、監督並びにコーチとの契約条項は統一契約書によらないというふうになっているんですね。ここに明らかに差別的取扱いというのがありまして、そして「統一契約書の様式は実行委員会が定める。」というふうに言っています。
 これは民法上は約款契約ということだと思いますが、約款契約であればその約款契約の妥当性、例えば銀行の約款契約であればそれの妥当性については金融庁がそれを監督しているということになっていますし、あるいは生命保険でも同じようなことだと思います。
 要するに、このような統一の基準、統一の約款でやらなければいけない業務というのは、例えば運輸業にしてもいろいろな業務がありますが、その場合はきちっとそれを、だれかがその公益性、あるいは客観性、あるいはそれの必要最小限の措置であるということを確認するという方法が入っているわけでありますけれども、NPB、日本プロフェッショナル野球機構というのは別にそうした役所の監督というものもない。これは別に私それでいいと思うんです。それを監督、文部省が所管しろなんということはみじんも言うつもりはありませんが。
 しかし、それが本当に公正な契約自由の原則、あるいは公正な契約関係の樹立という観点から問題がないのかどうかということはやはりきちっと関心を持って、これだけの好機でありますから注目する必要があるんではないかと思いますが、公正取引委員会はこのNPBの野球協約についてそういう観点から検討とか検証とか行っているのか、あるいはそこまで本格的なことはおやりになっていないにしても、どういうふうな問題関心を持って、これ何年間に一回問題になるこのドラフトの問題とか契約の問題とかFAの問題、研究をされておられるのか、その辺りの状況についてお答えをいただきたいと思います。

○政府参考人(鵜瀞恵子君[引用者注:公正取引委員会事務総局経済取引局取引部長]) 野球協約についてのお尋ねがございました。
 野球協約にはいろいろな定めがあるようでございますけれども、御指摘の点はドラフト制度あるいはFA制度にかかわるものと理解いたしますので、野球選手契約についてどう考えるかということかと存じます。
 野球選手契約につきましては、一種の雇用契約に類する契約と考えておりまして、プロ野球における現行の契約慣行を前提として考える限り、独占禁止法上の取引に直ちに該当するものとは解されませんで、独占禁止法上問題となるものとは言い難いというふうに考えております。
 過去に検討したことがあるかというお尋ねでございますけれども、何度か国会で答弁をさせていただいております。

 

雇用契約と競争法(1)米国ガイダンス

米国DOJとFTCが人事担当者向けの反トラスト法ガイダンスを公表しました。

Justice Department and Federal Trade Commission Release Guidance for Human Resource Professionals on How Antitrust Law Applies to Employee Hiring and Compensation | OPA | Department of Justice

 

FTC and DOJ Release Guidance for Human Resource Professionals on How Antitrust Law Applies to Employee Hiring and Compensation | Federal Trade Commission

 

ガイダンスでも幾つかの事件に言及されていますが、例えば次のような事案を念頭に置いているようです。

司法省,従業員の引き抜きを禁止する協定を締結していたとしてeBayを民事提訴

 2012年11月16日 司法省 公表

外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます。原文

【概要】 

 司法省は,eBayが,Intuitとの間で,Intuitの従業員の引き抜きを禁止する協定を締結していたことにより,従業員の獲得競争という競争の重要な一形態が失われ,彼らのより良い仕事に就く機会及びより良い報酬を得る機会が奪われたとして,eBayをカリフォルニア北部連邦地裁に民事提訴した。
 司法省は,従業員の引き抜きを禁止する協定を巡る一連の審査で,2010年9月にAdobe SystemsAppleGoogleIntelIntuit及びPixarの大手ハイテク企業6社を,同12月にはLucasfilmを民事提訴しており,いずれも,勧誘,採用又はその他従業員獲得を巡る競争をやめる又は他社にやめるよう強いる協定の締結の禁止を内容とする和解が成立している。司法省は,このため,2010年9月に合意された和解内容をもって,Intuitに対する提訴を行う必要がないと判断した。

出典: 2012年11月:公正取引委員会

 

ガイダンス関連で興味深い記載を紹介したいと思います。

 

市場

反トラスト法の考え方においては、雇用者の雇用や保持で競争をしている企業が「雇用市場」における競合企業となるようです。また、競合企業となるためには、必ずしも同じ製品・サービスを供給することまでは要しないようです。

From an antitrust perspective, firms that compete to hire or retain employees are competitors in the employment marketplace, regardless of whether the firms make the same products or compete to provide the same services.

ガイダンスP2

 

カルテルの対象

言及されている事案は、専門職に関するものが多いようです。例えば、前述のeBay事件では「specialized computer engineers, scientists, 」に言及がありますし、医療関係の企業やファッション関係の企業の事例がガイダンスで言及されています。

これは、例えば「一般的な営業職」の給与や待遇について、少数の企業でカルテルを行っても、他の企業がより高待遇を提示すればカルテルの実行性が乏しくなるためだと考えられます。つまり、特定の専門職を雇用する少数の有力な企業によるカルテルでなければ、効果がないと考えられます。

特定の地域の医療機関のカルテルの事案が存在することにかんがみると、労働者は移動できるという点で雇用市場の流動化は一定程度存在するとしても、特定の地域で一定のシェアを有する企業であればカルテルとしては効果があると考えられます。

 

情報交換

ガイダンスは情報交換であっても反トラスト法上問題となる可能性があることを示しています。他方で、下記の例は適法とされています。

For example, an information exchange may be lawful if:

• a neutral third party manages the exchange,

• the exchange involves information that is relatively old,

• the information is aggregated to protect the identity of the underlying sources, and

• enough sources are aggregated to prevent competitors from linking particular data to an individual source.

 出典:ガイダンスP5

 

この記載は「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月30日 公正取引委員会*1を彷彿とさせます。

9―4 (事業活動に係る過去の事実に関する情報の収集・公表)

(3) 原則として違反とならない行為

○ 当該産業の活動実績を全般的に把握し、周知するために、過去の生産、販売、設備投資等に係る数量や金額等構成事業者の事業活動に係る過去の事実に関する概括的な情報を構成事業者から任意に収集して、客観的に統計処理し、個々の構成事業者の数量や金額等を明示することなく、概括的に公表すること

 

見解の表明や情報の受領

ガイダンスと同時に公表された「quick reference card」では簡潔に危険な行為を指摘しています。その中には、一方的な意見表明やセンシティブ情報の受領といった、必ずしも相互的ではない行為も含まれています。

Express to competitors that you should not compete too aggressively for employees.

• Receive documents that contain another company’s internal data about employee compensation.

 

次回は雇用契約と日本の独占禁止法との関係に触れてみたいと思います。 

 

学校制服と競争

朝日新聞を中心として、学校の制服の価格が高止まりし、家計の負担となっているとの指摘がなされています。

制服、英国でなぜ安い? 日本の6分の1、政府も後押し:朝日新聞デジタル

(けいざい+ 深話)制服をもっと安く:上 お古に商機、母の知恵:朝日新聞デジタル

(けいざい+ 深話)制服をもっと安く:下 どこでも買える英国、価格に敏感:朝日新聞デジタル

 

朝日新聞の執筆記者は、この話題を一定期間にわたって追いかけているようです。

 

事務総長定例会見でも、制服に関する質疑応答がなされています。

平成28年9月7日付 事務総長定例会見記録 :公正取引委員会


上記会見の内容を踏まえると、「制服価格の高止まり」に対して、その原因が競争に関連する場合、具体的な要因としては次の3つが考えられます。
なお、この3要因は相互に関係していたり、複合的な要因となる可能性もあります。
(1)制服メーカーが再販売価格維持により、小売店の価格を拘束している。
(2)制服の小売店が独占企業であることによって、あるいは複数の小売店のカルテル独占禁止法上問題)や意識的並行行為(独占禁止法上は問題とならない)によって、価格を競争水準よりも引き上げている。
(3)地方政府や学校が、制服の規格や小売店の指定を行い、十分な参入や競争が発生していない。

 

日本以外においても、制服が競争上の関連で話題となったことがあるようです。

日本の公正取引委員会にあたる競争・市場庁(CMA)は昨年10月、各校の校長や制服納入業者などに向けた公開書簡を出した。書簡では、同庁が行った制服価格調査の結果をもとに、制服の製造・販売業者を単独かごく少数に限定する「制限販売」の慣行を見直すよう求めた。

出典 制服、英国でなぜ安い? 日本の6分の1、政府も後押し:朝日新聞デジタル

 

この記事で触れられている公開書簡は下記と考えられます。

www.gov.uk

 

CMAの公開書簡のうち興味深い点は次のとおりです。

(1)exclusive arrangement

CMAは、製造業者・卸売業者(supplier)や小売店(retailer)に対するexclusive arrangementを問題視しているようです。この行為の主体としては学校側であり、学校による制服の独占的取扱いを改善したいとのCMAの意図が見受けられます。

exclusiveでは独占的取り扱いという印象もありますが、必ずしも独占(1社)とまでは限定していないようです。しかし、協調行為ではなく、地域的独占に基づく支配的地位の濫用を問題視しているようです。書簡全体の印象でも、独占的取扱い(1社や1製品の指定)の改善の必要性を強調しているようです。

Problematic arrangements may include long term exclusive arrangements between schools and uniform suppliers or retailers, or where these arrangements provide uniform suppliers or retailers with a local monopoly and they abuse that position by, for instance, charging excessive prices.

(公開書簡P2−3)

 

(2)宛先

公開書簡の宛先は、

Head teacher, governing board, school uniform supplier,

 

となっており、小売店は含まれていないようです。さすがに数が多すぎて、把握できなかったか、手間や費用面が理由と推測します。

 

(3)価格引き上げ効果

排他的取扱いにより、制服の価格が5から10ポンド上昇させているとの証拠があるようです。

I am writing to you about the appointment of exclusive suppliers for school uniforms. There is strong evidence that this practice has increased the cost of uniforms significantly - by as much as £5 to £10 per item 

(公開書簡P1 冒頭)

 

どうやら2012年のOFTの報告書に基づいている模様ですが、原典までは確認していません。

(4)公開書簡という手法

学校単位といった狭い地域の支配的地位の濫用について、個別に競争法を執行することは効率性の面から困難と考えられます。一方で、地域的な独占が全国的に広がっているとすれば、弊害としては相当なものと推測され、比較的大きな課題と考えられます。特に、制服は消費者に身近な問題であり、一定の注目を集めるテーマとなりそうです。

そのような状況で、公開書簡という手法で効率的に対処することは、非常に合理的と感じました。また、過去の報告書を利用していることも効率的です。

 

調べてみると、公正取引委員会も制服について、一定の見解を示していました。

 

(カ) 学校制服の販売店の推定・ごみ収集袋の指定

a 学校制服の販売店の指定
 学校が制服販売店を指定する理由として,保護者が制服を購入する際における便宜を図ることが挙げられているが,指定販売店を少数に固定化しておくことに合理性があるか疑問であり,これにより,制服の販売店間の競争が行われなくなっている可能性がある。
 したがって,制服の販売を希望する事業者を広く指定販売店としたり,又は,制服の仕様を積極的に開示することによって,販売店が自由にこれを取り扱えるようにするなどにより,指定販売店の在り方を見直すことが望まれる。

出典: 

http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h10/02050001.html

 

販売店(小売店)に焦点を当てているものの、公取委の見解はCMAの見解と大きく異なるものではないと考えます。

公取委は平成11年6月に「 地方公共団体が行う規制の実態調査」を公表したようで、その中の1テーマが上記の制服についてです。

全部で下記のテーマについて記載があるようですが、他にも興味深いテーマがあります。しかし、報告書そのものは現在はHP上で公開されていない模様です。

① 事業許認可等における法令に定めのない要件の付加
② 事業者団体への工事等の一括発注
③ 特定の事業者団体の加入業者に限定した競争入札参加者の選定
④ 地元企業優先発注及び地元産品優先使用
⑤ 物品の入札等における銘柄の指定
⑥-1 学校制服の販売店の指定
⑥-2 ごみ収集袋の指定

出典: 

http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h10/02050001.html

 

 

スマホOSのシェア

経済産業省の「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書 」*1(以下、「経産省報告書」と言います。)と、公正取引委員会の「携帯電話市場における競争政策上の課題について」*2(以下、「公取委報告書」と言います。)でスマートフォン(OS)のシェアに相違があったので、それについて考察してみます。

 

具体的には下記の記載となっています。

経産省報告書

我が国におけるスマートフォンのシェアは、AppleiOS が約 7割、GoogleAndroid が約3割であると言われており (脚注2)、

脚注2 出典StatCounter(2015)

また、経産省の別の説明資料*3では、下記の円グラフが示されています。 

f:id:japancompetitionpolicy:20161001235718p:plain

 

公取委報告書

我が国におけるスマートフォンのOSのシェアは,iOS が 46.8%,Android OS が 51.7%となっており,その他のOSも存在するが,そのシェアは低い(脚注33)。

脚注 33 Kantar Worldpanel ComTech 調べ(平成 28 年 3 月)。

 

まず、そもそも経産省報告書では、「スマートフォンのシェア」として、機器のシェアでなくOSのシェアを示しており、日本語として疑問があります。

 

より本質的な内容としては、経産省報告書では iOSのシェアが約70%、公取委報告書では46.8%と20%以上差があります。

 

ソース

両報告書のソースを検討してみたいと思います。

 

経産省報告書

経産省報告書のソースは下記と考えられます。

StatCounter Global Stats - Browser, OS, Search Engine including Mobile Usage Share

2016年8月のデータで、iOSのシェアは71.79%とされています。

しかし、このデータは様々なサイトの「閲覧数」におけるOSのシェアのようです。*4このデータソースはOS以外にもブラウザのシェアも提供しています。

経産省報告書は、OSのシェアを「ゲーム等のスマートフォン用アプリの販売・配布」において触れており、全体としてもアプリストアに関する行為(約3割の手数料など)を問題点(具体的には過去の記事も参照)として指摘しています。このため、本来であれば、サイトの閲覧数ではなく、アプリストアの有料での利用量やアプリストア事業者を通じた決済の利用額のシェアを用いるべきと考えられます。

例えば、iphoneのユーザーが、webを見る頻度は高いが、有料アプリの購入やアプリ無い購入の頻度が低い傾向にある場合、経産省報告書のアップルのシェアは過大な数値、ミスリーディングな数値と考えられます。

 

公取委報告書

公取委報告書のソースは下記と考えられます。

Smartphone OS sales market share – Kantar Worldpanel ComTech

 

f:id:japancompetitionpolicy:20161002002411p:plain

 

このサイトによる2016年3月のiOSのシェアは46.8%でした。

本データは「Smartphone OS sales market share」とされており、それ以上の詳細(販売量なのか額なのか、データソースなど)は確認できませんでした。AppleはOSを他社に販売(ライセンス)しておらず、GoogleはOSを無償ライセンスしているので、OSのもののの販売のシェアではなく、OSを搭載したスマホのシェアと考えられます。

また、Salesのデータであるからか、増減も見られ、例えば、2016年ではiOSのシェアは

1月 50.3%

3月 46.8%

6月 38.0%

7月 34.1%(閲覧時点で最新のデータ)

となっています。

なお、この数字は該当月とその前の2か月の合計3か月のデータです。*5

公取委報告書では、主にグーグルによるAndroid OSのライセンスに関連した行為を問題として取り上げる*6ため、上記のようなSalesのシェアを示すことは、数値の選択として一定の合理性はあると考えられます。ただし、このソースでは時系列で数字の変動がそれなりにあるため、恣意的にある月の数字を引用すると妥当性が問われると考えられます。

しかし、例えば、2015年8月はAndroid OSのシェアが64.5%ですが、敢えてそういった時点の数値を引用したのではなく、おそらく報告書執筆時に最新の数字として「iOS が 46.8%,Android OS が 51.7%」を参照したものと推測されます。むしろ2016年4月のデータを引用すると、Android OSのシェアは55,7%に上昇しています。

 

このほか、例えば、出荷台数におけるOSのシェアとして、iOS 53.4%:Android 46.6%とするデータ(2015年)も別途ありました。*7

このデータと比べると、公取委報告書は約5%の差(Android OSが相対的に多い)経産省報告書は約20%の差(iOSのシェアが相対的に多い)があります。しかし、上記のいずれのソースも実数ではないので、数字の妥当性を論じているものではありません。

  

背景の推測

このようなシェアの数字の相違について、前提として、公的な統計等の最適なデータソースが存在しないことがあると考えられます。このため、調査会社等のデータを使用せざるを得ないもの推測します。

その上で、経産省報告書では、アップルの行為を主な問題として取り上げるため、iOSのシェアを高いデータソースを利用するインセンティブがあると考えられます。 

逆に、公取委報告書では、主にグーグルによるAndroid OSのライセンスに関連した行為を問題として取り上げるため、Android OSのシェアが高い(iOSのシェアが低い)データソースを利用するインセンティブがあると考えられます。

 

*1:第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書を取りまとめました(METI/経済産業省)

*2:(平成28年8月2日)携帯電話市場における競争政策上の課題について(概要):公正取引委員会

*3:【60秒解説】デジタル市場での競争と独占の問題点

*4:

FAQ | StatCounter Global Stats

What methodology is used to calculate StatCounter Global Stats?

StatCounter is a web analytics service. Our tracking code is installed on more than 3 million sites globally. These sites cover various activities and geographic locations. Every month, we record billions of page views to these sites. For each page view, we analyse the browser/operating system/screen resolution used and we establish if the page view is from a mobile device. For our search engine stats, we analyze every page view referred by a search engine. For our social media stats, we analyze every page view referred by a social media site. We summarize all this data to get our Global Stats information.

 

*5:This information is based on the research extracted from the Kantar Worldpanel ComTech global consumer panel and refers in all cases to 3 months periods ending the stated month.

Smartphone OS sales market share – Kantar Worldpanel ComTech

*6: 公取委資料によると端的に、「OS事業者が端末メーカー等に対して、ライセンス条件(有償、無償)として、自社のアプリのデフォルト設定、ホーム画面への配置を義務付ける等により新規参入や技術革新を阻害すること」として説明されている。

http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/aug/160802.files/160802_keitai_point.pdf

*7:2015年国内携帯電話端末出荷概況 « ニュースリリース | 株式会社MM総研

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(3)内容

 前回、前々回の記事の続きです。

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(1)報道 - 競争政策研究所

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(2)形式など - 競争政策研究所

 

今回は第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書 」*1(以下、「報告書」と言います。)の内容について、ついに考察したいと思います。

 

 

(1)囲い込み

 報告書P9に「実態」として下記の記載があります。

ウ) アプリ間で共通の仮想通貨の禁止
 スマートフォン上でアプリストアを運営する事業者は、自らのアプリストア上であるアプリ提供事業者が複数のアプリを提供している場合に、当該アプリ間で共通して使える仮想通貨(共通通貨)を設けることを認めていない場合がある。
 このため、ユーザーはアプリ間で互換性のない専用通貨(あるアプリでのみ使用できる仮想通貨)を用いざるを得ず、利便性を害されている可能性がある。一方で、アプリ提供事業者からすれば、共通通貨を用いて自社の提供するアプリ群にユーザーを囲い込むことができなくなっている。 (報告書P9から10)

また、「評価」の項目にも下記の記載があります。

ユーザーをあるアプリ群に囲い込むことができれば、そのアプリ群が既存プラットフォームの上に存在する新たなプラットフォームとして機能することがあり得る。(中略)アプリストア事業者は、特別な地位に基づき、アプリ提供事業者によるユーザーの囲い込みを妨げているとすれば、自らのアプリストアと競合するような新たなアプリ提供プラットフォームの誕生を阻害することで、競争相手を排除する市場支配力を持ち得ると考えられる。(報告書P12から13)

このように、なぜかアプリストア事業者(アップル、グーグル)は、アプリ提供事業者に対して、囲い込みを許さなければならない前提となっています。他方、アプリストア事業者にって、決済手段の拘束(報告書P9のア)や競合するアプリの排除(報告書P10のエ)を用いて「囲い込み」をすることは、問題視しているようです。

やや誇張して表現しましたが、アプリストア事業者が取引先(アプリ提供事業者)に顧客(エンドユーザー)の囲い込みを認めることは、当然の前提では無いように思えます。「競争法」の観点からすれば、「囲い込み」といった行為は競争促進的な効果もあり、個々に競争上の評価がなされる類型です。

 アプリストアに関する報告書の評価は、電力市場における送配電事業と電力小売事業のように、一方がいわゆる不可欠施設を保有している関係に類似していると感じられます。このような、私企業が自ら投資を行った結果として獲得した競争上の優位性(アプリストアのシェア、利便性、不可欠性)を放棄させることが、長期的に見て社会厚生上の効果があるのかは疑問です。

競争法の観点で言葉を修正すれば、以下となると考えられます。

アプリストア事業者は、特別な地位に基づき、アプリ提供事業者によるユーザーの囲い込みを妨げることによって、自らのアプリストアと競合するような新たなアプリ提供プラットフォームの誕生を阻害することで、競争相手を排除し、結果、市場支配力を形成、維持、強化する場合は、競争法上の問題となると考えられる。

つまり、囲い込みを妨げること自体が問題ではなく、囲い込みを妨げることによって競争相手(潜在的競争相手を含む)を排除することが問題となり得ること(行為要件)、そして、市場支配力の形成、維持、強化という意味で市場への影響が生じること(効果要件)が判断要素となるはずです。

なお、このような記載は、仮に、今後、日本初のプラットフォームが高いシェアを有した場合でも、「取引先に囲い込みを許すべきである」という理屈になり、日本の産業政策の観点からは、ブーメランのように負の影響をもたらすかもしれません。

(注)囲い込みの点は報告書を一読して相当な違和感を感じましたが、考察の結果が中途半端となっているので、加筆、修正する可能性があります。

 

(2)「自らの提供するアプリと競合するアプリの排除」

報告書10頁に、「調査等で確認された具体的な取引の実態」として、下記の記載がありました。

エ)自らの提供するアプリと競合するアプリの排除

アプリストア事業者が、自らアプリの提供も行っている場合において、当該アプリ ストアを利用する他のアプリ提供事業者に対し、アプリの審査基準において、当該 アプリの機能を制限することにより、自らが提供しているアプリと競合するアプリの提供者が競争上不利になる場合があり得る。 (報告書P10。下線は引用者による。)


このような行為は、競争法上問題となるおそれが高いと考えられます。
しかし、他の項目の語尾をみると、「収入の30%程度の手数料を徴収している場合がある」(報告書P9)、「価格表を変更された事例も存在する」(同P9)などとあり、「場合がある」などとする記載が多い一方、「自らの提供するアプリと競合するアプリの排除」は場合が「あり得る」として明確な差を設けています。「場合があり得る」との記載は、「実態」としては不明確であるばかりか、単なる推測なのか、一定の事実が確認された上での可能性の指摘なのかさえも判然としません。

 

(3)今後の取組

報告書上、競争政策の課題は、(1)プラットフォーマーによる取引の実態と課題(報告書P7以降)と(2)第四次産業革命に対応した運用・制度の検討、の2点となっています。

課題(1)については、「取引状況の注視と適切な法執行」が「当面の取組」となっています(報告書P14)。課題(2)についての今後の取組等は下記のとおりです。

【基本的方向性:中長期的な取組】

– デジタル市場における理論的検討

公正取引委員会において行われるデジタル市場における経済環境や市場の変化を踏まえた検証をみつつ、経済産業政策を所管する立場から必要に応じた協力・検討を行う。

– 公正な競争環境を確保しイノベーションを促進するための新たな政策の検討

デジタル経済の特性を踏まえ、公正な競争環境を整備し、更なるイノベーショ ンを促進していくためにはどのような政策が必要か、産業の振興の観点から、独占禁止法にとらわれない新たな制度の導入等について広く検討する。

(下線は引用者による。)

 このように興味深い表現が存在します。ただし、課題(1)の実態調査が報告書の8ページを占めているのに対して、課題(2)は2ページに過ぎず、力の入れ具合は不透明です。

 

(3)−1 公取委における検証

何の説明や前振りもなく、公正取引委員会においてデジタル市場における検証を行われることが記載されています。「検証」とあるので、事件審査ではないと考えられますが、何が実施されるのか興味深いところです。

(3)−2 新たな制度の検討

報告書では、欧州委員会のデジタル単一市場戦略について触れられているものの、「新たな制度」については、詳細には述べられていません。公表されている研究会の議事概要によると、下記の記載がありました。

具体的な内容は不明ながら、プラットフォーマー関係の特別法の可能性もあるようです。また、特別法の立法による圧力を通じて、公取委の執行を促す意図の可能性もあります。

 

* 公正取引委員会が10年ほど前に主催したマイクロソフトの独占問題に関する議論では、一般法である独禁法として取り組むには限界があり、特別法をつくることではどうかという議論があった。かつての電気通信事業法のように、ネットワーク効果を持つものについて特別法を作ることも一案か。

* 特別法は、方法論としてどうかという観点はあるも、迅速さ・スピードの点では有意だと感じる。

(出典)第四次産業革命に向けた横断的制度研究会(第2回)‐議事要旨(METI/経済産業省)

 

なお、個人的には、ガイドラインの変更や現行法に基づく法執行が迅速性の点では優れていると感じます。国会にて可決が必要な「特別法の制定」が、「迅速さ・スピードの点では有意」との詳細は分かりません。

 (了)

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(2)形式など

前回の記事の続きです。

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(1)報道 - 競争政策研究所

 

今回は第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書 」*1(以下、「報告書」と言います。)の内容(ただし、主に形式面)について検討したいと思います。

 

(1)概観

肯定的な意味でも、否定的な意味でも、経済産業省らしい報告書との印象です。

第四次産業革命」の意味が必ずしも判然としないものの、「IoT、ビッグデータ、ロボット、人工知能(AI)等による技術革新」を指すようです。*2

しかし、報告書で主に取り上げられている内容が必ずしも「第四次産業革命」につながるとは感じられません。報告書では、競争政策、データ利活用・保護、知的財産の3点が取り上げられていますが、競争政策が第1番目であり、かつ報道されている課題は主に「アップル税」(アプリストアの3割の手数料です。)です(前回の記事を参照)。そのような課題の解決と「第四次産業革命」の論理的つながりは薄いように思われました。つまり、アップルのアプリストアの手数料が引き下げられたからといって、第四次産業革命が加速するとは思えません。むしろ、アップル社の利益が減少することによって投資が減少し、技術革新を阻害する方向に働く可能性すらあります。

本来は「データ利活用・保護」の項目が「第四次産業革命」との関係が比較的強いように思われます。うがった見方をすると、「アップルがけしからん」ということに触れるために、「第四次産業革命」を利用したようにも見えます。

 

(2)用語

「プラットフォーマー」や「GAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon) 」といったバズワードが利用されていることが目につきました。ただし、これらのワードは「新産業構造ビジョン中間整理」で既に使われてているようです。*3
GAFA」は欧米の公的機関の報告書ではそれほど多く見ないように思います。技術革新とともに「wintel」のように使用頻度が減少するのではないかと思います。

「プラットフォマー」はあまり聞きなれない言葉かと思いましたが、和製英語のようです。Platformerとは英語では「informal term for platform game」*4というプラットフォームゲームの俗語のようです。*5

海外において、英語でそのまま「プラットフォーマー」と発言してしまうと、相手方は困惑するのではないでしょうか。


(3)実態と評価

報告書P8からは、「(b)調査等で確認された具体的な取引の実態」が記載されています。またP11からは、「(d)現状の評価」となっています。このように構成としては、実態と評価を峻別する意図があったようです。しかし、「実態」の箇所でも、評価的な記載が散見されます。

例えば、下記です。

ア) 決済手段に対する拘束

(中略)

なお、研究会において、決済手段の拘束については、「電子商店街等の消費 者向けeコマースにおける取引実態に関する調査報告書」(平成18 年公正 取引委員会)における記載との類似性を指摘する意見があった。すなわち、同報告書では、合理的理由なく、電子商店街への出店事業者が直接クレジットカード会社との間で決済を行うことを禁止し、電子商店街の運営事業者がクレジットカード会社との決済を行う方法を義務付け、その結果、直接決済を行う際の手数料率を上回る手数料率を設定することにより出店事業者に不当な不利益を課す場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上の問題につながるおそれがある旨が指摘されているところ、決済手段を拘束することで事業者に不当な不利益を与えている点では同じではないかとの意見があった。他方で、アプリストア事業者が課す手数料率について合理的と考えている事業者も存在するなかで、当該手数料率が不当な不利益に該当するのかは検討を要するとの意見もあった。

 

オ) 販売や返金処理等に関する情報提供の少なさ

ユーザーがアプリやアプリ内のデータ等を購入した場合には、基本的にはユーザーとアプリ提供事業者との間での契約が成立していると考えられ、アプリストア事業者は契約当事者とはならない。しかし、アプリストア事業者は、アプリ提供事業者との間で、アプリ提供事業者に代わって代金をユーザーに払い戻すことができるという条項を含む契約を締結している場合がある。 こうした返金システムは、ユーザーからすれば、どのアプリに関する返金であっても、 アプリストア事業者に請求することで容易に返金を受けることが可能となるので、消費者の利便性の向上に資するものと評価することができる。(下線は引用者による。)

 

敢えて方向づけの目的や議論のごまかしのために実態と評価を混合しているのかもしれませんが、結果的に、報告書の構成が分かりにくくなったように感じられます。

 

次回は内容面を検討したいと思います。

 

2016年10月1日誤字を修正。

旧 バスワード

新 バズワード

 

 

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書:(1)報道

経済産業省が「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会 報告書 」*1を公表しました。(以下、「報告書」と言います。)

関連のブログ記事 デジタル関連分野への注力 - 競争政策研究所

 

今回は、報告書ではなく、報告書に対する次の記事について検討したいと思います。報告書についても別途検討予定です。

www.nikkei.com

 

記事の概要は以下の通りです。

「アップル税」などのプラットフォーマー関連の問題がある。

その解明には守秘義務契約が障害であり、これまで一度も発動されたことがないとされる公取委の伝家の宝刀の「40条調査」を利用することも意見もある。

なお、「40条調査」と類似のものとして、欧州委員会等も業界全体を調査している。

専門誌による公取委の「国際的な評価が低下」しているが、杉本委員長の残り1年半の任期で「見返す時間はまだ十分ある」。

 

記事については評価する声もある模様です。

 

 

しかし、記事の内容や構成に疑問があります。

 

(1)アップル税

「アップル税」と見出しにあるとおり、記事は30%と言わるアップルのアプリストアの手数料を中心に問題視しています。

しかし、手数料率の妥当性の判断や優越的地位の濫用の該当性判断は難しいと考えられます。報告書でも、手数料率を含む「決済手段に対する拘束 」について、優越的地位の濫用に該当するおそれを指摘しつつも下記のとおり記載しており、一定のバランスに配慮していることがうかがわれます。

 

他方で、アプリストア事業者が課す手数料率について合理的と考えている事業者も存在するなかで、当該手数料率が不当な不利益に該当するのかは検討を要するとの意見もあった。

出典:報告書P

 

そもそも、販売手数料の適正な水準は一般化することは難しいと考えられます。

 中小企業であっても「わずか」30%の手数料で、国内あるいは海外を含めた多数の顧客に販売の可能性があるとするか、30%「もの」手数料により不利益を受けるのかは、一様に判断できるものではないと考えられます。

例えば、広告主から依頼を受けて新聞販売業者に取り次ぐことについて、「実勢より低い23パーセント」とするものがありました*2。このような例からしても、直ちに30%という手数料率の水準が問題となるとの情報は確認できませんでした。

 

高い手数料率については、市場支配力の行使(独占的利潤の獲得)であり、独占禁止法や各国競争法が主として問題視する「市場支配力の形成、維持、強化」ではないと考えられます*3

つまり、アップル(及びグーグル)が、能率競争によって得た独占的地位に基づき、アプリ事業者から利潤を得ているというものです。

 

なお、記事では

公取委内では「民民の契約で決まっていること。事件化のハードルは高い」という声も少なからずある。

とされています。

しかし、再販売価格の拘束なども「民民の契約」ですが、独占禁止法条の問題となり得るものです。「公取委内」の声の、趣旨としては、「アップル等が一方的に課しているものではなく、双方が納得して契約しているとも考えられるため、優越的地位の濫用で問題とすることは困難な側面がある」とのものかと考えられます。

 

(2)守秘義務契約と40条調査

上記の「アップル税」は、契約書上も明らかであり、インターネット上にも多くの情報はあります*4

 

記事では、「アップル税」以外にプラットフォーマーの問題全体について具体的に触れていないので、なぜ守秘義務契約により実態解明が困難となるのかわかりにくくなっています。

もちろん、「アップル税」の実態(個別企業により増減があるのか)といった把握のためには、各アプリ提供事業者に独占禁止法40条の権限に基づく調査をすることはあり得ますが、むしろまずアップルに対して同調査をすることが重要ではないでしょうか。この場合は、権限が必要であろうことは予想できますが、アップルとアプリ提供事業者の「守秘義務契約」が障害となるわけではないと考えられます。

 

(3)国際的評価

まず、記事の公表後に訂正がなされています。訂正点は下記の下線部です(下線は引用者によるもの)。

 

(訂正

国際評価が低下

 公取委に危機感を抱かせる出来事もあった。世界各国の当局を格付けする専門誌「グローバル・コンペティション・レビュー」で今年、公取委の評価が下がったのだ。

 昨年は星5つの最高点を達成したが、今年は星4.5。反対に、日本に追いつけ追い越せで体制を強化してきた韓国公取委は星5つに昇格し、追い越されてしまった。

 

(訂正

国際評価が低下

 公取委に危機感を抱かせる出来事もあった。世界各国の当局を格付けする専門誌「グローバル・コンペティション・レビュー」で今年、公取委の評価が下がったのだ。

 今年は星4.5。反対に、日本に追いつけ追い越せで体制を強化してきた韓国公取委は星5つに昇格し、追い越されてしまった。

 

訂正のコメントは次のとおりです。

<訂正>16日3時30分に掲載した「公取委、宝刀抜けるか アプリ決済『守秘』の壁(真相深層)」の記事中、公正取引委員会の昨年の格付けが「星5つの最高点」とあるのは「星4・5」の誤りでした(2016/9/16 20:45

 

 

しかし、「国際評価が低下」との見出しや「世界各国の当局を格付けする専門誌「グローバル・コンペティション・レビュー」で今年、公取委の評価が下がったのだ。」との記載は変わっていません。おそらく、「「世界トップクラスだが最近評判が危ぶまれている」との専門誌評」を指して、「評価の低下」であると強弁しているものと推測されます。

しかし、記事における写真解説の「公取委格付けが下がった今年の専門誌」(下線は引用者による)の記載は訂正されていません。

f:id:japancompetitionpolicy:20160918084448p:plain

 

韓国の「昇格」についても、日本と「反対に」韓国が昇格したと記載しており、日本が格下げしていないと、違和感のある記載となっています。

 

なお、単なる専門誌の格付けを議論することが適切であるか否かは措くとして、公取委の存在感について、記事に引用されている「もっとアグレッシブにならないと日本市場の存在感低下に拍車をかける」という声については、同意できるものです。

つまり、既に公取委の存在感は低下した状況であり、積極的な活動・措置がないとさらに存在感が低下するということかと考えています。

*1:

第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書を取りまとめました(METI/経済産業省)

*2:

多摩新聞販売同業組合に対する件(平成4年(勧)第5号)

http://snk.jftc.go.jp/JDSWeb/jds/dc005/DC005?selectedDocumentKey=H040318H04J02000005_

*3:このため、優越的地位の濫用でしか問題視しにくいという点はその通りかと思います。

*4: 例えば、 

http://japanese.engadget.com/2016/06/08/app-store/

(記事紹介)なぜ日本人ばかりが米国で投獄されるのか?

今回は次の記事を紹介したいと思います。

business.nikkeibp.co.jp

 

よくある米国弁護士による自動車部品カルテルの感想や日本企業のコンプライアンス体制へのコメントのようでしたが、いくつか面白いコメントがありました。

 

アンカー・カプール氏(以下カプール:(中略)実のところ、私は司法省が発表している規模で価格カルテルが行われていたとは思っていません。対象となっている部品の種類、関与した企業の数、実際にカルテルをしていたとされる期間の長さを考えても、それだけの規模と期間で価格を操作し続けるのはとても難しいと思います。

司法省が言うほどにはカルテルが存在していないと?

カプール:いくつかの価格操作は実際にあったでしょう。ただ、実際に起きたことのかなりの部分は日本のビジネス文化や慣習と、米国で反トラスト法を執行する際のコンフリクト(衝突)によるものだと考えています。

 

「いくつかの価格操作は実際にあったでしょう。」とは逆に言えば、価格操作に該当しないような行為に対する執行があったことを示唆しています。

 

なぜ日本企業ばかりが槍玉に挙がるのだと思いますか?

カプール:それは分かりません。自動車部品に関していえば、自動車部品業界の有力メーカーの大半が日本企業だというのもあると思います。ただ、ご指摘の通り、業界には日系企業以外もあります。金融サービス業界でも同様の反トラスト法違反がありましたが、金融サービス業界で刑務所に入れられた人はいません。

 金融サービス業界との比較でいえば、自動車部品業界では自発的に司法取引を行い、収監するされる関与者が多い可能性もあります。

 

刑事において、価格操作はそれ自体が犯罪です。言葉を換えれば、価格操作があったという事実やその影響を証明する義務が政府になく、企業がカルテルを認めてしまえば、それで反トラスト法違反が確定してしまう。ただ、この状態は法の過剰執行につながりかねず、ちょっと行きすぎです。価格操作それ自体が違法という規定はいずれ廃止されるべきだと私は思います。

カルテルにおける当然違法の原則が批判されることは珍しい気がします。 

 

ちなみに、アンカー・カプール弁護士はANAの航空運賃カルテル事件にも関与したようです。

Ankur has been co-lead counsel for All Nippon Airways Co., Ltd. (ANA) in a class action alleging price fixing of passenger airfares following a resolved Department of Justice investigation. He has also been involved in major non-antitrust commercial litigation.

constantinecannon.com

デジタル関連分野への注力

前回のアマゾンジャパンに対する立入報道の関連です。

最恵国待遇条項 - 競争政策研究所

 

このようなデジタル関連分野への公取委による注力はどのように示されているでしょうか。主に法執行面から検討したいと思います。

 

まず、直近では「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」(平成28年6月2日 閣議決定)において、下記の記載があります。

エ)公正かつ自由な競争を確保するための実態把握と厳正な法執行

・デジタル技術の進展、新たなビジネスモデルの登場など市場支配力も含めた産業構造が大きく変化する第4次産業革命が進展する中、デジタル市場における公正かつ自由な競争環境を確保し、イノベーションを促進する観点から、関係省庁が協力しつつ、同市場における取引実態を把握するための調査を行う。また、デジタル市場において市場支配力を有する事業者が公正かつ自由な競争をゆがめていないかを経済環境や市場の変化を踏まえて検証する等により、独占禁止法に違反する事実が認められた場合には、これに対して厳正・的確な法執行を行う。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/zentaihombun_160602.pdf

 このように、政府全体として、デジタル市場における積極的に措置を行うことが示されています。

このうち、「関係省庁が協力しつつ、同市場における取引実態を把握するための調査を行う。」という点については、経済産業省公正取引委員会による共同ヒアリング調査を意味するものと考えられます。

(平成28年2月10日)オンライン関連事業に関する共同ヒアリング調査について:公正取引委員会

 

この共同ヒアリングについては、興味深い記事もありました。

犬猿の仲といわれる経済産業省とも手を組んだ。昨年暮れに杉本委員長が経産省の菅原郁郎次官とひそかに接触。プラットフォーマーの実態を把握するため、共同調査を進めることで一致した。

標的はアップル 公取委・経産省が異例のタッグ :日本経済新聞

共同ヒアリングは、トップダウンで、かつ杉本公正取引委員会委員長からのイニシアティブで進められたことのようです。

 

次に、杉本委員長によるデジタル関連分野に関してのメッセージについて、杉本委員長就任後の講演等から検証します。

委員長講演等:公正取引委員会

 

平成25年3月の就任時から、平成26年の年頭所感までは、デジタル分野について、目立った言及はありません。

平成27年の年頭所感では デジタル分野について一定の言及があります。しかし、一般論であり、事件調査との関係では明示的には触れられていません。

2.競争環境の整備は,成長戦略でも今後成長が見込まれる分野とされている社会福祉,農業,医療,エネルギー,インフラ等の分野において特に重要な課題です。また,デジタルエコノミー,知的財産といった技術革新分野は,経済発展を牽引するイノベーションが見込まれる一方で,極めて早いスピードで市場環境が変化しており,競争政策においても,より複雑化する実態を見極め,競争環境を適切に整備していくことが求められるところです。

平成27年 年頭所感(平成27年1月) :公正取引委員会

 

しかし、平成28年の年頭所感では下記の記載があり、デジタル関連分野について、明確な問題意識を有し、積極的な調査・措置を行う意図を示しています。

現在の経済社会の動向に目を向けますと,グローバル化,デジタルエコノミーの進展,規制改革の進展に伴い,各国において新しいビジネスモデルが次々と創出され,経済取引も変化を遂げています。
 このような環境の下で,当面,競争政策上の課題は二つあると考えられます。(中略)また,二つ目の課題は,イノベーション推進のために競争政策をいかに運用していくかという点です。知的財産権と競争確保の関係は大きなポイントであり,このほか,情報通信技術やデジタル化の進展に伴うビジネスモデルの変化に対し,競争政策をどのように適用するかも重要な課題です。

(中略)

二つ目の課題については,(中略),強大な市場支配力を用いて新規参入を排除するなどにより,更なるイノベーションを阻害するような単独行為による反競争的行為についても,積極的かつ効果的に対処していきたいと考えております。

平成28年 年頭所感(平成28年1月):公正取引委員会

 

また、前述の日経新聞記事には平成27年にタスクフォースを設置したとの情報もあります。

公取委の杉本和行委員長もプラットフォーマー対策を「最優先事項」と語り、昨年から少数の職員を選抜してタスクフォースを設置。アップルやグーグルなど取引先企業に内偵調査を始めていた。

標的はアップル 公取委・経産省が異例のタッグ :日本経済新聞

 

このような情報を総合すると、デジタル市場に関して次のストーリーが考えられるかもしれません。杉本委員長は、平成27年から問題意識を明確化し、タスクフォースを設置したり、経済産業省との共同ヒアリングを計画・調整するなどして準備を行っていた。平成28年年頭には、デジタル市場に対する明確な方向性を示しつつ、2月に共同ヒアリングを開始し、8月にアマゾンジャパンに対する本格調査を実施するなど行動を活発化させた。

 

以上のように推測してみたものの、IT、知財、デジタルエコノミー関連分野を公取委が注視していくことは過去から示されていました。平成13年には既に「IT・公益事業タスクフォース」が存在していたようです(現在の改廃は不明。)。

 

公正取引委員会では,このような電気,ガス,電気通信事業分野における累次の 制度改正を踏まえ,これらの分野における公正かつ自由な競争の促進を図る観点か ら,平成13年4月に「IT・公益事業タスクフォース」を設置した。これにより, 違反行為に対する監視を強化し,既存事業者による新規事業者の参入阻害行為など の独占禁止法違反が認められた場合には厳正に対処することとしている。

出典:公益事業分野における相互参入について(平成17年2月 公正取引委員会事務総局) 太字は引用者による。

http://www.jftc.go.jp/dk/kiseikaikaku/kisei_kako.files/050218hontai.pdf

 

 

 

 

最恵国待遇条項

アマゾンジャパンに公取委が立ち入りをしたとの報道がなされています。調査の対象となったのは、「最恵国待遇条項」と称されるもののようです。具体的には下記となります。

「今回の公取委の調査の対象となっているとされる取引条件は、『最恵国待遇条項(most-favored-nation clause)』(「MFN条項」)等と呼ばれているものです。

これは、アマゾンの通販サイトでの販売価格が、ライバルである他の通販業者等の通販サイトでの販売価格よりも高くならないこと(アマゾンで買うのが一番安いか、少なくとも他で買うのと同じ価格であること)を、出品者に対して約束させるものです」

アマゾンが販売業者に「安価設定」要求…公取委はなぜ立ち入り検査に踏み切った? - 弁護士ドットコム

 

最恵国待遇条項について、報道のみでは独占禁止法上または競争法上、なぜ問題となり得るか、つまりどのような競争に対する悪影響が生じ得るかが理解しにくい面があります。簡潔にまとまったものとしては、

中野清登. (2015). ビジネスを促進する 独禁法の道標 (第 22 回) 最恵国待遇条項が競争に与える影響. Business law journal, 8(11), 72-81.

となります。

本論文では、最恵国待遇条項の反競争性を下記の2点として説明しています。

(1)競争者の排除または新規参入の阻止

既存事業者(A)とその上流の事業者(B)の間に最恵国待遇条項が存在することにより、新規参入者が上流の事業者(B)から安価に調達することができず、結果、既存事業者(A)の存在する市場に参入することが困難となる。

(2)協調的行動の促進

ある市場(川下市場)の競争者が並列的にその上流の事業者との契約に最恵国待遇条項を取り入れている場合、この上流事業者は一社との間で値下げすると他の取引先(川下)にも値下げする必要が生じ、値下げのインセンティブが低下する。上流に複数の事業者が存在し、それぞれ下流との契約に最恵国待遇条項が含まれていて、値下げのインセンティブが低下していることを互いに認識していた場合、上流の事業者間で価格の維持や値上げといった協調的行動が促進される可能性がある。

 

ただし、本論文は最恵国待遇条項の一般論を述べていますが、プラットフォーム関連の事案として考える場合は留意が必要な箇所があります。(2)の点は、卸売価格への影響に見えるものの、アマゾンのマーケットプレイスやホテル予約サイトといったプラットフォーム型(代理店モデル)の取引の場合は、小売価格に直接影響するものと考えらえます。

 

より端的には下記の白石教授のツイートが示しています。

  

 ところで

中野清登. (2015). ビジネスを促進する 独禁法の道標 (第 22 回) 最恵国待遇条項が競争に与える影響. Business law journal, 8(11), 72-81.

 

 では興味深い記載がありました。

公取委の執行はカルテルが大半であり)公取委最恵国待遇条項のような新規性が高い行為態様への法執行について慎重であると思われる。また、最恵国待遇条項は効率性の向上に資する場合があるため、最恵国待遇条項についての法執行においては、反競争性と効率性の向上のそれぞれについて慎重な判断が必要であるところ、その判断は容易ではない。そのため、公取委が近い将来に最恵国待遇条項の反競争性に着目した摘発を行う可能性は低いと思われる。

 

 未だ措置という意味で法執行はなされていないものの、「摘発」との言葉からは著者は公取委の立入調査も消極的に予想していたのではないかと考えられます。

これは、予想が外れたことを批判するのではなく、当時としては合理的な予想であったが、状況が変化したことを示唆するものとして考えています。

 

以下のような指摘もありました。

(注)2016年6月17日付で、山本佐和子審査局長が就任しています。 

http://mainichi.jp/articles/20160615/ddm/008/060/154000c

 

教科書事件と警告・確約制度

「義務教育諸学校で使用する教科書の発行者に対する警告等について」の公表に際して、平成28年7月6日に事務総長定例会見が行われました。

 

平成28年7月6日付 事務総長定例会見記録 :公正取引委員会

 

総長定例会見の中で興味深い発言があったので紹介したいと思います。

なお、事件については下記を参照してください。

(平成28年7月6日)義務教育諸学校で使用する教科書の発行者に対する警告等について:公正取引委員会

 

(1)排除措置命令と警告

本件については、明確な発言はありませんが、排除措置命令を行うことも可能であったが、迅速な措置の観点から警告を行ったように感じられます。

例えば、下記の発言です(太字は引用者による。)。

この件につきましては,先ほど申し上げましたように,認め得る行為があったというふうには我々としては考えておりますが,他方で,先ほど申し上げましたように,まず第1に9社という,教科書発行者は22社というふうに理解しておりますが,そのうち9社という多くの教科書発行者が本件問題行為をしていたということでございますので,できるだけ早く本件の問題の処理を通じて公正取引委員会としての考え方を示して,この分野における公正で自由な競争を確保するということが何よりも私ども大事だと考えたところであります。

「先ほど申し上げました」がどの部分であるか判然としませんが、本件においては公取委として独禁法違反を認定し得る行為が存在したたようです。

繰り返しになりますけれども,公正で自由な競争を確保するという独占禁止法の目的,私ども公正取引委員会に与えられた使命を果たすために,どのような対応が個別の問題,本件問題について一番効果的で厳正な措置となるかということから,私どもとしてこの措置,警告の措置を採ったところであります。

独禁法違反を認定することも可能であったにもかかわらず、迅速的・効果的かつ厳正な措置の観点から、公取委が警告を選択した模様です。

 

会見の参加者もそのように受け止めていることが見受けられます。

(問) 冒頭に御説明いただいた,警告を打ったのは,できるだけ早く現状を是正させることが大事だからという判断だとおっしゃいました。

 

また、措置に関して、排除措置命令は命ずることが「できる」規定であり、特に既往の行為については、「特に必要があると認めるときは」命ずることができるものであるという制度であることを踏まえて、行政指導である警告にしたことが示唆されております。

これは例えば独禁法そのものにも,もうやめている行為,いわゆる既往の行為については,私どもの排除措置命令については,特に必要があるときに,排除の確保をするために,あるいは再発防止のために特に必要があるときにできると,こういう独禁法の建てつけからいっても,何が何でも白黒つけて調査をして詰めて,白黒して法的措置を採るのは,多くの場合,それが一番相手方にとって改善を促すという意味にとって効果があるというのはおっしゃるとおりですが,本件のように,もう文部科学省の指導があり,あるいは業界団体の自主的な努力もあって,問題の改善の方向に動きつつあるときに,公正取引委員会,しかもルール基準について案が示され,私どもとしてもその案について実効あらしめる観点から,意見を求められたときに,今おっしゃったような法的措置が一番厳正な措置であるという判断は私どもはしておりません

 

しかし、排除措置命令(行政処分)が「特に必要である」と認められないにもかかわらず、警告(行政指導)が必要である状況がどのようなものであるのかは判然としません。
また、日本の法令上、警告とは、「法第三条、第六条、第八条又は第十九条の規定に違反するおそれがある行為がある又はあったと認める場合」(公正取引委員会の審査に関する規則(平成十七年十月十九日公正取引委員会規則第五号)26条)の措置です。すると、法令上、警告の対象は違反する「おそれ」のある行為に限定されており、違反行為を認定し得る(できる)行為を対象にできるとは直接的には規定されていないと考えられます。

 

(2)警告と確約制度

本件の警告は、EU等で導入されている確約制度に類似した措置であることが示唆されています。

確約制度はTPPにおいて導入が必要とされており、日本としても制度改正が必要なようです。*1

その確約制度と共通する考え方を持って、本件の処理になった模様です。もちろん、事務総長としても、確約制度と警告が異なるものであることは認識しているようです。

警告では法律的な担保がないこと、公取委からの一方的な行為であることなどを踏まえると、確約制度と通底する考え方があると直ちに考えることはできないとは思います。しかし、本件の処理は確約制度の事実上のモデルケースとなり得るかもしれません。

それから,これもあまりこういう比較もどうかと思いますけども,諸外国で取り入れられてる自主的な解決の制度,EUの確約等も,やはり相手が改善措置を採るのであれば,速やかな確約という措置を採ろうということで,今回の,今私が申し上げた考え方と背景的には一致するところがあると。制度として全く違いますけれども,考え方としては共通するところがあるというふうに私個人は考えております。

本件の処理からの示唆としては、第一に、カルテル、談合は確約の対象外ということが改めて示されたようです。

 繰り返しになりますけれども,課徴金,この場合の27年度の執行状況のときも少し申し上げたかもしれませんが,法的措置というのは非常に厳正で,カルテル,談合を抑止するために最も効果があるというのは私ども信じておるところでございますが,他方で,常にそうかというのは,必ずしもそうではないというのが私どもの考え方でありまして,この問題もその一つの例であると思います。

もともと、価格カルテル、入札談合等は確約制度の対象外と説明されてきました。*2

 

第二に、全体としての、競争回復の状況を踏まえて判断されることが示唆されています。本件では、文部科学省の指導や業界団体の自主的な努力による状況の改善傾向を考慮した模様です。また、既に取り止められた行為(既往の行為)であることも考慮された可能性があります。

これは例えば独禁法そのものにも,もうやめている行為,いわゆる既往の行為については,私どもの排除措置命令については,特に必要があるときに,排除の確保をするために,あるいは再発防止のために特に必要があるときにできると,こういう独禁法の建てつけからいっても,何が何でも白黒つけて調査をして詰めて,白黒して法的措置を採るのは,多くの場合,それが一番相手方にとって改善を促すという意味にとって効果があるというのはおっしゃるとおりですが,本件のように,もう文部科学省の指導があり,あるいは業界団体の自主的な努力もあって,問題の改善の方向に動きつつあるときに,公正取引委員会,しかもルール基準について案が示され,私どもとしてもその案について実効あらしめる観点から,意見を求められたときに,今おっしゃったような法的措置が一番厳正な措置であるという判断は私どもはしておりません 

 

第三に、排除措置命令のみならず、課徴金納付命令の対象にもなっていることが、確約制度の利用の如何に関連する可能性があります。

前記の発言で、既往の違反行為に対する排除措置命令の条文に言及されていることも興味深いです。

独占禁止法

(排除措置)
第七条
 第三条又は前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。
(2)公正取引委員会は、第三条又は前条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、第八章第二節に規定する手続に従い、次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなつた日から五年を経過したときは、この限りでない。

 

課徴金納付命令は、排除措置命令とは違い公取委に裁量はありません。

(課徴金、課徴金の減免)

第七条の二

 事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない

 

このような条文の相違を踏まえると、課徴金納付命令の対象とならない行為については、確約制度の対象になりやすい、つまり公取委が確約制度による措置を提案する可能性が高いかもしれません。この、第三の点はやや根拠が薄く、推測による部分が大きいです。